第45話「元魔王、探索する」

 数日後。

 俺たちは予定通り、王都近くの魔物討伐に出発した。

 メンバーは俺と、アイリス、オデット。

 それと、教官としてC級魔術師のデメテルがついてきた。


「……アイリス殿下とユウキどの、オデットどのなら心配はないな」


 C級魔術師のデメテルは、困ったようなため息をついた。


「我々の目的は街道の見回りだ。強力な魔物は私が倒すので、無理をしないように」

「「「はい」」」


 俺とアイリス、オデットは声をそろえた。

 無理はしない。というか、する必要がない。


 昨日のうちに、準備はすべて済ませておいたからな。






『ごしゅじんー。仲間から連絡なのですー。西の方角に、ラージラビットの群れがいるのですー』

「ありがとうディック。それで、他の連中は?」

『探索の予定地点に向かっているですー』


 俺の肩で、ディックが答えた。


 今回の調査のために、俺はコウモリたちに大量の『魔力血ミステル・ブラッド』を与えておいた。

 連れてきたコウモリたちは、ディック、ニール、ゲイルを含めて12匹。

 手分けして、怪しいところを調べさせてる。


「デメテル先生」

「なにかな。ユウキ=グロッサリア」

「上級魔術師の皆さまは、周囲の村で聞き込みをしているのですよね?」


 俺は支給された地図を広げた。


「犯罪者が潜みやすい場所は、王都近くの岩山、洞窟、それから『黒い森シュヴァルツヴァルト』だと聞いています。そのあたりの捜索そうさくはしないのですか?」


 これはオデットからの情報だ。

 昨日話したときに、人が隠れやすい場所について聞いておいた。


「そちらは最後に探索することになっている」


 C級魔術師デメテルは答えた。


「忘れているわけではない。むろん、捜索する予定だ」

「現在は、上級魔術師の方たちはいないのですね?」

「ああ。特に『黒い森シュヴァルツヴァルト』は昼間でも暗き、闇の森だ。充分な準備が必要な上、確実にそこにいるという確信がなければ、踏み込むのは危険すぎる」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺は素直に引き下がった。


 必要な情報は手に入れた。

 これだけは、C級魔術師のデメテルから手に入れるしかなかったんだ。


 俺はコウモリネットワークで、ドロテア=ザミュエルスを探すつもりだった。

 でもその前に、上級魔術師たちの居場所を確認しておかないと。


 対『聖域教会』でピリピリしてる上級魔術師たちのところに、ディックたちを送り込みたくない。捕まったら面倒なことになりそうだし。

『ドロテアの仲間か!? 連絡を取っていたのか!?』なんて疑われるのはごめんだ。


 上級魔術師がいないのなら、安心してコウモリたちを送り込める。

 ディックたちにはそれぞれ、岩山と洞窟どうくつと、『黒い森』に行ってもらおう。


「……手がかりが見つかったら、俺はこの場を離れる」


 アイリスに近づき、俺は小声でささやいた。


「……そうなったら、アイリスはデメテル先生をごまかしてくれ」

「……ご一緒してはだめですか?」

「……王女殿下がいきなり消えたら大騒ぎだろ」

「……うぅ」


 ローブ姿のアイリスが、心配そうに俺を見ていた。


「でもでも、私だってマイロードのお役に立てるんですから、いざというときは召喚してください」

「そのときはニールに合図させる」

「約束ですよ?」


 それから、しばらくして──


「いたぞ! 魔物だ。方角は西! ラージラビットだ!!」

「「「了解しました!!」」」


 C級魔術師デメテルの合図で、俺たちは戦闘に入った。





 結局、街道にはザコの魔物しか出なかった。


 1日目は王都近くの村に一泊して、2日目も俺たちは街道近くの魔物退治。

 数体の魔物を倒したあと、夕方近くにまた、村に戻った。


 ディックたちが戻って来たのはその直後だ。


『──ごしゅじんー。コウモリネットワークの報告ですー。「黒い森シュヴァルツヴァルト」なのです!!』

「なにかあったのか?」

『森の入り口で、木々の間に隠れて──小さな馬車が停まってたのですー。地面に、ローブが落ちてたのです! 「伏せたオオカミ」の家紋かもんつきだったのです!』

「伏せたオオカミ?」


 俺はデメテル先生の方を見た。

 彼女は村の住人と話をしてる。宿の交渉と聞き込みだ。


「アイリス……オデットも聞いてくれ。『伏せたオオカミ』の家紋って──」

「……ウォルフガング伯爵家です」

「……それが、どうかしましたの?」


 アイリスは納得したように、オデットは不思議そうに俺を見た。


「ドロテア=ザミュエルスはウォルフガング伯爵家の知人だった。少なくとも、ガイエル=ウォルフガングに魔術を教えるくらいの仲だった。となると、馬車とローブくらいもらっててもおかしくないな」

「ないですね」


 あるいは、ドロテアに奪われたのか。

 どっちにしても、奴がそこにいる可能性はあるな。


「……手がかりを見つけましたのね? ユウキ」

「ああ。『黒い森シュヴァルツヴァルト』だ」

「近いですわね。ここから2時間くらいでしょうか。馬なら……1時間弱ですわね」

「だからディックの戻りも早かった。夜になったら行ってくるよ」


 俺がそう言うと、オデットは呆れたように。


「ユウキ。まさか、一人で奴を捕らえるつもりじゃないですわよね?」

「情報収集するだけだよ」

「……なにかあったら、本当に呼んでくださいね。マイロード」

「無理に戦うつもりはないって。それに、切り札もある」


 俺はオデットとアイリスに向かって、うなずいた。

 動くのは夜だ。


『聖域教会』のシンパがなにを企んでるのか、この目で確認しに行こう。

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