第144話「元魔王、アリスの妹の消息を知る」

 ──ゴーレムの『フィーラ』の話──





 お話しいたします。

 自分は、主人であるミーア=カーマインと、ここで出会ったです。


 ……そうです。

 自分はこのフロアで眠っていた、古ぼけたゴーレムだったです。

 それを……ミーアさまが目覚めさせてくれた……です。

 あの方は、とても魔力が高く、賢かったですから。


 そうして自分はミーアさまの護衛になったです。

『聖域教会』の中には、賢者さまとその家族を、よく思わない者もいたですから。

 そういう人たちからミーアさまを守るのが、自分の仕事だったです。


 ──え?

 ミーアさまが、ここで幸せだったか、ですか?

 わからないです。

 ゴーレムに、人間の感情は、わからないです。


 ただ、ミーアさまは、いつも『フィーラ』に語りかけていたです。


『いつか、お父さんとお母さん、お姉ちゃんがいた村を見てみたいなぁ』──と。


 話を進めるです。

 自分も、いつまでこうして話ができるかわからないですから。

 ここが閉鎖された日のことをお伝えするですよ。


 この第5階層が閉鎖された、あの日。

 賢者ライル=カーマインさまとその仲間は行動を起こしたのです。


 賢者さまは『封印の古代魔術』によって、他の『古代器物』を封印していたです。

 そんな魔術があることを、『聖域教会』の連中には隠していたですね。

 しかも賢者さまは、『魔物巨大化システム』も破壊しようとしていたです。


 でも、それには失敗しました。

 だから賢者さまとその仲間は、このフロアを封印することにしたですよ。


 その直後、賢者さまの行動を知って『聖域教会』の連中は──────



 ──おや。

 記憶が飛んでいるです。



 賢者さま──第1司祭──生と死──。


 生命を超えるもの──禁断の『王騎ロード』──かたちのないもの──。


 禁断を超えるもの──超越の『王騎ロード』──大いなる翼を持つもの──。



 ──わからないのです。

 フィーラの記憶は、一部、欠損してしまっているのです。



 ──え?

 わかることだけ話してくれればいい、ですか?

 ありがとうございます。


 ミーアさまの関係者──上位者は、とても親切。

 自分はミーアさまの護衛になれて、幸せ。


 ……あの日の話を続けるです。


 賢者さまたちは、この第5階層を封印する手はずを整えて、脱出したです。

 その背後を守ったのが、自分と、仲間のゴーレムだったですよ。


 地上に出たあと、賢者さまと奥方とお仲間は、身を隠すことになっていたです。


 裏切ったとはいえ、あの方たちも、『聖域教会』に名を連ねていたですから。

 安全のために、隠れ住むことを考えていたらしいです。


 本当は、あの方たちは──故郷の村に戻りたかったそうです。

 でも、戻ったら『聖域教会』の連中が村になにをするかわからないです。

 それに……あの方たちにとって『村』とは、場所のことではなかったです。


 大事な人──『ディーン』というお方がいる場所が、あの方々の村だと──

 そんな話を、何度も聞いたのです。


 だから賢者さまたちは、隠れ住むことにしたそうなのです。

 ただ、ミーアさまには日の当たる場所で生きて欲しいと思ってらしたです。


 地上にも賢者さまたちの理解者はいたです。

 とある商会を頼ろうという話もあったですが、あちらは、大切な人のための組織なので、関わらないことにしたそうなのです。迷惑を、かけたくなかったからですね。


 理解者とは、とある地方の貴族でした。

 こっそりと連絡を取り合って、力を借りていたようですね。

 ミーアさまは『コウシャクケ?』の関係者に引き取られることになったです。


 これは、ミーアさまご本人が望んでいたことでもあるです。


 ──この世界がどうなるのかを見てみたい。

 ──いずれお姉ちゃんと『ディーンさま』が来る場所で、恥ずかしくないように生きていたい。

 ──ふたりを迎える準備をしたい。


 それが、ミーアさまの願いだったです。



 あの日、自分と護衛のゴーレムたちは、必死に戦ったです。

 賢者さまたちが逃げ出す隙を作ったです。がんばったですよ。


 でも、自分は剣で刺されて、中の機構がこわれて──


 今、こうして、あなたに目覚めさせてもらったわけなのです。



 これで、ゴーレムの『フィーラ』の話はおしまいなのです。

 聞いてくれてありがとう……ございました。上位者さま。





 ──ユウキ視点──



『フィーラ』の話は終わった。

 ぎこちない話し方だったけど、内容はよくわかった。

 さすがは『古代器物』のゴーレム。優秀だ。


「アリスの妹は、しばらくここで暮らしてたのか……」


 もしかして、人質のようなものだったのだろうか。


 ライルは俺を殺した功績を『聖域教会』に認められた。

 勇者になり、最終的には賢者になった。


 でも、その功績をねたむ者や、ライルを疑う者もいたはずだ。

 そのために、娘のミーアが、ここに住まわされていたのかもしれない。


 で、ここでライルは『聖域教会』の味方のふりをして、『古代器物』の封印を行っていたのか。

 最終的には、この第5階層を封鎖して、『聖域教会』を抜けようとした……と。

 すごいことするな。あいつ。


 たぶん、娘のミーアのためでもあったんだろう。

 子どもがずっと地下で暮らすなんてあんまりだからな。


 で、ライルは仲間──たぶん『フィーラ村』の出身者──と、反乱を起こした。

 この第5階層を閉じる計画を実行に移して、自分たちは地上へ逃げた。

 そのときに、このゴーレムが、ライルの背中を守ってくれたのか。となると、ゴーレムの『フィーラ』は、俺の子どもたちの恩人でもあるわけだ。

 あとでちゃんと時間をかけて、修理することにしよう。


 ……ミーアって、どんな子どもだったんだろうな。

 ライルとレミリアの血を引いてるんだから、賢かったのは間違いないだろう。

 一度でいいから、顔を見てみたかったな……。


 そして『エリュシオン』を出た後、ミーアは『とある地方貴族』に預けられた。

 その相手は『侯爵家こうしゃくけ』だったらしい。


 もちろん、当時と今では国はかなり変わっている。

 だけど、地方貴族の家がそのまま続いてることは、まれにある。

 ミーアが預けられたのが、今も続いてる侯爵家だとしたら……。


「オデット。ひとつ、聞いてもいいか?」

「ええ。ユウキがなにを言いたいのか、なんとなくわかりますわ」


 オデットは顎に手を当てて、うなずいた。


「わたくしもゴーレムさんの話を聞いて、アイリスのお祖母さまのことを思い出しましたもの」

「ああ。アイリスの祖母は不老の体質だったんだよな」

「はい。アイリスも『自分も同じ体質かもしれない』と心配していましたわ」

「アイリスの祖母は侯爵家の人に見初められて結婚した。つまり、その侯爵領の住人だったってことだよな? そうじゃなきゃ接触の機会もないわけだから」

「そう考えるのが自然ですわね」

「そして、アリスの妹のミーアは、ここを出たあと、侯爵家の関係者に引き取られている。そしてミーアは、アリス経由で俺の『魔力血』を引き継いでいる。そのせいで不老の体質になった可能性は十分にあるんだ。そうなると──」


 ある程度予想はしていたけれど、これでほぼ、確定だ。

 アリスの妹のミーアが、アイリスの先祖だ。


「……俺が死んだあとに、ライルたちは色々やらかしたんだな。今さらだけどさ」


 ライルたちは転生した俺とアリスに、様々なものを残してくれた。

 封印された聖剣リーンカァルに、古城にあった『黒王騎』

 この『エリュシオン』に刻まれたメッセージもそうだ。


 ライルたちは、俺とアリスが彼らの足取りをたどれるように、アイテムや言葉を残してくれた。

 それはたぶん、転生した俺たちが、問題なく暮らせるようにするためだ。

 俺──ディーン=ノスフェラトゥが、二度と、命を落とすことがないように。

 だけど──


「そこまですることはなかったんだよ……ライル。俺のことなんか忘れて、普通に幸せになってくれてもよかったんだ。なんのために前世の俺が痛い思いをしたと思ってるんだよ……」

「ユウキ?」

「俺は村の守り神だ。村の連中を守るのが役目だったんだ。でも……まさか死んだ後に、あいつらにここまで手間をかけさせることになるなんて思わなかった。まったく……どこで間違えたんだろうな」

「みんな、あなたのことが好きだったんですわ。きっと」


 オデットは、笑った。


「あなたは村のみんなの守り神で、お父さんで、本当に大切な存在だったのでしょう。だから、あなたが転生すると知った村人たちは、できるだけいい環境を残してあげたいと思ったのですわ。『聖域教会』なんて存在しない、優しい世界を」

「……気持ちはわかるけどな」

「わたくしも、彼らの気持ちがわかりますわ。わたくしが『フィーラ村』の住人だったら、きっと同じことをしますもの」

「感謝はしてるよ。でもそのせいで、ミーアはこんな地の底で子ども時代を過ごすことになったんだ。村からも離れて、まわりは『聖域教会』の連中ばっかりで……さみしい思い──」


 俺がふと、そんなことをつぶやくと──



『さみしくはないよ。ミーアの中には、お姉ちゃんとマイロードがいるもの』



 ──声がした。

 ゴーレムの『フィーラ』の声だった。


「『フィーラ』。今のは?」

『ミーアさまの、くちぐせだったです』


『フィーラ』は言った。


『ひとりになると、ミーアさまは自分を抱きしめて、こんなことを言っていたです』

「……そっか」

『それに、ミーアさまは、母君を超えるほどの天才だったです』


 ゴーレムの『フィーラ』は、自慢するように胸を張った。


『ミーアさまは、不完全ながら「王騎」を操ることもできたです。封印システムの謎を解くきっかけになったのも、あの方なのです。ひっそりと活躍してたですから、さみしく思う暇もなかったと思うです』

「……ライルもレミリアも、ミーアにどんな教育をしたんだよ」


 いつか、ミーアの墓参りにも行かなきゃいけないな。

 アイリスに頼んで、彼女の祖母がいた侯爵家を訪ねてみよう。


 200年前のことなんか誰も覚えていないかもしれないけれど、共同墓地くらいはあるだろう。

 そこで『お前たちのおかげで、俺とアリスは平和に暮らしてる』って伝えよう。


「それじゃ、俺たちの仕事をするか」


 俺はゴーレムの『フィーラ』の方を見た。


「『フィーラ』に訊ねる。お前は『魔力ぐらいの障壁』を消す方法と、『魔物巨大化システム』がある場所を知っているか?」

『わかるです。どちらのシステムも、近い場所にあるです。案内するですか?』

「ああ。頼む」

『承知しましたです』


 ゴーレムの『フィーラ』の案内で、俺たちは第5階層へと足を踏み入れた。

 コウモリたちが言っていた通り、第5階層は町だった。

 中央には大きな通りがあり、それを挟むように家が連なっている。


『フィーラ』によると、下水道や給水施設もあるらしい。

 上層から食料だけ運び込めば、なんとか生きてはいけそうだ。

 そうやって地下で、長期間暮らしていたんだろうか。この施設を作った古代魔術文明人は。


『注意してほしいです。そのさくの向こうに、地下第6階層への入り口ホールがあるです』


 見ると、大通りの先に、柵に囲まれた広場があった。

 柵の向こうには、大穴が開いている。

 のぞき込むと……奥の方にかすかな光が見えた。あれは──


「『魔力ぐらいの障壁』ですわね」

「ここまでの通路にあったのと同じやつだな」

「第6階層への通路って……ただの縦穴ですわね。階段さえありませんわ」

「飛べないと行けないな。これは」

「ユウキならどうですの?」

「行けるかもしれないが……戻ってこられるかわからないな。通路にあるのが障壁だけとは限らない。魔物が隠れている可能性だってある。ひとりで行くのは無理だ」

「『聖域教会』の連中はどうでしたの? フィーラさん」


 オデットが『フィーラ』に訊ねる。

 返事はなかった。


 ゴーレムの『フィーラ』は俺の方を見て、


『答えてもよいですか? 上位者さま』

「いいよ。オデットは俺と同じように扱ってくれ」

『承知したです』


『フィーラ』はうなずいた。


『お答えするです。第6階層へ行った者は、フィーラの知る限り、いないです』

「でしょうね」

『ただ、賢者さまは言っていたです。「エリュシオン」は、第6階層で終わり、と』


『フィーラ』は言った。


『どこかの資料に書かれていたそうなのです。ただ、公式には、第6階層に行った者も、戻ってきた者も、ひとりもいないのです』

「だろうな」


 第6階層への穴は、どれくらいの深さがあるのかわからない。

 地の底まで続いているようにも見える。


 でも、この先に古代魔術の秘密や、最強の古代器物があるとしたら──いや、それでも行く気にはならねぇな。


 いくらすごいものが隠れされていたところで、戻ってこられなかったら意味がないからな。宝を抱きかかえて飢え死になんて最悪だ。しかも俺の場合はなかなか死ねない。長期間、地の底でひとりぼっち……なんて、考えるだけで寒気がする。それに、マーサも心配するだろうし。


「……ユウキ」


 気づくと、オデットが俺のローブのすそをつかんでいた。


「いや、だから行かないって」

「そ、そうですわよね。ユウキだって、そこまで無茶じゃありませんもの」

「行くとしたら、それ以外の手段がなくなったときだろうな」


 逆に、そういう事情でもなければ、絶対にこんな縦穴なんかには飛び込まない。

 前世では『吸血鬼の王ヴァンパイアロード』なんて呼ばれてたけど。別に俺は夜行性じゃないんだから。


『「魔物巨大化システム」は、中央の塔の第3層Bブロック3−4にあるのです』


『フィーラ』は、中央の塔を指して、そう言った。


『「魔力ぐらいの障壁」の管理所は、同じ塔の第2層Cブロック1−14なのです』

「どっちも中央の塔にあるのか」

「しかも、むちゃくちゃ部屋が多そうですわね」

『中央の塔は「聖域教会」の本拠地だったのです』


 だろうな。

 町の配置を見れば、中央の塔が一番アクセスしやすいのがわかる。

 拠点にするなら、あの場所が最適だ。


「魔獣や、防衛用のゴーレムはいないのか?」

『聖域教会は脱出時に、すべて持ち出したです』

「戦争を起こすために?」

『それはわからないのですが、ほとんど、根こそぎにしていったはずなのです』


 そして、奴らが持ち出した『古代器物』を頼りに、国々は戦争を起こした。

 でも、ライルが封印していたせいで『古代器物』が起動しなかった。

 その結果、戦争に参加した国々の怒りを買い、『聖域教会』は滅んだ。


 ──滅んだはずだったんだけどな。


『聖域教会』の残党がなにを目的としているのか、未だに見えてこない。

『魔物巨大化システム』を手に入れて、再び戦争を起こしたとしても、奴らが勝利するとは限らない。今は『古代魔術』『古代器物』も研究されて、レプリカも制作されている。対抗策はいくらでもある。

 なのに『聖域教会』の残党は、ひたすらこの『エリュシオン』を狙っている。


 その目的は一体なんだ?

 奴ら──不死になったという第一司祭は、なにを企んでいる?


 ……そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか中央の塔に着いていた。


 俺たちの目の前には、両開きの扉がある。

 鍵はかかっていない──というか、すでにうっすらと開いている。

 200年ほど、誰も使っていない場所だ。

 本当にトラップがないか心配になるんだけど──


「……ユウキ」


 不意に、オデットが俺の手を握った。


「誰かいますわ。いえ……生きているかどうかはわかりませんが……靴が」

「靴?」


 俺は扉の隙間から、中を見た。

 靴が見えた。

 ボロボロの──でも、200年前は高級品だったような、革靴だ。


 俺は指先に『魔力血』をつけて、扉に触れた。

侵食ハッキング』を試みる──けれど、魔力的な反応は無し。

 そのまま俺は、扉を開けていく。


 すると、目の前に現れたのは──



「靴と……ローブと、服か?」



 高級そうなローブだった。

 金糸で彩られて、あちこちに宝石がついている。

 服もそうだ。胸元には『聖域教会』の紋章がある。それにも宝石があしらわれている。


 それが、塔の入り口──エントランスの壁に吊り下げられていた。

 まるで、人のぬけがらを飾るように。


「……服の上にプレートがありますわ。あれは?」

「名前が彫ってある。『第一司祭……ニヴァールト=メテカリウス』か?」


 第一司祭……つまり『聖域教会』のボスだ。

 確か奴は──『不死の古代器物』で、死なない身体になっているはず。帝国の皇女は『第一司祭は代替わりをしながら、皇帝の側近をやっている』と言っていたけれど、どちらにしろ、奴が、帝国にいることは間違いない。


 第一司祭が、今の『聖域教会』を束ねる元凶だと、俺は考えている。

 だけど──


「なんでその第一司祭のローブが、血まみれなんだろうな」


 壁にかけられているローブには、血痕けっこんがついている。

 しかも胸の辺りには大穴が空いている。

 なにかの演出だろうか。だとすると、嫌なセンスだ。


「こんなもの、ライルやミーアには見せたくなかったな」

「気持ちはわかりますわ」

「こいつからは魔力を感じない。トラップではなさそうだ。これは……あとでカイル皇子や老ザメルに調べてもらった方がいいな。時間もないし、正直、触れたくもないから」

「同感ですわ」

「まずは『魔物巨大化システム』と『魔力ぐらいの障壁』をなんとかしよう。『フィーラ』案内を頼む」

『承知したです。こちらへ──』


 俺たちは、塔の内壁に沿って作られた階段を上がっていく。

 階段のまわりは吹き抜けになっている。

 ディックたちコウモリ軍団を飛ばすけれど、ゴーストや魔物の反応はない。


 気になるのは、中央広場に飾られた、第一司祭のローブくらいだ。


「あのローブ……嫌な存在感があるな」


 ここは廃墟はいきょだ。

『聖域教会』の本拠地だったのは、200年前の話で、今はもう誰もいない。

 この『エリュシオン』はもう『聖域教会』のものじゃないし、残党の連中もまだ、ここにはたどりついていない。


 200年前『聖域教会』は完全に失敗した。

 組織は滅び、当時のメンバーも、生き残っていない。


 なのに、第一司祭だけがまだ、生き残っているとしたら──


「なに考えて生きてるんだろうな。そいつは」


 前世の俺は、村の連中が死ぬのが嫌だった。

 ひとり残らず不死になってくれればいいと思ってた。

 だからあいつらが健康に生きてくれるように、手を尽くした。


 あれは俺のわがままだった。

 あいつらが喜んでくれて、側で元気に生きていてくれれば、それでよかったんだ。

 俺はあいつらの『守り神』だったから。


 だから──


「配下すべてが死んでも生き残ってる第一司祭あんたのことは、絶対に理解できないだろうな」


 第一司祭ニヴァールト=メテカリウスか。

 ……会いたくねぇなぁ。

 奴が持ってる『不死の古代器物』とやらが、突然ぶっこわれてくれないだろうか。

 そうすれば『聖域教会』が完全消滅して、俺たちはのんびり暮らせるんだけど。


「なにを考えてるのかわかりますわよ。ユウキ」


 階段の下から、オデットが俺を見上げていた。


「あなたが優しい顔をしているときは、村の人たちや……大事な人たちのことを考えているときです。きっと、『聖域教会』が完全消滅すれば、みんな安心なのに……とか考えていたのでしょう?」

「すごいなオデット」

「わかりますわよ。だから早く仕事を済ませて、アイリスの元へ帰りましょう」

「そうだな」


 俺はオデットに向かって手を伸ばす。

 そうして、俺とオデットは並んで、階段を登りはじめたのだった。




──────────────


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 ぜひ、読んでみてください。

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