第3話 映画部ちゃん
キーンコーンカーンコーン。
終業式を終え、私は久留美に言われた通り映画部の部室前へと向かった。
長い廊下の先、映画部の部室前辺りで壁にもたれかかる久留美の姿が見える。
私はカバンを肩に掛け直し、早足で久留美へ歩み寄ると久留美も私に気付いたようで、手を振りながら近づいてきた。
「なんでLINE返してくれなかったの? まぁ、来てくれたからいいや」
久留美の問いに俯きながら答える。
「いや……でも……今日はやっぱり……」
久留美は口籠る私の手を引っ張ると、映画部の部室の扉を勢い良く開いた。
ガチャ。
「こんにちはー」
尻込む私を余所目に、久留美が元気な挨拶で先陣を切った。私は久留美の陰に隠れながら、恐る恐る部室へと入る。
部員の人達の視線を感じる中、私はその視線を逸らす様にゆっくりと室内を見渡した。
十畳程の長細い室内には、繋ぎ合わされた大きな長机が二つ、またそれに沿う様に三つの長椅子がエル字型に並んでいる。
机の上は、台本と書かれた冊子や何らかの資料で隙間無く覆われ、机の奥に位置するラックは、小道具の様な物で溢れ返っていた。
「おおー、よく来てくれた!」
私達に気付いた才谷さんが両脇にパイプ椅子を抱え、意気揚々と出迎えに来てくれた。
「まあまあ、座って」
促されるまま、目の前で広げられたパイプ椅子に久留美と横並びで座る。
才谷さんは私達の前で中腰になり、私と久留美の顔を交互に見比べた。
「やっぱり見れば見る程、そっくりだね! いやー、素晴らしい!」
「はははは、まあ、はい」
才谷さんの熱量に圧倒され、私は下手くそな愛想笑いで答えた。
「……」
反応の無い久留美を横目でチラっと見る。
久留美は、足をパタパタとさせながらキラキラとした目で室内を見渡していた。
「ちょっと、久留美……」
「えっ? あっ、ごめんなさい」
「いいよ、いいよ、小道具とかカメラとか本格的で珍しいもんね?」
才谷さんの問いかけに久留美が前のめりになって答える。
「ほんと、凄いです! 異世界みたいです!」
「半ば強引に誘ってみたけど、少しは興味を持ってくれたみたいで嬉しいよ。そうだ、とりあえず自己紹介でもしとこうか」
才谷さんは、両手をメガホンの様に口元に当たると大きく息を吸い込んだ。
「集合ー!」
才谷さんの張りのある声が室内に響く。すると、ラック横の扉から部員であろう人達がぞろぞろと現れた。
圧倒される様に久留美と共に思わず立ち上がる。私は、目で追う様に室内に溢れ返る人数を数えた。男が4人、女が5人。
その中で一際、体格のいい男の人が微笑を浮かべながら口を開いた。
「よっ、才谷新部長!」
「やめて下さいよ、部長」
「もう、部長じゃねーわ、それより……新人さん?」
男の人が不意にこちらへと目を向け、私と久留美に話しかけてきた。
「「あっ、いや、その……」」
反応に困っている私達を察してか、男の人はまた才谷さんへと視線を移した。
「まあ、いいや、それよりどうしたの? 才谷新部長」
「もう茶化さないで下さいよ」
「ごめんごめん、OBは黙っとくんで続けて」
男の人はそう言うと、部屋の隅へと下がって行った。
「ゴホン!」
才谷さんは仕切り直す様に咳払いをし、場を静めた。
「えー、皆さんにご承知して頂いた通り、今回の作品の主演は、この澤田姉妹に演じてもらいます」
才谷さんの紹介を受け、戸惑いながらも久留美と共にペコリと頭を下げる。
パチ……パチ……パチパチパチパチ。
才谷さんの拍手につられる様にその他の部員が後に続いた。拍手が鳴り止むと同時にゆっくりと顔を上げ、部員の人達の顔色を窺う。
すると、一人の女の子が目についた。その子は、集団の後方で腕を組み、明らかに私の事を睨みつけている。
私は思わず、再度顔を伏せてしまった。俯いた私の視界にスッと一歩前に出る久留美の足元が映る。
「こんにちは、一年一組の澤田久留美と申します。普段は文学部に所属していますが、この度才谷部長のお誘いで春休み期間に限り、映画部の撮影に参加させていただく事になりました。一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」
パチパチパチパチ。
久留美は一歩下がると、促す様に私の腰をトントンと優しく叩いた。私は久留美に小さく頷くと、一歩前に出る。
「こんにちは、一年二組の澤田伊久美と申します。普段はテニス部に所属し……」
「チッ」
突然の舌打ちに静まり返る室内。部員の人達がお互いを確認する様に顔を見合わせる。
そんな中、一人の女の子が私と久留美を横切って、入り口の扉に手を掛けた状態で口を開いた。
「遊び半分で来るなよ、鬱陶しい」
ガチャ、バタン。
「ちょ、あかねー」
「あかねー」
後を追う様に二人の女の子も部室から走り去って行った。
ガチャ、バタン。
ざわざわと騒がしくなる室内。
すると突然、才谷さんがスッと私と久留美の顔を覗き込み、
「えー、ごめんね……なんか、空気悪くしてしまって、今日はあれだから明日また改めて来てもらってもいいかな?」
才谷さんはバツの悪そうな顔でそう言うと、ポケットの中からスケジュール帳のコピーを取り出し、私に手渡した。
隣の久留美と目を見合わせ、無言で頷きあう。
「「失礼しました」」
部員の人達に浅く会釈をすると、私達は重い足取りで部室を後にした。
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