第120話「魔術ギルド『第2回 霊王騎(ロード=オブ=ファントム)起動実験』」

「──気分はどうかね? スレイ家のご令嬢れいじょう


 オデットの耳に、老ザメルの声が届いた。

 ここは『魔術ギルド』にある、魔術実験場。

 その中央で、今『霊王騎』の、第2回起動実験が行われようとしていた。


「聞こえたら返事をしてほしい。問題はないか?」

「大丈夫ですわ。ザメルさま」


 オデットは答えた。


 魔術実験場には、石造りの防壁が設置されている。

『古代魔術』や『古代器物』が暴走したときのための備えだ。

 その後ろに立って、老ザメルと『ザメル派』の魔術師たちはオデットを見ていた。


 白いローブを着た老ザメルは、横に置いた箱を指さして、


「魔力が不足だと感じたらすぐに言うのだ。魔力補給用のポーションを準備してある」

「ご配慮はいりょに感謝いたしますわ」


 オデットはうなずいた。

 彼女は少し前に、『霊王騎』を身につけたばかりだ。


 違和感はある。

 魔術師であるオデットは、ほとんど鎧を着たことがない。

 着たのはせいぜい魔術師向けに作られた、軽めの革鎧かわよろいくらいだ。

 全身をおおうような金属製の鎧を着たのは初めてだった。

 違和感はある。けれど、負担は感じない。


『霊王騎』はオデットの身長よりも大きい。彼女の手足は、鎧の手足の先までは届かない。

 それでも問題なく動かせるのが『王騎』の不思議なところだ。

 オデットが『にぎろう』と思っただけで、鎧は指を握りしめて、開く。

 筋肉ではなく魔力で動かす鎧──それが最強の古代器物『王騎』なのだ。


(……ユウキはよく、こんなものを自在に扱えますわね)


 オデットはため息をついた。


 ユウキの力になりたくて実験に参加したのに──こうしているだけで、彼との差を思い知らされる。

 今のオデットは、なんとか『霊王騎』をまとって立っているだけだ。

 戦うなんてできる気がしない。


 それでも、やるしかない。

 置いていかれるのはごめんだ。

 ユウキやアイリスと一緒にいられる間だけでも──同じ場所に立っていたいから──


「ご指示をお願いします。ザメルさま、これからどうすればよろしいのですか?」

「そうだな。まずは普通に歩いてくれたまえ」

「わかりましたわ」


 老ザメルの指示の通り、オデットはゆっくりと、足を前に出した。

 動作とイメージに合わせて、『霊王騎』も歩き始める。

 歩幅が広い分だけスピードは速いが、動作は安定している。


「いつもより視界が高く、歩幅が広いですが……問題はありません。普通に歩けますわ」

「そ、そうか」


 老ザメルが汗をぬぐうのが見えた。

 まわりにいる魔術師たちも、ぽかん、とした顔をしている。


 なにかおかしなことがあったでしょうか──と考えながら、オデットは次の指示を待つ。


『霊王騎』は安定している。

 左肘ひだりひじには『アームド・オーガ』が使っていた盾が装着されているが、それで左右のバランスが崩れるということもない。

 魔力的な安定機構があるのでしょう、と、オデットはうなずく。


「次は『古代魔術』に対する防御試験を行うことになるが……よいかな?」

「はい。問題ありません」

「前回の実験ではこの試験のあと、『霊王騎』をまとっていた魔術師が精神のバランスを崩したのだ。貴女あなたも、異常を感じたらすぐに言うように」

「わかりました」


 オデットはうなずいた。


「参考までにおうかがいしますが……前の実験ではどうなったのですか?」

「『霊王騎』をまとっていた者が、反撃と破壊への衝動にとらわれた。他の魔術師や人間が、つまらない存在に見えてしまったそうだ。その後、彼女は魔力切れを起こして動けなくなった」

「……それは……気をつけなければなりませんわね」

「ああ。貴女あなたも、十分に注意して欲しい」

承知しょうちいたしました」

「では始める」


 老ザメルの合図で、数名の魔術師が前に出る。

 説明を受けていた通りに、オデットは『霊王騎』の腕を伸ばす。

 それを見た魔術師たちが、『古代魔術』の詠唱をはじめる。


『古代魔術』が自分に向けられようとしている。

 その実感に、オデットの身体が震え出す。


(──落ち着きなさいな。オデット=スレイ。あなたは安全です)


 オデットは深呼吸しながら、自分に言い聞かせる。


(ユウキたちの『王騎ロード』が魔術を無効化するところは、何度も見たでしょう? これに傷をつけられるのは、同じ『王騎ロード』と──ユウキの聖剣だけです!)


 覚悟が決まった。

 オデットは目を見開いて、いままさに発動しようとしている魔術を見据える。


「「「発動『紅蓮星弾バーニングメテオ』!!」」」


 そして──魔術師たちが『古代魔術』を発動した。


 巨大な火炎弾が3発、オデットめがけて飛んでくる。

 それを──


「弾きますわ! えい」


 1発目──『霊王騎』の拳が弾く。


「盾も使えますわ!!」


 2発目──オデットは『アームド・オーガ』の盾を前に出す。

 触れた瞬間、『紅蓮星弾』の火球が消滅する。


「次は──ちょっとコースが逸れていますわね。受け止めてみせます!」


 3発目──『霊王騎』に当たりそうもない火球を、サイドステップして盾で受け止める。

 土煙をあげながら、『霊王騎』が水平移動する。

 左肘の盾をかざして、向かって来る火球を受け止め──消滅させる。


「「「おおおおおおおおおっ!!」」」


 魔術師たちから歓声が上がった。


「信じられぬ……C級魔術師のデメテルでも動かすのがやっとだった『霊王騎』を……軽やかに操っておる!!」

「やはりスレイ家のご令嬢は違うのでしょうか」

「まるで自分の身体のように動かしている。信じられない……」


(え?)


 オデットは首をかしげた。

『霊王騎』を使いこなすのは、彼らにとって驚くべきことらしい。

 けれど、オデットは特に負担を感じていない。

 むしろユウキに比べて、この程度の動きしかできないのかと思っているくらいなのに。


(……他の方には、これができませんの?)

(……わたくしは、ギルドに入ったばかりの低ランク魔術師ですのに?)


 見ると、防御壁の前で老ザメルたちが、今のオデットの動きについて話し合っている。


 これほど『霊王騎』を動かせる者はいない。オデット=スレイを専属の使い手にするべき。もっと動きを分析しなければ──と、額を付き合わせて話をしている。そのおどろきっぷりを見ると、オデットは本当にすごいことをしたらしい。


 けれど、オデットにはその理由がわからない。

 思わず考え込む。他の魔術師と自分の違いはなんだろう──と。


 経験はオデットが圧倒的に不足。

 魔力量も、特別に強いわけでもない。

 特別な血筋というわけでもないのだ。


 無理にでも他人とも違いを探すとしたら──


(わたくしが以前、ユウキの『魔力血』をもらったことくらいでしょうか……)


 オデットは、ぽん、と手を叩いた。


 原因がわかったような気がした。


 オデットは『獣王騎』との戦いのとき、ユウキから『魔力血』をもらっている。

 コウモリたちと、なんとなく意志を通じ合わせられるようになったのはそのせいだ。


 そしてこの『霊王騎』は、ユウキから一度、『侵食ハッキング』されているのだ。


 あの時、ユウキは『霊王騎』を深いところまで支配してしまった。

 だから、この『王騎』はユウキの魔力になじんでしまったのかもしれない。


 その『霊王騎』を、彼の『魔力血』をもらったオデットが着たものだから……。


(この鎧は──わたくしにもなじんでしまった、ということですしょうか)


 オデットは鎧を着たまま、胸に手を当てた。


 願いが、叶うかもしれない。

 オデットの目的は、表立っては能力を使えないユウキのサポートをすること。親友のアイリスを助けることだ。

 危なっかしい──けれど優しいユウキと、それを一心に慕うアイリス。

 不死のユウキと不老のアイリスは、オデットとずっと一緒にはいられない。

 いつかふたりはこの王国を出て、手の届かないところに行くだろう。


 だから、それまでは全力で一緒にいる。

 ふたりが、普通に生きられるように助ける。

 長い時間を生きるふたりが──オデットのことを覚えていてくれるように。


霊王ロード=オブ=ファントム』を使うことでそれが叶うのなら、迷うことなどなにもない。


「──実験を続けてもよいかな? スレイ家のご令嬢」

「はい! ザメルさま!」


 だから老ザメルの問いに、オデットはうなずいた。


 数分後、魔術実験場に、5体のゴーレムが現れた。


「このゴーレムたちの攻撃をかわして欲しい。もちろん、倒しても構わないよ」

「了解いたしました」

「……本当に大丈夫かな? 無理をすることはないのだぞ」

「問題ありません」


 オデットは短く答えた。

 問題なんかあるわけがない。

 この『霊王騎』は自分が掌握しているのだから。

 なにを心配しているのだろう。あの魔術師・・・・・たちは・・・──


「問題、ありませんわ!」


 オデットは『霊王騎』を走らせる。


「こんなゴーレムにてこずるようでは、あの方の力にはなれませんもの!」


 ごすっ!


 オデットはストーンゴーレムに、『霊王騎』の拳を叩き付ける。

 魔術を無効化する能力を持つ手は、そのままストーンゴーレムの体内にめりこんだ。


「おおっ!」

「すごい。なんという速さ」

「あれが、スレイ家のご令嬢の才能か」


 魔術師たちの声を、オデットは聞き流す。

 聞く価値はない。敵はまだそこにいる。

 2体目のストーンゴーレムに盾を叩き付け、ゴーレムを構成する魔術を無効化。破壊する。

 3体目──魔術師たちが騒いでいる。


 取るに足らないものが叫んでいる。 

 うるさい・・・・

 騒ぐことになんの意味がある。だまれ。


(──え。わたくしは今、なにを──?)


 一瞬、自分の脳裏によぎった思考に、オデットは動きを止める。

 その隙に、ストーンゴーレムの足が、『霊王騎』を蹴った。


「──がっ!?」


『霊王騎』に触れたゴーレムは即座に崩れ落ちる。

 が、衝撃はオデットに伝わった。

 身体をゆさぶられて、オデットは思わず膝をつく。


 なんてことだろう。

 たかが人間の魔術師が、自分を不快にさせるなんて。

 思い知らせてやらなければ。


(……この感情は……いったい……なんですの)


 オデット自身のものじゃない。

 これは『霊王騎』から流れ込んでくるものだ。


「スレイ家のご令嬢!? どうしたのだ!?」


 老ザメルが叫んでいる。

 うるさい。

 ゴーレムに揺さぶられた頭がガンガンする。

 暴れたい。反撃して、自分を攻撃したものをたたきのめしたい。


 その感情が──抑えきれない。


(まさか──『霊王騎』が暴走していますの!?)


 オデットは実験中止を呼びかけようと口を開く。

 だが、声が出なかった。


『霊王騎』はオデットになじんでいる。

 それがオデットが『霊王騎』になじんでいることも意味する。


(……身体が……動かない?)


『霊王騎』にはオデットも、『魔術ギルド』も知らないシステムがある。

 それが装着者であるオデットに、攻撃するように指示してきている。

 

(わたくしは、この鎧を完全に支配はしていない。むしろ、鎧の方が、わたくしを支配しようとしてきている。この『霊王騎』を使うには──まだ、足りないものが)


 オデットの顔が真っ青になった。


 やがて『霊王騎』は、観客席にいる老ザメルに向かって歩き出す。

 オデットは必死に『霊王騎』を止めようとする。

 だが、鎧は勝手に動き出す。

 鎧の内部に赤い文字が浮かび上がっている。意味がなんとなくわかる。制御不能。調整不足。


 オデットの魔力は、たしかに『霊王騎』になじんでいる。

 けれど、完全に支配はしていない。

 この『霊王騎』は、オデットを主人と認めていない。それがわかってしまった。


「──ごめんなさい。ユウキ」


 オデットは唇をかみしめる。


「わたくしは……あなたの力になりたかったのに……」


 目を閉じたオデットが、すべてをあきらめかけた──とき。




『──なんでオデットの声が聞こえるんだ?』




 オデットの脳裏に、ユウキの声が響いた。


「──ユウキ!?」


 オデットは思わず叫び返す。


「──ユウキ=グロッサリアだと? 彼がどうしたというのだ?」

「オデット=スレイは、一体なんの話を?」

「わかりません。オデット=スレイ以外の者の声は聞こえません」


(──ユウキの言葉は、わたくしにしか聞こえていないのですか?)


 聞こえているのは声じゃない。

 ユウキの言葉は、『霊王騎』をまとうオデットの頭の中に、直接響いているのだ。


『ユウキ。聞こえますか? オデットです!』


 オデットは声に出さずに、頭の中で呼びかけた。

 すると──


『聞こえる。でも、なんでオデットの声が俺の「黒王ロード=オブ=ノワール」の中に響いてるんだ?』

『わかりません。もしかしたら、わたくしが「霊王騎」をまとっているからかもしれませんわ』

『……なんで?』


 呆れたような気配。


『ごめん。よくわからない。なんでオデットが「霊王騎」を使ってるんだ?』

『……起動実験に志願したのですわ。あなた方の力になりたくて……』

『オデットは王都にいるんだよな?』

『はい。魔術実験場で「霊王騎」をまとっています。その状態であなたに呼びかけたら、これが──』

『なるほど。仲間同士が「王騎」を着てると、離れた場所でも話ができるのか……』


 ユウキはうなずいたようだった。


『たぶん、俺たちが会話できているのは、「王騎」同士が魔力で繋がっているからだな。俺が「侵食」した「霊王騎」を、「魔力血」を受けたオデットが着ていて、俺の魔力で動いてる「黒王騎」に繋がっている。今の俺たちはたぶん、魔力的に繋がっている状態なんだろうな』

『……ユウキったら』


 解説をはじめるユウキの言葉に、思わず笑みがこぼれてくる。

 不思議だった。

 ユウキの言葉ひとつで、すべてが解決したような気分になってしまう。

 でも……今はそんな場合じゃない。


 自分のしでかしたことを、ユウキに伝えないと。

 あきれられるかもしれないけれど、この情報は彼の役に立つはずだ。


『申し訳ございません。わたくしは、「霊王騎」を暴走させてしまったようです』


 オデットは震える声で、

 手短に説明する。


 彼女が老ザメルとともに『霊王騎』の起動実験をしたこと。

 うまく使えるような気がしていたこと。

 けれど、攻撃を受ける実験をしたあとで、異常が起きてしまったことを。


『これはわたくしに操れるようなものではありませんでした』


 オデットはユウキに、そう告げた。


『途中で──なにか精神が混乱してきて──制御できなくなってしまったのです。今は、なんとか動きを止めていますが、鎧から出ることもできません』

『……そうなのか?』

『はい。ですから、わたくしは魔力を使い尽くそうと思います』


 それが『霊王騎』を止める唯一の方法だろう。

 魔力が尽きるまで『古代魔術』を使い続け、意図的に魔力切れを起こす。

 この鎧が魔力で動いているなら、それで止まるはずだ。


 実験は失敗。

 オデットは老ザメルの怒りを買い、処分されることになるだろう。


(でも、仕方ありませんわ)


 オデットは唇をかみしめる。自分のふがいなさに怒りがこみ上げる。

 かみしめすぎた唇から、血が流れているのがわかる。

 自分の失敗が悔しくて──ふがいなくて──


『なるほど。つまり「霊王騎」には自己防衛機構があるってことか。それが暴走してるようだな』


 不意に、ユウキの答えが返ってきた。


『そういえば以前「侵食ハッキング」したときに、反撃用っぽい内部魔術のシステムがあったな。あの時は時間がなくて、そこまでいじれなかったけど……あのさ、オデット』

『は、はい!』

『そいつは装着者を守るために、攻撃をしてきた相手に対して、自動的に反撃するようになってるんだと思う。要はオデットが意識を失っても、とにかく敵を倒すようになってるんだ』

『……そういうことでしたの』


 魔術で攻撃されたときに、鎧の方から怒りの感情が流れ込んできた。

 あれは、自動的に反撃させるための機能だったらしい。

 オデットがそれに抵抗できなかったのは、まだ『霊王騎』を完全に支配していないからだというのが、ユウキの推測だった。


『内部魔術を無効化するには……どうすればいいんだろうな。使用者を登録すればいいのかな』

『ユウキ……わかりますの?』

『確信はないけどな。オデット、血を鎧の内側につけることってできるか?』

『……できますわ』


 ちょうど、かみしめすぎた唇を切ってしまったところだ。

 言われるまま、オデットは鎧の内側に唇を当てる。


『あとは、そこから鎧全体に魔力を流してくれ。自分に従うように、命令しながら』

『……鎧全体に魔力を』


 イメージする。

 血をつけた部分から、オデットの魔力を全身に流すように。


(聞きなさい──『霊王騎』。あなたの主人はわたくしです)


 目を閉じて、魔力とともに宣言する。


(オデット=スレイの名において命じます。わたくしに従いなさい)

(古代魔術文明の遺産よ。あなたの力は、人を守るためにあるのですわ)

(侵略のためでも、争い合うためでもなく、二度と大きな戦いを起こさないために)

(それと──この時代に転生した、大切な人たちを守るために)


 オデットは拳を握りしめる──動く。

 少しずつだけれど、身体と『霊王騎』の支配権が戻ってきている。

 魔力のせいか、『魔力血』を受けた自分自身の血のせいか、それとも意志の力かはわからない。

 けれど、確信する。

 オデットは、この『王騎』を支配することができるのだ。


(今一度命じます。わたくしに従いなさい。『霊王騎』よ)


 強く──自分自身でも驚くほど強く、オデットは宣言する。



(太古の村の守り神ロード=オブ=ノスフェラトゥの友人、オデット=スレイの名において命じます。あの方からもらった魔力とともに──我が配下となりなさい! 『霊王騎』!!)



 数秒後──



〈──認証にんしょうに成功しました〉


 声がした。


〈──使用者の、魔力登録を完了〉


〈──使用者登録を確認〉

〈──Lord No04 Lord of Phantom〉

〈──使用者名、オデット=スレイ。支配権を確立〉



〈『霊王騎』の全機能の使用を認めます。ようこそ、オデット=スレイ〉



 しゅう、と音がして、身体が軽くなる。

 腕を上げる──動く。

 足も上がる。

 身体が、問題なく動かせる。さっきまで渦巻いていた怒りの感情も消えている。

 頭はすっきりしている。圧迫感もない。


 身体が軽い。

 というよりも、さっきより動きが速くなっている。

 鎧全体に魔力が行き渡り──自分の身体と一体化したようだった。


「スレイ家のご令嬢。オデット=スレイ!? ずっと黙ったままだが大丈夫か!? 返事をしてくれたまえ!!」

「失礼しましたザメルさま! 大丈夫ですわ!!」


 老ザメルの叫びに、オデットは手を振って答える。

 本当に、問題はない。

 一切ない。『霊王騎』はオデットが完全に掌握している。


「そ、そうか。返事がないからどうしたのかと思ったのだ。精神状態は安定しているのだな? 魔力切れは起きていないか?」

「まったく、問題ございません。魔力も十分ですわ」


 オデットは自分の中の魔力を確認する。余力は充分だ。

 というよりも、さっきよりも魔力消費が少なくなっている。

 本当にこの『王騎』はオデットのものになってしまったのだ。


 というか、これはもう、オデット以外には使えないんじゃないだろうか……。


『ユウキ。一体なにをしましたの!?』

『え? だからその「霊王騎」には、攻撃してきたものに対して自動的に反撃するようなシステムがあったんだろ? それを無効化するには、オデットが完全に「霊王騎」を支配する必要があったんだ』


 なんでもないことのように、ユウキは答えた。


『だからシステムの深いところまでオデットの魔力が行き渡るようにしてみたんだ。反撃システム、止まらなかったか?』

『止まりましたわ』

『じゃあ問題ないだろ』

『そういう問題ではなくて──っ!!』


 思わず頭の中で声をあげて──オデットは、自分が笑っていることに気づいた。


 本当に、困った人。

 近くにいても離れていても、助けてくれる。

 だから──頼りたくなってしまう。側にいたくなってしまう──。


 本当に困った人──そう思いながら、オデットはふと気づいて、問いかける。


『──ところでユウキ。あなたはいま、どこにいますの?』

『王都から馬で一日くらいのところの草原だ。さっきまで、怪我をしてた・・・・・・伝令兵さん・・・・・を救助してた』

『伝令兵さんを、救助?』

『ロッゾ=バーンズさんが王都に向けて送り出した早馬だ。敵に襲われたらしい』


 ユウキは静かに、そう告げた。

 言葉の重大性が、オデットにはわかった。


 国境から王都に向かう伝令兵が、敵に襲われた。

 それは、敵がすでに国内に入り込んでいることを意味する。


『オデットがなんとか理由をつけて「魔術ギルド」に伝えてくれ。敵は十数名の兵士たち。そのボスは、騎士の姿をした「王騎ロード」だ』

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