第2話 学校ちゃん

 キーンカーンカーンカーン。


 予鈴と共に校門を通り抜ける。足早に正面玄関へと向かい、自分の下駄箱を開いた。


「んっ?」


 下駄箱の中に何かが入っている。近づいてよく見てみると、それは手の平に収まりきる程、小さく折り畳まれた手紙だった。私は、手紙を手の中に握りしめ、久留美の方を見る。すると、久留美は不思議そうな顔で口を開いた。


「なに? どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


 手紙をポケットの中にこっそり忍ばせると、急いで上靴へと履き替える。そして時折、キョロキョロと周りを見渡しながら教室へと向かった。


「ねえ!」


 久留美の大きな声に体がビクッとした。


「さっきから何回も呼んでるんですけど!」


「ご、ごめん、どうしたの?」


「終業式おわったら、映画部の部室前に集合ね」


「えっ? あっ、うん、わかった、また後で」


 一組の教室に入って行く久留美の後ろ姿を見送ると、私は一目散にトイレへと駆け出した。


「おはよー」


「伊久美? おはよー」


 手洗い場にいた美奈に走りながら挨拶を済ませると、勢いそのまま個室トイレへと駆け込んだ。


 バタン、ガチャ。


 鍵を閉め、高鳴る鼓動を抑えようとゆっくり深呼吸をする。


「すーはー、すーはー」


 期待と緊張を織り交ぜた様な感覚が胸をキューっと締め付ける。私は覚悟を決め、ポケットの中から手紙を取り出した。そして、震える指先で一辺ずつ慎重に手紙を広げる。広げた手紙は、A5サイズのメモ帳の様なものだった。手紙の中央に書かれた文字を指先でなぞりながら小さな声で読み上げる。


「突然のお手紙、ごめんなさい。映画部には来ないで下さい。人出は足りているので私達だけで充分です。それに正直、才谷さん以外は誰もあなた達のこと歓迎していませんよ」


 手紙を読み終えると期待に踊らされていた胸の鼓動は、何事もなかったかの様に落ち着きを取り戻していた。手紙を裏返し、隅々まで目を通すが、書かれているのはそれだけだった。ため息を一つ吐くとポケットの中に手紙をクシャッと雑に入れ、水洗レバーへと手を伸ばした。


 ジャー、ガチャ。


 便器の水を流し、俯きながら個室トイレを出る。


「伊久美ー」


 手洗い場にいる美奈に呼びかけられた。私は小走りで美奈へと駆け寄り、


「待っててくれたんだ」


「うん、もう朝礼始まるよ!」


「ごめんね、急ごう!」


 ひらめくスカートを手で抑えながら、二組の教室へと走った。息をあげながら駆け込んだ教室に先生の姿は無く、飛び交う雑談でざわざわと騒がしい。


「セーフ」


「ふー」


 美奈と顔を見合わせ、それぞれの席へと着く。席に着くと同時に先生が出席簿を携え、教室へと入ってきた。


「あーい、出席取るぞー」


 先生の言葉に、散り散りとなっていたクラスメイトが一斉にそれぞれの席へと着いた。


「安藤、飯田、枝重、加藤……」


 先生が出席を取り始めると、私は机の下でスマホを起動させた。チラチラと先生の様子を窺いながらLINEアプリを開く。


(今日、やっぱり映画部に行くのやめない?)


 久留美に宛てた文面を見直し、メッセージを送信する。すると、三秒も経たずに既読が付いた。


 ブーブー。


 久留美からの返信。スマホへと目を落とす。


(えっ? なんで?)


(なんか、今日下駄箱にてが……)


 スマホに文章を打ち込んでいる最中、ぼんやりと私を呼ぶ声が聞こえた。


「澤田……澤田!」


「はい!」


 操作中のスマホを机の中に放り込むと、顔をパッと上げる。


「一回で返事しろ!」


「はい、すみません」


 隣の席の誠人がシュンとする私を指差しながら、悪戯っぽくニシシと笑う。私は、放っとけと言わんばかりに頬を膨らませ、誠人にプイッとしてやった。

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