第48話「報酬の約束と、失われた『王騎(ロード)』のありか」
それから、俺はアイリス、オデットと合流した。
今度は3人で、『魔術ギルド』の上級魔術師を保護して、簡単な
俺は、意識が回復した上級魔術師から身分証を借りて村に戻り、C級魔術師のデメテル先生に状況を伝えた。
その後は、デメテル先生を連れて、ふたたび『
先生立ち会いのもと、ドロテア=ザミュエルスを拘束したのだった。
「ドロテア
『黒い森』の奥で、デメテル先生は言った。
俺とアイリス、オデットの目の前で、傾いた『霊王騎』が停まっている。
ドロテアは縛って、目隠しをして、さるぐつわを噛ませた上で、馬車に放り込んである。
回復した上級魔術師たちが、奴を見張っているはずだ。
結局、俺とアイリスとオデットが相談した結果──
「『
──で、話を押し通すことにした。
あの後、ドロテアとは顔を合わせたけど、あいつは俺が自分を倒した相手だとは気づかなかった。
『黒い森』は文字通り暗い。
その上、奴と戦ったときの俺は顔を隠していた。
アイリス、オデットと一緒に奴を
声も出さないようにしていたから、気づかなかったんだと思う。
あとは奴が、『魔術ギルド』にどんな証言をするかだ。
いざという時のことも考えて、対策だけはしておこう。
「こんな巨大な『古代器物』は、見たことがありません……」
巨大ヨロイ『
「『
「私たちがここに来たとき、ドロテアを倒した者はすでに立ち去っていました」
アイリスは横目で俺の方を見てから、先生に告げた。
「何者なのでしょうか……? 先生に心当たりは?」
「わかりません」
「わたくしも信じられませんわ。『古代器物』のヨロイの腕を切り落とすなんて……」
だからオデットも、こっち見んな。
「それだけの武器と腕前を持っていたということでしょうね。ほんとに、貴重なものを見させていただきましたわ」
「ドロテア=ザミュエルスを捕らえた者は
「気になりますか? アイリス殿下」
「王家の者としては、その方に報酬を与えるべきだと思います。ですが、探そうにも、手がかりはドロテアの証言だけとなれば……」
「その者を探して爵位を、というのは、難しいでしょうね」
デメテル先生は、首を横に振った。
「ですが、今回のことはあなた方の
まぁ、このあたりが落としどころだろう。
俺が表に出ると、聖剣の無断使用が問題になりそうだからな……。
ちなみに聖剣はコウモリ軍団に頼んで、集団で宿の方に運んでもらってある。
本当は、聖剣を
巨大ヨロイ『
これがなければ聖剣を召喚することもなく、普通にドロテアをボコって終わりだったんだけどな。
「……こんなのが8体もあるのか」
片腕と背中の補助腕をなくした『霊王騎』は、残った腕を地面にめりこませて、停まっている。
さっきハッキングして調べたら、こいつには自己再生能力まであるらしい。
落ちた腕も、くっつけて置いておけば、元通りになるはずだ。
おそろしいな。『古代魔術文明』。
古代の世界ではこんなものがゾロゾロ歩いてたのかよ……。
ライルとレミリアが『古代器物』を封印した理由もわかる。
こんなやばいオモチャを『聖域教会』が使ってたら、世界が滅びかねない。
すごいな。ライル、レミリア。
どうやったかは知らないけど──お前たちの消息がわかったら、ほめてやるよ。
万が一生きていたら、直接。
死んでいたら、その墓に。
さすが『ディーン=ノスフェラトゥ』の教え子だ。
お前たちは俺の自慢の子どもたちだ。誇りに思うよ。
できたら、その頭をなでてやりたいよ。昔みたいに。
「……問題は、あいつらが持ち逃げした機体がどこにあるか……だが」
前世の俺と同じ名前を持つ『王騎』、『ロード=オブ=ノスフェラトゥ』。
ドロテアの話によると、ライルとレミリアはそれを『聖域教会』から奪って、逃げた。
やつらの事だから、転生した俺とアリス用にとっといた、ってことだろうな。
それはたぶん、封印されてない状態で、この世界のどこかにある。
……どこにあるかは、だいたい予想はつくけどさ。
うちの子のやることだもんな。
俺はあいつらの親代わりで、先生でもあったんだから。
「……ユウキさま?」
「……奴から、少しだけ情報を聞きました。あとで話します。殿下」
「……はい」
俺とアイリスは小声で言葉を交わした。
オデットはなにもかもわかったような顔で、こっちを見てる。
彼女にもあとで事情を話しておこう。
「──カイン殿下がいらっしゃいました!」
不意に、デメテル先生が叫んだ。
『黒い森』の入り口から、いくつもの灯りが近づいてくる。
やがてそれは十数人の魔術師の姿になる。
ドロテアの
先頭にいるのは、金髪の若い男性。
アイリスとオデットが「カイン (兄さま) (殿下)……」とつぶやくのが聞こえた。
あれがB級魔術師にしてアイリスの兄、カイン=リースティアか。
「ごくろうだったね。おかげで犠牲者を出さずに済んだ。あなたたちの
「いえ、アイリス殿下たちの勇気ある行動がなければ、自分は事態に気づくことさえありませんでした。どうぞ、妹君をほめて差し上げてください。カイン殿下」
「その通りだ。よくやってくれたね。アイリス、オデット姫、それと……君は?」
カイン王子の目が、俺の方を見た。
「グロッサリア
今は『魔術ギルド』の同士としての扱いだから、ひざまづく必要はない。
だから俺は王子の目を見返して、答えた。
「君がアイリスの
「ユウキさまにはいつも助けられています」
「わたくしの誇れる友人でもあります。殿下」
「助かったよ。今回、ドロテア=ザミュエルスに倒された魔術師たちは、抜け駆けをしたようでね。自分が村で聞き込みをしている間に、勝手な行動を取ったんだ。知らないところで情報を得て、こちらに内緒で、手柄を立てようとね」
そう言ってカイン王子は肩をすくめた。
「まったく困った連中だ。それに比べて、君たちは手柄に飛びつくこともなく、こちらに正確な情報を伝えてくれた。ドロテアを倒した者が他にいるなどと、言わなければわからないだろうに。評価に値するよ」
「その判断をしたのは彼らです。自分は、報告を受けただけですので」
デメテル先生が俺たちの方を指し示した。
「評価するのであれば、アイリス殿下とオデット姫、それに、護衛騎士のユウキを」
「もちろんさ。第2王子カインの名にかけて、報酬を約束しよう。君たちがいなければ、ドロテアの発見も遅れていた。奴の仲間が先に来て、このヨロイを持ち去っていた可能性もある。そういう意味では、君たちは『古代器物』を手に入れたとも言えるわけだ」
カイン王子が、アイリスとオデット、それから、俺を見た。
「なにを望む?」
「私は特に。ユウキさまに報酬をあげてください」
「わたくしも。今回はユウキに譲りますわ」
アイリスとオデットは、笑いをこらえるような顔で俺を見てる。
ふたりのことだから、そう言うと思ったけどな。
まぁ、遠慮することもないか。
「今回は3人の功績です。俺ひとりが報酬をいただくわけには参りません」
「わかった。ならば3人に均等に報酬を与えよう。ただ、アイリスとオデット姫が君に──と言うのだ。なにか希望を聞いてやりたいものだが」
「でしたら、地図を見る権利をください」
俺は言った。
「現代の地図と、可能な限り古い地図を」
「地図を? それは構わないが、何故だ?」
「この巨大ヨロイ『
もちろん嘘だ。
現在の地図と、『八王戦争』の時代に近い地図を見比べれば、フィーラ村があった場所がわかる。ここからどれくらい離れているか、移動にどれくらい時間がかかるかも、計算できるはずだ。
ドロテア=ザミュエルスの言葉が正しければ、ライルとレミリアは『
機体の名前は『ロード=オブ=ノスフェラトゥ』。
この名前は、俺に対するメッセージだ。
だから俺には『ロード=オブ=ノスフェラトゥ』の隠し場所がわかる。
『王騎』の失われた機体があるのは、俺が住んでいたあの古城だ。
あいつらのことだから、その機体の名前が、転生した俺かアリスの耳に入ることも計算していたはずだ。
だから、わざわざ目立つ名前をつけたんだろう。
『聖域教会』にとって『忌まわしい名前』を。
──『ロード=オブ=ノスフェラトゥ』はフィーラ村の古城に
それが、ライルとレミリアにとっての常識だからな。
「わかった。護衛騎士ユウキ=グロッサリアの願い、受け入れよう」
カイン王子は俺を見て、しっかりとうなずいた。
「この程度であれば、国王陛下の裁可をあおぐまでもない。B級魔術師カインとして、ユウキ=グロッサリアに『魔術ギルド』の書庫を開放する。調べ物があるのだろう? アイリスと、オデット姫の手伝いも許可する。以上だ」
「ありがとうございます。殿下」
俺とアイリス、オデットはカイン王子に頭を下げた。
それから、デメテル先生とともに、森の出口に向かって歩き出す。
俺たちの仕事はここまでだ。
あとはカイン王子たち、上級魔術師に任せよう。
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