第450話 戦い
「田中栄三、 お父様と戦うですって……」
つぼみは一転変わって明らかな敵意を持って実花をにらみつけた。
だが、実花はそんなつぼみの感情をのらりくらりかわすように軽い口調でしゃべり始める。
「そうそう〜。私達の利害は結構一致してると思うけどなぁ」
「ああ、実に不愉快だわ……」
つぼみは肩を震わせて怒りを抑えきれないと言った感じだ。その視線は殺気となり、実花を射抜くが、実花は一切ひるまない。
そんな恐怖よりも強い想いがあるからだ。
「そう言わずに少し考えてくれると嬉しいデス!!」
「ああ、今更敬語を……本当にイライラする。あんたは私に……私の手で家族に弓を引けと言うの?」
「家族……? くすっ、違うじゃん。全然ちがうじゃん。つぼみさんもわかってるでしょ? 言ってたじゃん。パパが竜胆を継いだ時点で家族としては……終わってるって。栄三氏はもう、つぼみさんを切っている」
「…………」
(私は自分の家族を守る……そこに迷いはない。だけど……はぁ、多分パパは栄三氏と話をしたら……さらに『決断』すると思う。あはは、パパは本当に仕方ないんだから……だから私は……この人徹底的に精神的に追い詰める)
「ううん、パパが切っ掛けじゃない。違う。田中家は家族としてとっくに終わっていた。『互いに利用しあうだけの関係なんて家族じゃない』」
「ああ、利用しあうですって……」
「うん、栄三氏は利益的につぼみさんを利用した……そしてつぼみさんは栄三氏を『家族ごっこ』の相手として利用した」
「何ですって……あんたに何がわかるっていうのよ!!」
実花の挑発的な物言いにつぼみはついに怒気を実花にぶつける。だが実花はそれを受け流すように「やれやれ」と肩をすくめる。
「はぁ、そんなに怒鳴らくてもいいじゃん。私の見立てではつぼみさんは頭の回転が速い……だから、これから自分がどうなるかがわかってるんじゃない?」
「……うるさい……うるさい、ああイライラする、ああ、イライラする」
「そうやって逃げても仕方ないと思うけどなぁ……私がはっきり言おうか? つぼみさんは栄三氏に捨てられてパパに売られる。4大名家竜胆家への貢物として。パパへの痴漢免罪、逮捕騒動、ネット記事、誘拐、爆弾騒ぎ等々。この際だから身に覚えのない罪も大量についてくると思うよ」
「そんなことあんたに言われなくてもわかってるわよ! お父様が私を捨てようとしてることぐらい! でも家族なのよ! 役に立ちたいの!」
子供のような純粋な感情ーー。
「わからないかなぁ……その自己犠牲が『家族ごっこ』なんだよ。その一方通行の想いはただ利用されているだけ」
「…………くっ」
(この人はわかってる……本来であればとても優秀な人だ。理解している。自分の行動が全部虚構、欺瞞、出来損ないでしかないことに。だからこそ……なんか、腹が立つ。『同族嫌悪』かな)
「私はそれでも……お父様の家族の役に立つ。死ねと言われれば死ぬし、生贄になれと言われればなる。それでしか私は家族に……『恩を返せない』」
「……家族っていうのは何処までも良くも悪くも呪縛だね」
実花は……必死に自分を奮い立たせ、その意志を決して曲げないつぼみに尊敬に近い感情も湧き出て来た。何よりも家族が大切な実花は特にそう想った……。
「似た者同士なのかな……私とつぼみさんは。違いがあるとすれば私はすっごく両親に恵まれている。その違いが……私たちの違いだよ」
「…………」
何も言わず、ただ実花をにらみつけるつぼみ。
そんな強がる姿を見て実花は由衣から聞いた――つぼみの昔話を思い出していた。
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