第143話「元魔王、第5層でゴーレムをみつける」

「本当に町があるな」

「……ですわね」


 俺とオデットは、通路の終点にいた。

 目の前には、広い空間があった。


 まるで、城下町のようだった。

 ただ、町の中心にあるのは城ではなく、塔だ。


 第5階層には無数の建物があり、中央には大きな塔が建っている。

 天井はぼんやりと光っている。地下を照らすには十分な灯りだ。


 町があるということは、ここで人が暮らしていたということになる。

『聖域教会』が作ったとも思えないから、古代魔術文明人が住んでいたんだろうか。


 今は、誰も住んでいないようだ。

 灯りがついている建物はひとつもない。道を歩いている人もいない。

 それに、ここは『聖域教会』が立ち去ってから200年、誰も出入りしていない場所だ。そんな長い間、地下だけで生活できるとは思えない。


 だから、ここは誰もいない廃墟はいきょなのだろう。


「でも、なんで当時の人たちは地下に町を作ったんだろうな?」

「魔術師たちの秘密施設だったのではないでしょうか。地下第5階層には魔物を巨大化させるシステムがあるのでしょう? そんなとんでもないものを作っていたのなら、秘密を守るために、地下にこもっていたとしても不思議はありませんわ」

「理にかなってるな」

「だからきっと、『古代魔術文明』の魔術師は、研究のための町を作ったのですわ」

「ずっと地下で研究三昧けんきゅうざんまいか。あんまり楽しい人生じゃなさそうだけどな」


 ──『エリュシオン』の地下第5層には魔物を巨大化させるシステムがある。


 これは、帝国の皇女ナイラーラ=ガイウルが言っていたことだ。


 だから『聖域教会』の残党は魔物を巨大化させるポーションを持っていたらしい。

 それを使って巨大化させたのが、『アームド・オーガ』だ。


『アームド・オーガ』とは、俺も戦ったことがある。

 サイズも力も、通常種の数倍はあった。

『古代魔術文明』はあれを兵士にでもしてたんだろうか。


 あるいは、便利な労働力にしてた可能性もあるな。

 巨大化した魔物に道具を持たせて、この『エリュシオン』を作り上げた、とか。

 だとしたら、帝国や『聖域教会』が、そのシステムを欲しがるのもわかる。


 俺は使うつもりはないけどな。

 暴走が怖いし、巨大な魔物を見たら、子どもたちが恐がるから。


「帝国皇女ナイラーラの目的は『魔物巨大化システム』を入手することでしたわね」

「俺はできれば、ぶっこわしたいけどな」

「ユウキならそうでしょうね」


 オデットは困ったような表情で、笑った。


「別に止めませんけれど……こわす前に、詳しく調べた方がいいですわよ。もしかしたら、別の使い道もあるかもしれませんもの」

「そうだな」

「……素直ですわね」

「そりゃそうだろ。俺がここまで来られたのは、オデットのおかげなんだから」


 オデットが『霊王ロード=オブ=ファントム』の使い手になっていたから、俺は『魔術ギルド』の仕事として、障壁突破に立ち会うことになった。『黒王騎』で強引に障壁を突破することもなく、ギルドの一員として、ここまで来ることができた。

 それは間違いなく、オデットのおかげだ。


「だから感謝してるよ。ありがと」

「……そういうことを真顔で言うのはやめなさいな。もう」


 オデットは、こほん、と咳払いして、


「それよりも問題は、どこから調査を始めるかですわね」

「重要そうなのはあの塔だけど、闇雲に進むのは危険だな」


 塔の高さは、普通の家の5階分程度。

 場所は町の中央。高さと位置から考えて、重要な施設なのは間違いない。

 問題は──


「『エリュシオン』には、やばいトラップが普通にある。『古代魔術文明人』か『聖域教会』が、塔のまわりに侵入者よけを仕掛けていてもおかしくないよな……」

「そうですわね……」


 地下第5階層は『魔術ギルド』にとっては未踏地区みとうちくだ。

『聖域教会』の連中は来てるはずだけど、奴らの情報はこっちに伝わっていない。


 それにここは普通の町とは違い、通路がやたらと広い。家と家の間隔もかなり開いている。『アームド・オーガ』サイズの魔物が、普通に歩けそうなほどだ。


「……ここで魔物を巨大化させていたとすると、奴らを止めるためのトラップとかもありそうだな」

「うかつに踏み込むのは危険ですわね」

「ポイントを絞って調べるべきだな。これは」


 俺とオデットはうなずきあう。

 2人だけで調べるには、この地下第5階層は広すぎる。

 動く前に、作戦を考えるべきだろうな。


「目的を再確認しよう」


 俺とオデットは話を続ける。


「俺たちの第1目的は『魔力喰らいの障壁しょうへき』を消す方法を探すことだ。障壁が消えれば、『魔術ギルド』の皆がここに来られるようになる。ここに拠点を作って、時間をかけて調査することができるからな」

「ですわね。そして第2の目的は『魔物を巨大化させるシステム』を探すことです」

「ああ。そこで、調査方法を3つほど考えてみた」

「聞かせてくださいな」

「ひとつは『黒王騎』で強行突破する方法だ。俺が『黒王騎』をまとい、オデットを抱えて空を飛び、問答無用で中央の塔を目指す。魔物やトラップが出現したとしても、『黒王騎』なら突破できるだろう」

「わかりますわ」

「ただし、本当に魔物やトラップがあった場合、どうなるかが読めない可能性がある。大規模な戦闘になって、町や、貴重な遺物を壊すかもしれない。だからこれは避けたいんだ」


 それに、もしも長期戦になった場合、オデットが危ない。


 俺は長時間『黒王騎』を使えるけれど、オデットの『霊王騎』は稼働時間が短い。一定時間が過ぎたら脱がないと、彼女の魔力は枯渇こかつする。でも、戦闘中にそうなった場合、生身のオデットが怪我をする危険性があるんだ。

 だから、このやり方は却下だ。


「次は、安全確認しながら探索する方法だ。コウモリ軍団を先に行かせて、少しずつ先を調べながら進む。ただし危険が少ない分、時間がかかる。まぁ、俺としてはこれでもいいんだけどな」

「でも、どれくらい時間がかかるかわからないのでしょう?」

「そうだな。あんまり遅くなったら、アイリスやマーサが心配するだろうし」

「ふふっ。そうですわね」

「なんで笑うんだよ」

「いえ、あなたらしいと思いまして」

「……まぁいいか」

「次の選択肢をお願いしますわ」

「第3の選択肢は、ここに転がってるゴーレムを再起動することだ」


 俺は通路の端に転がってるゴーレムを指さした。


 これは偵察ていさつに出ていたコウモリたちが見つけてくれたものだ。

 コウモリ軍団は言っていた。『通路の出口にゴーレムのようなものが倒れている』──と。その情報の通りだ。


 ゴーレムは通路の出口で、うつぶせになって倒れている。

 背中には大きな傷がある。機能は停止しているようで、ぴくりとも動かない。


 素材は金属性。全長は、俺の身長の半分くらい。

 のっぺりとした姿で、横から見ると、目の位置には球体がはまっているのがわかる。一見すると、鎧を着た兵士のようにも見える。ゴーレムだってわかるのは、背中の傷口から、中の機構が見えるからだ。


 このゴーレムは、背中に傷がある。大剣のようなもので刺されたような痕だ。

 傷口からのぞき込むと、金属板が複雑に絡み合ったものが見える。さらに近くで見ると、かすかな魔力を感じる。

 こいつは『古代魔術文明』が作った、古代のゴーレムってところか。


「だけど、なんで首にマフラーを巻いてるんだろうな」

「ゴーレムにそんなものは必要ないですわよね」

「ボロボロだな。古いものだから仕方ないか……」


 マフラーの方は、ごく普通の布で作られてる。

 ゴーレム用だからか、毛糸じゃなくて、丈夫な布でできている。

 古びていて、元はどんな色だったのかもわからない。

 ただ──


「文字が縫い込まれてるな」

「わかります。端の方ですわね」

「これは……文字か……記号か? 羽が生えた生き物にも見えるけど……古すぎてわからないな」

「このゴーレムの名前ではありませんの? あるいは、持ち主の」

「それも、調べてみるしかないな」


 たぶん、このゴーレムは警備用だ。

 短い槍と、小さな丸盾しか持っていない。戦闘用にしては装備が貧弱すぎる。


 特定の誰かを守っていたか、危険を知らせる役目をしていたと考えるのが自然だ。

 となると──


「仮定の話だけど、このゴーレムが警備用だとしたら?」

「警備用、ですの?」

「ああ。例えば、このゴーレムはこの通路を警備していて、怪しい者が来ると、人間に報告していたとする。だとすると、俺がこのゴーレムを再起動して、侵入者がいると伝えれば……」

「ゴーレムは……自分を管理していた人間の元に戻りますわね」


 オデットが目を見開いた。


「そうすると、ゴーレムが移動するルートは安全ということになります。そしてゴーレムを管理していた人間は……おそらく、この通路の警備担当者でしょう。つまり、ゴーレムが帰っていく場所には、通路をふさぐ障壁の情報があるかもしれない……ということですわね!」

「そういうことだよ」

「すばらしいですわ。ユウキ。今日のうちに重要拠点を見つけ出せれば、大きな成果になります。その成果を武器にすればわたくしが公爵家を──」


 オデットは興奮した顔で言って──すぐに口を押さえた。


「……どうした、オデット」

「なんでもありませんわ」

「そうなのか?」

「そうです。それより、ユウキはこのゴーレムを直せますの?」

「動かすくらいならできると思う。まぁ、やってみるよ」


 俺はゴーレムの背中に手をかざす。


「『魔力血ミステルブラッド』──侵食ハッキング


 そのまま、ゴーレムの傷口に、『魔力血』を注いでいく。


「──魔力経路パスに侵入──機能停止の原因を探る」


 ゴーレムの中で『魔力血』を動かして、魔力の流れを探る。

 さらに『侵食ハッキング』を進める。


 原因判明──やっぱりだ。傷が内部にまで達している。

 そのせいで魔力の流れが途切れているんだ。

 人間で言えば、大きな血管が切断されたようなものか。すると『魔力血』で、切れた部分に魔力の流れを作り出せば、動くはず。

 念のためだ。さらに調査を進めよう──


 魔術の第1防壁──突破。

 第2防壁──突破。

 第3防壁──って、かなり厳重だな。

 なにか重要な役目を果たしていたんだろうか。このゴーレムは。


 防壁突破成功。内部魔術領域に侵入。


 内部魔術──解析開始。

 魔術の構造分析──護衛型のゴーレムだと判明。

 能力判明──戦闘と、護衛対象とのコミュニケーション。


「……解析完了。問題なく再起動できそうだ」

「やりましたわね。ユウキ! それで、これはどんなゴーレムですの!?」

「このゴーレムは、特定の誰かを守る仕事をしてたみたいだ」


 俺は言った。


「しかも、コミュニケーションの能力がある。会話もできるらしいぞ」

「会話ができるゴーレムですの!?」

「ああ、これはかなり高度な技術で作られている」


『古代器物』の中でも、かなり特殊なものだ。

 だけど、それが壊れていた──いや、壊された理由がわからない。

 200年前に……ここでなにがあったんだろう。


「すごいな……内部に魔力の結晶体があって、そこに情報を保存するようになってる。話しかけることで、情報を蓄積するのか? 多少の魔力が残っているから……もしかすると、このゴーレムは昔のことを知っているかもしれないな」


 こいつから200年前のことを聞き出せれば話が早いんだけどな。

 それが無理でも、地下第5階層の案内くらいはしてくれないだろうか。


「危険はありませんの? 起動した瞬間、わたくしたちを侵入者だと思って、攻撃して来たりは……」

「それは大丈夫だ。こいつは背中の傷のせいで、内部機構──魔力を流れる血管のようなものが途切れてる。俺はそれを『魔力血』で繋いで、動かせる状態にしただけなんだ」


 いわば『魔力血』が血管の代わりになっているようなものだ。

『魔力血』は高密度の魔力の塊だ。魔力の流れを繋ぐことくらいはできる。


「だから、俺の意志で魔力を途切れさせることもできる。いざとなったら機能停止させるから、大丈夫だ」

「安心しましたわ……」


 オデットはため息をついた。

 俺も実は、かなり緊張している。

 この『地下第5階層』は、おそらく『エリュシオン』の重要拠点だ。なにがあるかわからない。警戒するのに越したことはない。


「まぁ、ユウキのことだから。大丈夫だとは思っていましたけど」

「それでも警戒は必要だろ。念のため、俺は『黒王騎』を準備しておく。オデットは『霊王騎』を装着しておいてくれ」

「承知しましたわ!」

「コウモリ軍団は町の方を見ていてくれ。このゴーレムが起動したことで、なにか反応があるかもしれない。変化があったら報告するように」

『『『しょうちですー』』』


 俺は『収納魔術』から『霊王騎』を出した。

 オデットがそれを身につけている間に、俺は『黒王騎』の装甲を開いて、いつでも装着できるようにしておく。

 これでゴーレムが暴れても対応できる。


 あとは俺がゴーレムに魔力を注いで、再起動するだけだ。


「準備はいいか。オデット」

「問題ありませんわ」

「では、ゴーレムを再起動する」


 俺はゴーレムに触れた。

 再び『魔力血』を注いで、回路に魔力を浸透させていく。

 すると──



 ──ふぃんっ。



 ゴーレムの両目に、光が灯った。



 ──ふぃーん。ふぃんっ。



 ゴーレムが起き上がり、左右を見回す。

 まるで、寝起きの子どものようだった。

 自分の居場所を確認しているのか、素早く首を回しながら、左右を見回してる。


 ゴーレムは町の方を見て、うつむいて、それから『黒王騎』と『霊王騎』を見た。

 首をぐるりと回し、球体の眼で俺を見た。

 それから、奇妙な声で──



『あなたがたは「聖域教会」の方ですか?』

「ふざけんな。俺があんな連中の仲間のわけがないだろ」



 あ、しまった。

 ここは嘘でもいいから「聖域教会の仲間だ」と答えるべきだったか。

 地下第5階層は『聖域教会』の連中がいた場所だ。そこにあるゴーレムなら、奴らの配下の可能性が高いんだが……。


 まぁいいか。

 このゴーレムが『聖域教会』の配下なら……もう一度『侵食』して、俺たちに従うように作り替えよう。


「仕方がありませんわね。わたくしも、あんなものの仲間だなんて、口にしたくもありませんもの」


 オデットの『霊王騎』が肩をすくめてる。器用だ。

 そのままオデットは『霊王騎』の腕を伸ばし、俺をかばう。


「逆にたずねる。ゴーレムよ。お前は『聖域教会』の仲間か?」


 俺は『霊王騎』の腕に守られながら、問いかける。


『最悪の質問。自分は、あんなやつらの仲間では、ありえない!』


 怒られた。

 というか、ゴーレムが腕を振り上げて怒るのを初めて見た。


『「聖域教会」は敵。許さない。マスターも、ひとりになると怒ってた。あいつらがいなければ、マスターたちがこんなところまで来ることもなかった。そう言ってた』

「マスター?」

『守るべきお方』

「そいつの名前を聞いてもいいか?」

『了承』


 あっさりだった。

 球体の目で俺を見て、ゴーレムはあっさりとうなずいた。


あなたの魔力は・・・・・・・マスターに・・・・・とても・・・近い・・。ゆえに、上位者として認証にんしょう


 ゴーレムは俺に向かって、深々と頭を下げた。


「……お前、今、なんて言った?」


 ──あなたの魔力は、マスターにとても近いもの?


 こいつは俺の魔力と、自分の中にある魔力を比較したのか。


 このゴーレムの中には、魔力を蓄積する魔力結晶がある。

 そこに魔力を注いだのがゴーレムの護衛対象者──マスター、と呼ばれる人物だろう。そいつの魔力が、俺に近いということは……?


「ユウキに近い魔力を持つ人って……どういうことですの?」


 オデットが『霊王騎』の兜を外して、こっちを見てた。


「そんな人は数人しかいませんわ。アイリス殿下と、あなたから血をもらった直後の、わたくしと……」

「……『フィーラ村』のアリスだ」


 俺に最も近い魔力を持つのは、アイリスと──彼女の前世である、アリスだ。


 200年前、俺は『死紋病しもんびょう』にかかったアリスを助けるために、大量に『魔力血』を与えた。

 そのせいで、あいつの血は俺の『魔力血』に近いものに──多くの魔力を含む『準魔力血』になった。


 でも、アイリスはここには来ていない。

 前世のアリスも、来たことはないはずだ。


 オデットにも『魔力血』を与えたことはあるけれど、アリスほどの量じゃない。

 体質を変えるほどのものではないはずだ。


 だとすると……他に、俺に近い魔力を持つ人間は、ひとりしかいない。


 なるほど。

 マフラーにあった縫い取りの正体が分かった。

 あれは文字じゃない。コウモリをかたどった記号だったのか。


「『裏切りの賢者』ライルの、二人目の娘。ミーア=カーマイン。それがお前のマスターか」

『あなたは、マスターの名前を口にされた。とても正確』


 ゴーレムが俺に頭を下げた。


『自分はあなたの命令に従う。了承?』


 確定だった。


 200年前、『死紋病』は二度、流行した。

 前世の俺──ディーン=ノスフェラトゥが死ぬ前と、死んだ後だ。


 アリスの妹が『死紋病』にかかったのは、前世の俺の死後だった。


 前世の記憶を取り戻したとき、アイリスが教えてくれたんだ。病気になった妹ミーアは、両親──ライルとレミリアが使った浄化の魔術と、アリスが与えた『準魔力血』で回復した、って。


 その時、アリスの妹の血は『準魔力血』と似たものになったのだろう。

 このゴーレムが俺の『魔力血』に含まれる魔力を、主人の魔力に近いと判断したのは、そのせいだ。


「話をしよう。お前には聞きたいことがたくさんある」


 俺は地面に腰をおろした。

 オデットも『霊王騎』を脱いで、俺の隣に座る。


 このゴーレムが、俺たちの敵になることはない。

 こいつは、この『地下第5階層』での、重要な味方だ。


「まずは、お前の名前を聞かせてくれないか?」

『「フィーラ」。マスターたちが生まれた、大切な村の名前。マスターは説明。その村にいた、大切な守り神をのことを……忘れないように』

「お前はここで、アリスの妹と一緒にいたのか?」

『はい。フィーラは「──の賢者」さまよりマスターの護衛を命じられ……マスターを逃がしたとき……刺されて……』


 ゴーレム──フィーラの身体が揺れ始める。

 応急処置をしただけだからな。まだ不安定なんだろう。

 地上に連れて帰ったら、ちゃんと直さないと。


 アイリスはびっくりするだろうな。

 このゴーレム──フィーラは、妹のことを知ってるんだから。

 こいつの口から直接、家族の話を聞いたら、転げ回ってよろこびそうだ。


「まずは名乗ろう。俺はユウキ。こっちは仲間のオデットだ」

「オデットです。よろしくお願いいたしますわ」

『あいさつは大事。マスターも、そう言ってた』


 フィーラは軽く頭を下げた。

 俺は会釈を返して、それから、


「教えて欲しい。お前が知っていることを、すべて」


 俺は言った。


「お前のマスター……ミーア=カーマインがどんな子どもだったのか。彼女と、その両親がどこに行ったのか。ここでなにがあったのか。それから……余裕があったら、この第5階層の重要拠点についても教えてくれ」

『──了承します』


 ゴーレムのフィーラがうなずく。

 それからフィーラは、ゆっくりと、語り始めた。

 200年前にここで起きた出来事と、アリスの妹──ミーア=カーマインの話を。




──────────────


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 コミック版「辺境魔王」の第2巻は、ただいま発売です!

 2巻からはメイドのマーサと、謎の少女と謎の斧を持つ老人が本格的に登場します。

 連載版は毎月24日ごろに、「コミックウォーカー」「ニコニコ漫画」に掲載されます。(今日、新しいお話が更新されているはずです)

 ぜひ、読んでみてください。

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