第455話 決着
「さて、それなら約束通り田中つぼみは連れていく。今後二度とあんたからは関わらないでもらおう」
「…………ふう」
俺がそう言うと栄三は深く息を吐き、一旦落ち着いているようだ。ここで変に取り乱したり、叫んだりしないあたりさすがは大企業のトップだ。
次に口を開いた時には既に冷静さを取り戻していた。
「まあいい、たかだか小娘1人失っただけだ。何の支障もない……いや、むしろ如月が内輪もめしているのならこちらもありがたい」
「そうかい……それなら話は終わりだ。」
新参者の俺には細かい4大名家とやらの事情はまだ把握しきれていない。もしかしたら俺の選択は4大名家の当主として途方もない間違いをしているのかもしれない。
娘2人だけ精一杯なのにな……まあでも……。
「…………」
家族を捨て駒にする男よりは……間違っていない。
(はぁ、自分でも思う……損な性格だよな。自ら仕事を増やすとか社畜の鑑だな。自分で言うことでもないけど)
俺たちが出ていこうとすると、栄三は怪訝な顔で俺に話しかけてくる。
「これは忠告だ。物事は何もかも得ようとすると、うまくはいかないものだ。だから人間は『切り捨てる』という選択で前へと進む。家族などその最たるものだ。私の目から見て……君は何もかもを求め過ぎだ。それではいつか破滅するぞ」
「なんだ? 説教か? あんたに説教されるほど落ちぶれちゃいないんだけど」
「ふん、4大名家竜胆家の当主とあろうものが壊れかけの娘、さらにはぽっと湧いて出て来た実子にご執心のようだからね、老婆心だよ。非常に無駄な時間だ」
「……俺はあんたを認めない。家族を切り捨てたあんたをな」
俺はうんざりしながら、嫌味をたっぷり込めて栄三に言い放つが、栄三はそれを気にする様子もなく、言葉を続ける。
「私は君がつまらないことで消えることを危惧しているだけだ。せいぜい如月や北条に遅れは取らぬことだ」
「余計なお世話だ……俺は二度とあんたとは関わりたくない。だけど、俺の家族に手を出すようなら、田中家ごとつぶしてやる」
「肝に銘じおこう……」
俺はそんな栄三の言葉を背に部屋を出た。如月とフレアさんが俺に続く。
……俺は栄三を認めない。
家族を切り捨てた男を。
俺は絶対にどんなことがあっても切り捨てない。俺が娘たちと過ごした時間は決して無駄なんかじゃない。
◇◇◇
義孝たちが出て行ったドアを田中栄三はしばらく見ていた。
部屋には栄三と……ずっと空気の様に存在感を消していたボマーが居た。
「家族か……よくもあそこまで無価値で、俗物なものに情熱を捧げれるものだ。これだから、昔から竜胆家とは相いれない」
「ほんまやなぁ。わいも家族なんてもんは知らん、気が付いたらガキの頃から傭兵やっとったさかい。だけど……義孝はんを見とるとええもんなきがするわぁ。輝いてみえんかったか?」
「くだらん……私はそんな妄執に付き合っている暇はない。今後竜胆との取引は控える……如月の内輪もめを最大限利用して立ち回るとしよう」
「くっくっく、あんさんみたいな人間がいるとわいらは食いっぱぐれることはないなぁ」
栄三はソファーから立ち上がり、窓から高層階から眺めを見る。
「娘を捨てても罪悪感のかけらもない……私はそう言う人間なのだ。恐らく彼とは一生わかりあうことはできないだろう……」
そうして頭には次の仕事のことで頭が埋め尽くされていた……。1年もすれば娘の名前すら忘れるかもしれない……それほどまでに栄三は家族に興味がなかった。
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