第116話「元魔王、謎の騎士と戦う」

 ──ユウキ視点──




 間に合ってよかった。

 アイリスの国境視察の途中で、ロッゾ=バーンズさんに死なれるわけにはいかない。

 そんなのは後味が悪すぎる。


 村でロッゾさんを送り出してすぐ、俺は『収納魔術』から『黒王騎ロード=オブ=ノワール』を呼び出した。

 その後はアイリスに兵士や村人の注意を集めてもらって、その隙に飛んで来たんだ。


 途中で、コウモリのディックと合流した。

 ディックは「ロッゾさまは心配いらないと言ってました」って教えてくれた。

 だけど、俺は大型のゴブリンやオークのことが気になった。

 それでこっそり様子を見に来たんだけど──


「まさか『王騎ロード』もどきがうろついてるとはな」


 俺の前には、金色のよろいをまとった騎士がいる。

 全身をおおったフルプレート。おまけに、乗っている馬まで鎧姿よろいすがただ。

 奴を見ていると、『黒王騎』の兜の内側に文字が表示される。


『...Lord No.06 Lord of Paladin? ?? ???』


 けれど数秒経つと、表示は変わる。


『Error..』

『Not as Lord』

『Illegal Copy-Lord』


 なんとなくだが、わかる。

 目の前にいる金色の騎士は『王騎ロード』のひとつ『聖王ロード=オブ=パラディン』のレプリカらしい。

 それを『黒王騎』は「『聖王騎』に似たコピー」と判断してるってことか。




「──『脅威度:S』と交戦に入る」


 金色の騎士が突撃槍ランスを手に突っ込んでくる。

 俺は『黒王騎』の翼を広げ、空中に飛び上がる。


 こいつ相手に、ディックたちコウモリ軍団は使えない。

 使ったら、ロッゾさんたちに正体がばれる。

 まずは距離を取って、様子を見ようと思ったんだが──


「──追撃ついげき。『脅威度:S』を破壊はかいしし、部品を持ち帰る!」



 だんっ!



 甲冑かっちゅうを着た馬が地面を蹴り、騎士ごと宙に飛び上がった。

 しかも速い。

 奴は空中の『黒王騎』めがけて槍を繰り出す。




 がぎぃぃぃんっ!




『黒王騎』のかぎ爪が、2本の突撃槍ランスを受け止めた。

 俺がまとっている『黒王騎』は漆黒しっこくつばさと、かぎ爪のついた巨大な腕を持つよろいだ。

 空中戦と接近戦なら、こっちの方が強い。


「──敵の脅威度をSプラスに変更」


 金色のかぶとの向こうで、声がした。


「異常。武器が通らない。任務中に、このようなものと遭遇そうぐうするとは、不快ふかい!」

「うるさい、不快なのはこっちの方だ!」


 ぎり、と、俺は突撃槍ランスをつかむ手に力をこめる。


「うちの子の仕事中に近場で騒ぎを起こしてんじゃねぇよ! 怪我人が出てトラウマになったらどうする! 少しは考えて動けってんだ」

「偉大なる『聖王ロード=オブ=パラディン』に敵はなし。こちらの武装を再チェック」

「人の話を聞けって教わらなかったのか、お前は」


 ばぎん。


『黒王騎』のかぎ爪が突撃槍ランスに食い込み──握りつぶした。

 俺はさらに『黒王騎』の脚で、金色の騎士を蹴り飛ばした。

 その勢いのまま、奴ごと地面に向かって急降下する。


「な、なに……危険! 危険!? この敵は危険!」


 金色の騎士が叫んだ。


「まさか、この敵はオリジナルの『王騎ロード』!? そんな! オリジナルは我が組織にしか存在しないはず──」

「やっと人の言葉で話したな」


 聞こえたのは甲高い声だった。

 子どもか、女性か、そんな感じだ。


 ──ったく。

 黒幕が帝国か『聖域教会』かは知らないか、子どもを使うな。

 だからあいつらはだいっきらいなんだ。


「作戦を中止。逃走を選択!」


 金色の騎士が武器を手放す。奴は馬ごと身体を反転させて、地面に着地。

 馬の足が限界まで曲がる。衝撃しょうげきを吸収する。


 そのまま、金色の騎士は『黒王騎』に背を向けて、逃げ出した。

 まっすぐに、仲間の騎兵がいる、国境の方へ。


「配下に支援を要請ようせい! 我が逃走を助けよ!!」


 ざざっ。


 奴の声に応えて、国境近くに控えていた銀色の騎兵たちが、こっちに向かって走り出す。

 金色の騎士は、もう俺の方は見ない。

 文字通りに脇目もふらずに、仲間の方へと走っていく。


 めんどくさいな。本当に。



 俺は『黒王騎』を全速飛行。奴の跡を追う。

 ついでに右手の装甲を外して紋章を描いて──魔術を発動。


「『炎神連弾イフリート・ブロゥ』!!」



 ずどどどどどどどどっ!



「──至近弾しきんだん許容きょよう。逃走を優先!」


 俺の手から発射された火炎弾がレプリカ・ロードをかすめる。

 奴は草原をジグザグに走りながら逃げている。

 命中したのは数発だけ。でも、奴は多少ぐらついただけ。

 レプリカの『王騎』だから、オリジナルよりは魔術耐性は弱い。大型の攻撃魔術なら効きそうだ。


 だが、移動速度が妙に速い。

 空中から、奴をピンポイントで捕まえるのは難しそうだ。


「だけど、逃がすわけにはいかないか」


 奴は配下の騎兵に紛れて逃げるつもりだ。合流されるとまずい。

 この先は帝国との国境だ。そこまでは追えない。

 向こうだって、国境の警備くらいはしてるだろうからな。


「しょうがない。ローデリアがくれたあれを使おう」


 俺は『収納魔術しゅうのうまじゅつ』を展開。

 空間から、金属製のびんを取り出す。合計8個。


 これは前に『グレイル紹介』のローデリアに頼んでおいた新兵器だ。

 素材は、安い金属で出来ている。

 フタと底が平らになっているのは『古代魔術』の紋章を描くため。

 もちろん、瓶の中には俺の『魔力血ミステル・ブラッド』を入れてある。


 とりあえず瓶のフタに紋章を描いて、と。

『黒王騎』の腕は飛ばせるようになってるから、瓶を握らせて。

 あとは最高速で奴の前方に回り込んで──


「名付けて──浮遊魔術弾ふゆうまじゅつだん


 俺は金色の騎士の前方に、8つの瓶をばらまいた。

『黒王騎』の腕を飛ばして、広範囲に。


 落ちた瓶は草原の、地面のあたりに浮いている。


「──攻撃を確認。回避!」


 金色の騎士がまた、ジグザグに走り出す。

 だが、奴はすでに攻撃の範囲内だ。


「一斉発動──『紅蓮星弾バーニングメテオ』!」


 次の瞬間、8つの『浮遊魔術弾ふゆうまじゅつだん』が、はじけ飛んだ。



 金色の騎士を取り囲むように、8つの、巨大な火球が発生した。



『浮遊魔術弾』は、俺が使っている杖と同じ構造をしている。

 中には『魔力血』が入っているから、俺の一部として、簡単は浮遊能力を持つ。

 フタに紋章を描くことで『古代魔術』を遠隔発動えんかくはつどうさせることも可能だ。


 ただし、安い金属で作られているから、魔術を発動した瞬間にこわれる。

 その分コストも安くて軽いから、大量にぶつけられるというメリットがあるのだ。


 だから──



「こ、広範囲の魔術攻撃──回避──回避──不能! なんだこれは──!?」



 金色の騎士は、ジグザグに走り続けている。

 だが、逃げ場はない。


 奴の進路にばらまいた『浮遊魔術弾』が生み出した火球は、奴の進路を完全にふさいでいる。

『紅蓮星弾』の火球は、馬車くらいのサイズがある。

 それが8つ、半円を描いて、奴を取り囲んでいる。

 前も斜め前も横も、『紅蓮星弾』の攻撃コースだ。


「────速度を犠牲に──回避を優先!」


 奴は馬を叩いて、真横に進路を変えた。

 その分、速度が落ちた。


 でも、レプリカなのにこの速度か。

 オリジナルの『聖王ロード=オブ=パラディン』で、どれだけ速いんだろうな。


「まぁいいか。発動『地神乱舞フォース・オブ・アース』」


 どがっ。


 金色の騎士の前方に、岩の柱が生まれる。

 奴は反射的に、跳んで避ける。

 頭上で待っていた俺は、奴の腕をつかんだ。


「捕まえた」

「──!?」


 俺は『黒王騎』の爪で、金色の騎士の装甲に傷を付ける。

 そこに『魔力血』を流し込んで──『侵食ハッキング』。



 第1防壁──突破。

 第2防壁──突破。意外とセキュリティが弱いな。

 第2防壁を突破しただけで、内部魔力領域に入れた。


 とりあえず使用権限を奪って。

 あとは、ただまっすぐ走るようにコースを設定。

 停止したら別の仕掛けが作動するようにして、と。


「はい。解放」


 俺は金色の騎士を、地面に下ろした。


「──え? あ、あああああっ!?」


 次の瞬間、騎士は全力で走り出す。

 こいつの仲間がいるのとは逆方向。砦のある方に。


「理解不能──制御不能!? あああああああっ!?」


 叫んでもわめいても無駄だ。馬の制御は俺が奪った。


侵食ハッキング』してわかった。こいつの馬は、魔力で動くゴーレムだ。

 異常な高さまで跳んだり、空中から落下した衝撃を吸収できたりするのはそのためだ。


 だから俺は『侵食』で支配権を奪って、馬をまっすぐにしか走れないようにした。

 速度は、通常の駆け足。

 ただし右にも左にも曲がれない。もちろん、跳ぶのも禁止だ。



「──わ、我らのリーダーが?」

「──どうする? これ以上、敵国に踏み込むことは許されていないが……」

「──取り戻すにも、あの黒い鎧がいては……近づくことも」



 銀色の騎兵たちは、動きを止めた。

 奴らが乗っているのは普通の馬だ。

 あいつらは『レプリカ・ロード』じゃなくて、本当に普通の騎兵きへいらしい。


「もうひとり捕まえておくか。情報収集のために」


 俺は銀色の騎兵たちに向かって、飛んだ。


「き、来た────っ! 全員、散開さんかい!!」

「バラバラになって逃げるのだ!」

「合流地点は例の場所。ひとりでも生き残り、作戦の成否を伝えろ!」



 別に殺すつもりはないんだけどな。

 俺は『黒王騎』を加速させる。


 一番近くにいた騎兵の肩をつかんで、そのまま上昇。

 反転してロッゾ=バーンズさんのところに戻る。

 彼らの部隊の真ん中に、銀色の騎兵 (武装解除済み)を落として、っと。


「情報が必要だろう。捕虜ほりょを差し上げる」


 俺は作り声で、ロッゾ=バーンズさんに告げた。

 前世のものに似せた、大人っぽい低い声だ。口調も似せている。


「……あなたは、トーリアス領で『獣王ロード=オブ=ビースト』を倒した方か……?」


 なんだ。ロッゾさんも知ってたのか。

 まぁ、軍の人なら知ってても当然か。


 でも、どうしようかな。

「偶然、ここを通りかかった」じゃ説得力がなさすぎる。

『黒王騎』がここにいてもおかしくない設定を作っておきたいところなんだが……。


「──我は『聖域教会』の敵対者である」


 とりあえず、重めの口調で言ってみた。

 嘘は言っていない。俺はあいつらが、大嫌いだからな。


「古代の技術を悪しきことに用い、世を乱すものを嫌う。我は、ただ長く生きているものに過ぎぬが、知識と技術は人を活かすためにあることを知っている。ゆえに、世を乱す戦を起こした『聖域教会』は、我の敵である」

「──まさか、あなたは!?」


 ロッゾ=バーンズさんが目を見開く。


 え、まさか。

 これで正体がばれたりはしないよな? え?


「『古代魔術文明』の時代から生きている──『古代器物』と『古代魔術』の守護者……なのか」


 そう来たか。

 ……なるほど。


 俺としちゃ正体がばれなきゃいいんだ。乗っかろう。

 だが、さすがに「俺さまは守護者である」とは言えないから──


「……我は長い生を過ごし、人が争うのを見て来た」


 適当にぼかしておいた。

 もちろん、嘘はついていない。


「この時代においても『聖域教会』のようなものが暗躍あんやくしている。悲しいことだ」

「……おお」

「王国の者には、人を活かすために古代の技術をあつかうことを望む」


 そう言い残して、俺はロッゾ=バーンズさんから離れた。

『黒王騎』の翼をひるがえして舞い上がり、砦の方へ。


 金色の騎士は、砦を囲む壁の前に転がっていた。

 壁に固いものがぶつかった跡がある。奴はあのまま砦の壁に激突したらしい。

 騎士が着ていた鎧は外れて、壁のまわりに散らばってる。

 さっき『侵食』したときに、馬が停まったら鎧が外れるようにしておいたんだ。


 鎧の中身は──黒髪の、背の高い少女だった。意識を失って、地面に倒れている。

 砦の兵士たちが、おそるおそる──といった感じで、倒れた騎士に近づいていく。


 金色の『レプリカ・ロード』は無力化した。

 捕虜として、騎兵もひとり引き渡した。

 あとはロッゾ=バーンズさんたちに任せよう。


 俺は『黒王騎』の高度を上げて、国境の方を見た。

 逃げていった騎兵の姿は、もう見えない。

 代わりに、王国と帝国の国境に作られた砦が見えた。

 長い城壁に囲まれ、いくつもの塔が併設されている。

 あの向こうが『ガイウル帝国』だ。


 そこにはたぶん『聖域教会』の残党と、不死を得た第一司祭がいる。

 ……なにが起こってるんだろうな。あの国では。


 今回の事件が伝われば、王家は国境の守りを強化するはずだ。

 もしかしたら『魔術ギルド』にも、国境警備の仕事が来るかもしれない。

 帰って、アイリスと話してみよう。





『ごしゅじんー!』


 砦から離れたところで、俺はコウモリのディックと合流した。

 ディックたちが近くにいると、『黒王騎』を使ってるのが俺だってバレるからな。

 今回は別行動を取るしかなかったんだ。


『おつかれさまでしたー。ご無事でなによりですー』

「ありがとう。アイリスはどうしてる?」

『ご無事です。ごしゅじんの状況をお伝えしたら、ご意見をいただきました』

「聞かせてくれ」


 アイリス──アリスは変な発想力を持ってるから。

 今回の件についても、なにか思いついたのかもしれない。


『はい。お伝えしますー。


「ディックさんから、巨大な魔物と砦の兵士さんが戦っていることを聞きました。

 それが帝国のしわざだとすると、どうして魔物なんでしょう?

 魔物を送り込んだって、砦を占領できないですよね? できたとしても、すぐに取り返されちゃいますよね? 砦を奪うには多くの歩兵と補給が要りますよね。なんでこんなことしたんでしょう?

 マイロードはどう思いますか?」


 ですー」


「思いっきり俺に判断を丸投げしてるな……」


 確かに、魔物を放ったところで、砦の占領はできない。

 金色の騎士や仲間の兵士もいたけれど、あいつらだけで砦を落とすのは無理だ。

 後詰めの兵士もいなかった。


 となると、あれは巨大化した魔物を使った『レプリカ・ロード』の稼働実験かどうじっけんだろうか。

 いや、それだと砦の兵士を巻き込む理由が弱い。

 もしかして、他に目的があるのか?


 まさか……砦に注意を引きつけて、アイリスを狙ったのか?


「ディック。俺はアイリスのところに戻る。お前はこの周囲を調べてくれ。怪しい奴がいないかどうか」

『しょうちですー!』


 調査はコウモリたちに任せて、俺は『黒王騎』を全速稼働。

 まっすぐに、アイリスのいる村に戻ったのだった。





「アイリス殿下!?」

「あ、はい」


 結論から言うと、アイリスは無事だった。

 というか、スライムのメイを腕にくっつけて、『古代魔術』の練習をしてた。

 コウモリのニールと一緒に。

 怪しいおどりを踊っているようにも見えるけれど──


「……なんともないよな。アイリス」

「はい。もちろんです」

「敵や、侵入者は?」

「まったくありません。ニールさんや他のコウモリさんが、守ってくれましたから」

「……そっか」


 よかった。

 砦で騒ぎを起こして、その間にアイリスを狙う──という計画ではなかったみたいだ。


 ……心配しすぎたみたいだ。

 アイリスがこのあたりに来ると決まったのは数日前だ。しかも、途中で日程を変更してる。ピンポイントで狙うのは無理か。


「なにか……あったんですか?」

「砦の方に『レプリカ・ロード』が出た」


 俺はアイリスに事情を説明した。

 アイリスはうなずいて、


「そうですか……それでマイロードは、心配してくださったんですね」

「ああ。でも、アイリス狙いではなかったみたいだな」

「……えへへ」

「なんで笑うんだよ」

「マイロードが心配してくれたのがうれしいんです」

「いや、心配はさせないでくれ、寿命が縮む」

「不老不死でしょう?」

「気分的に縮むんだ。前世のアリスは変なことばっかりやってて、俺をさんざん心配させてたからなぁ」

「えー? それほどじゃないですよ?」

「『フィーラ村』にいたころ……お前が10歳のときだったか。『アリスは畑の手伝いをしてる』という偽情報を流して、その隙に古城に忍び込んだことは忘れてねぇぞ」

「あれはレミリアお母さんが作ってくれた新しい服を、マイロードに見せようとしただけじゃないですか」

「ほほぅ。それで済ませるつもりか」

「いけませんか?」

「お前ね。古城に帰ってクローゼットを開けたら、いきなり中からアリスが飛び出してきたときの、俺の気持ちを想像してみろよ。30字で」

「『新しい服を着たアリスはとてもかわいい。今すぐお嫁さんにしよう』」

「それは想像じゃなくて妄想だ」

「だって、マイロードは教えてくれたじゃないですか。『獲物を狙うときは、まず他の場所に注意を引きつけろ。その間に接近して目的を果たすべき』って。それを実践しただけですよ」

「教えた本人を獲物にすんな」

「アリスは愛の狩人ですから」

「……前世の俺の教育方針は間違っていたのだろうか」

「いえ、マイロードはアリスを含めて村のみんなを、正しく教育してると思います。教わった本人が言うんだから間違いありません!」


 そうかなぁ。

 前世の俺の教え子ときたら、聖剣使って転生したり、『聖域教会』に潜り込んで内部から壊滅かいめつさせたり、200年続く商会を作ったり──なんか、当時の俺の教育方針が間違っていたような気になってくるんだが……。


「……とりあえずお茶にしようか」

「そうですね」


 アイリスがお茶を淹れに立つ。

 そういえば……アイリスはさっき言ってたな。

『獲物を狙うときは、まず他の場所に注意を引きつけろ。その間に接近して目的を果たすべき』って。前世の俺の教育のひとつだけど。

 それは、一般的な狩りや戦術でもある。

 その視点で砦の事件を見ると、やはりあの場所に注意を引きつけて、そのすきに別働隊がなにかをしようとしていた、と考えられる。

 狙いがアイリスじゃないとすると……。


『『『ただいま戻りましたー』』』

「お疲れさま。それで、砦のまわりや街道に怪しい奴はいなかったか?」

『『『なかったですー』』』

「……そうか」


 なにもないなら、それに越したことはないんだが。

 でも……気になるな。王都にはマーサやレミー、オデットもいるからな。


「悪い。ディックと、他に何匹か、王都まで飛んでくれるか? マーサとオデットに、ここで起きたことを伝えて欲しい。あと、念のため注意するようにと」

『『『しょうちですー』』』

「少し休んで、俺の『魔力血』を補給してからな」


 それから、俺とアイリスはコウモリ軍団と一緒にひとやすみ。

 その後、ディックとコウモリ数匹を、王都へと送り出したのだった。


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