第446話 初対面

 それからボマーに案内されて1つ上のフロアの廊下に連れてこられ、さっきの場所には実花、北条、山城さんが残った。


 今、田中家の当主がいる部屋の前にいる。


「この国は平和なくせしてごっつおもろい人間が多くて退屈せんわ。兄さんもそう思わんか?」


「知らねぇよ……俺は日本を出たことないし」


「そうなんか? それは絶対に人生を損しとるなぁ。ここだけの話、海外には日本では滅多にお目にかかれんお遊びもあるぞ?」


「いや、興味ない。お前の遊びとか法に触れそうだし」


「違法性があるもんちゃうわ! おれは素人にはそないもん進めん。合法でとっても気持ちよくてふわふわしていいもんや」


「…………めちゃめちゃ怪しい」


 かつてここまで胡散臭い勧誘があっただろうか……というか、何でこいつはこんなにも俺に対して親し気なんだよ。

 正直殴り合いしても不思議じゃない関係だと思うが……。


 まあ、今はこいつにかまってる暇はないな。


『ボマー、義孝様に妙なことを吹き込むようなら、この場で貴方の喉元を掻っ切りますよ?』


 フレアさんがとても物騒なことを言いながらこちらに歩いてきた。ボマーを警戒しているのか、フレアさんの顔は強張っている。


「それは勘弁やなぁ~。デスサイズとはさっき和解したやろ?」


「…………貴方など、どうでもいいです」


 フレアさんはボマーを無視して俺の前に来る。


「あっ、フレアさん……」


(少しほっとする。この男と2人で居るとか、命を捕まれているような気分だったからな)


 そんなことを考えていたのだが……。


「義孝様……!!」


 フレアさんはいきなり俺に土下座をし始めた。


「えっ!? 何事!?」


 何のことかわからずに盛大にテンパる俺。

 い、いや、もしかして未来がさらわれたことを言ってるのか!?


「私がいあながら未来様と実花様を危険にさらしてしまいました!! なんとお詫びを申し上げればいいか……!! もう、この命どうとでもお使いください!!」


「おお、これがジャパニーズ土下座か、かっかか、いかすやないかい」


「当事者が何を笑ってやがる!! ふ、フレアさん、頭を上げてください……!! べ、別にフレアさんは――」


 ガチャ――。

 その時部屋の扉が開く。


『フン、私を待たすとは見上げた根性だ……実に不愉快だ』


 部屋の中から現れたのは40代ぐらいの長髪の男性が立っていた。その姿と声にはどこか気品がある。


 こいつが……。


「私が田中家当主、田中栄三だ。よく来たな、竜胆義孝君」


「ああ、あんたが家の娘をさらったクソ野郎か! 会いたかったぜこんちくしょう」


 俺はこいつに仕立てに出るつもりはない。ここには取引をしに来たんじゃない、喧嘩をしに来たんだからな。


「ふん、失礼な奴だ。入れ、さっさと話を進めよう。私は無駄が嫌いだ」


 栄三はそれだけ言うと、部屋の中に入っていく。


 栄三からしたら、ドアを開けたら大柄のフレアさんが土下座をしていたのに……眉1つ動かさないか……どんな精神をしてるんだよ。心してかからねぇと。


 娘たちの安全確保と……平和な生活を得るために……。

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