第452話 自分にできること

   ◇◇◇


 竜胆実花は自分の言葉に動揺しながらも、敵意を向けてにらみつけてくるつぼみを見据えながら考える。


 実花は由衣につぼみがどんな人間なのかを聞いた。それは実花が知らなかった最後のピースだ。


(これで私はやっと……田中つぼみと向き合える。私がすべきことはつぼみさんの意識を緩ませ田中家を内部崩壊させる……『パパがすることへのサポート』)


 実花は敵意のある視線を真っ向から受け止めて、つぼみの瞳を見る。実花の持っている感情はつぼみとは違い敵意ではなく……同情と悲しみだ。


「つぼみさん……父親と戦えないなら、縁を切った方がいい」


「……!! あんたがそこまで言うの……家族に人一倍依存してるあんたが!」


 実花のことを調べたのだろう。今の言葉はつぼみにとって予想外だった。


 つぼみは嫌悪しながらも目を見開く。そして、皮肉っぽく笑う。


「あはは、これは傑作ね。私は自分が戦うことになるあんたと妹のことを調べた。その第一印象はあんたらなら、『私のことを理解してくれるかもしれない』だった」


「…………」


 つぼみは口を閉じる実花を見て、さらに冗舌に語る。その声色には実花未来への怒り、失望は勿論……自分への怒り、失望も含んでいるようだった。


「あんた達は同じ4大名家という集団にいて、さらにはあの狂った竜胆美奈の娘。さぞ……つらい想いをしてきたんでしょ!?」


「そうか、ママと会ったことがあるんだったね」


 同意を求めるつぼみの言葉に……実花はゆっくりと左右に首を振る。


「ママが狂ってるとか……身内以外から言われるとムカつくけど……まあ、否定はしないよー。実際ママって狂ってたしー」


「あんたも両親の愛を得るためならなんでもするでしょ?!?」


「なんでもするよ」


 実花は即答する。その気持ちに偽りはない。

 つぼみは実花の言葉を聞くと安堵に近い表情を浮かべるが……。


「でもそれはパパとママだからだよ」


「えっ……?」


「血の繋がり以上にパパとママだから、私は家族の愛が欲しい」


「…………」


「つぼみさんは違うでしょ? 厳しいこと言うけど、血の繋がりさえ有れば誰でもいいんでしょ?」


「そんなこと……」


 ないとは言い切れない。今までの父の言動が頭の中に走馬灯のように流れる。


 幸せそうなクラスメイトたちの言葉が流れる。誰1人、血に執念していなかった。


「一応言っておくと、私は血の繋がりを馬鹿にしてるわけじゃない。現に大切だし。私はパパとママの子であることを誇りに想う」


「…………」


「だから言いたいのは1つ『家族と戦え』欲しがってばかりで甘えるだけじゃなくて戦え。それだけ言いたい」


「…………」


 つぼみは何も言い返せない。実花の言うことをただ唖然として聞いていた。


 そんな様子を見て実花はいつものおちゃらけたような笑みを零す。


「あはは、私自身馬鹿だし、よく人から狂ってるって言われるから、偉そうに言えないけどね」


「…………はぁぁぁぁ」


 つぼみは実花の言葉に脱力し、大きく息を吐いて、うつむき両手で顔を隠す。


「あんたが馬鹿とか……ただの嫌味じゃない。私とお父様を戦わせればあんたに旨味があるんでしょ?」


「あはは、否定はナッシングで! うーん、私は知識と頭の回転は早い自信はあるんだけどねぇー。それ以外が残念」


「……自分で言うことじゃないわね……」


 ぽつりと呟くつぼみ。何かを考え込んでいるのか、言葉を発しなくなる。


(言いたいことは言えた。あとはつぼみさんの決断と、パパの決断次第かなぁ)


「頑張れパパ……」


 実花は誰にも聞こえない小さな声で愛おしく呟いた。

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