第445話 娘を救う戦い
◇◇◇
俺たちはホテルのフロントに一声かけて、田中家が控えているエレベーターで部屋に向かう。
フロントで聞いた話だと50階建ての上層階部分の2フロアを貸切ってるらしい。
まったく、とことん別世界だな……。
そして田中家が待つフロアに着くと。1人のチャラそうな初老の男がエレベータの前にいた。
「おお、わざわざ来てもろうておおきに。えろうすまんのう」
「あなたは……」
「これはさっそく大物が来たわね!!」
胡散臭いエセ関西弁……。
男の顔には笑顔が張り付いているが……何となく嫌な予感がする。
こいつ、社畜時代のクソ上司の笑みにそっくりだ……笑顔で仕事を部下に振りまくりき、自分は定時に帰る社会悪の1つだ。
「クリムゾンボマー……まだいたんだね」
俺が男を警戒していると、実花が冷たい声で呟く。
「クリムゾンボマー、そのふざけた名前はさっき聞いた傭兵の数持ちって言う厨二の……」
「うん、未来ちゃんを誘拐した人だよ。てっきりもう契約は切れてると思ったんだけどね」
「そうや、契約は切れとる。ちと、面白そうでとどまっとるんや」
「そんな話はいい、お前が未来を……」
俺の頭が怒りで熱を持つようにぶわっと熱くなるのを感じる。大事な愛娘をさらった張本人だ、本来なら中年の拳をお見舞いしてやるところだが……。
さすがにここで大暴れするほど考えなしじゃない……未来が無事のうちは。
「おい、未来は無事なんだろうな? 指一本触れてねぇだろうな。もし危害を加えていたら」
「そんな警戒するなや。未来の嬢ちゃんなら、今はデスサイズに守られながら、コーラとチョコレートパフェを食うとるわ」
「……は?」
あいつそんなにほのぼのしてんの……?
俺がボマーの言葉に戸惑っていると、俺の後ろに控えていた山城さんがボマーをひとにらみする。
「嘘を言っておる感じはないのう……」
「『狂った手』か。こりゃ、20年前の南米のいざこざい以来やな」
「ほっほっ、できれば二度と会いたくはなかったのう」
2人の間に重い空気が流れる……すると、北条が一歩前に出る。
「未来さんが無事ならなんでもいいわ!! さあ、早く当主の元へ案内しなさい!!」
「お前、傭兵相手によく言うなぁ……」
「ジョン君だって似たようなこと言ってたでしょ!?」
俺は別にいいんだよ。未来攫われてるんだし、怒りマックスだ。
「あはは、あんさん達おもろいなぁ。だが当主とまず会えるんはそこの兄さんだけや。安心せい、護衛としてデスサイズを同行させ、未来の嬢ちゃんは狂った手に預ける」
「……どういうこと? 田中家は北条を甘く見てるのかしら?」
「ちゃうねん、ちゃいますねん。まずはそこの兄さんに謝罪をしたいそうなんや。それから、北条家ともちゃんと話するゆうてるわ……それと……他のメンツは姫が会いたがっとる」
「んん~?」
「おう特に実花の嬢ちゃんは姫が話がっとる。相手をしてくれんか?」
「はぁ、北条をないがしろにされてるみたいでしゃくだけど……まあ、今回はジョン君たちに譲ってあげるわ」
「いや、でも……」
姫……田中つぼみのことだよな……? 弱った実花を見た身としては、会わせるのは抵抗がある。
実花はボマーの言葉を聞くと薄く笑う……。
「……いいじゃん。パパ! 私頑張るから!! いっぱい頑張るから!! 必ずいい方向に話を持って行って見せるね!!」
「ああ、頑張れ。俺も頑張る……」
俺はどこか不安そうに無理して笑っているような実花を抱きしめる。
「!!! ぱ、パパが抱きしめてくれた!? こ、これは結婚!! 結婚だああああああああ!!」
「妙なテンパり方してるんじゃね!!」
俺は結局いつもの調子に戻った実花と別れた。
さあ、父親として……踏ん張りどころだ。
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