第444話 家族にために
焼き肉の話で盛り上がること30分、山城さんが運転する車は北条家が交渉のために抑えたホテル『グランドキャニオンホテル』に到着した。
庶民の俺でもテレビとかで見て知っているレベルの高級ホテルだ。
「…………」
俺は実花、北条、山城さんと共にホテルの正面入り口に立ち、ホテルの上層部を見る。50階の建物は威圧感があり、見ているだけで尻込みしてしまう。
「なんで金持ちってのは約束先が、ホテルだの、料亭だの高そうなところばかりなんだよ……」
「あはは、見栄も必要だからねぇ~。呼び出す先が看板とかよく見る、オール290円の安居酒屋だと恰好つかないでしょ?」
「いや、俺はそれでいいと思う。今度からそうさせよう」
「はぁ、日本有数のお金持ちになったジョン君が言うと洒落にならないっての」
「金持ちの常識なんか俺がぶっ壊してやる。庶民なめんな」
そんな言い合いをしてると山城さんが腕時計を確認して俺たちを見渡す。
「そろそろ約束の時間じゃ。皆さん準備はよろしいかのう」
「はい、田中家の当主との喧嘩ですよね?」
絶対未来の落とし前はつけてやる。
「いきなり殴りかかられても困るのじゃが……」
「いいじゃない!! なんか朝のできごとがフラッシュバックするけど!!」
「なつきまん、そんな昔のことは忘れたぜい!」
そう言えば……朝、実花のやつ用事があるとか言って早く家出たけど……田中家に乗り込んでたのか? ……親子だな、やることが同じとは……変なところが似てやがる。
「未来待ってろよ……田中家当主『田中栄三(たなかえいぞう)』とやらに土下座させてやる!!」
◇◇◇
ホテル上層部の小メイン入り口がとある一室。
「…………本当に来た……川島義孝――」
田中つぼみは義孝たちを見下ろしていた。
「…………」
別に義孝に興味などない。もう仕事もほぼ終わっている。もう自分がやれることはない。あとは……判断が下されるだけだ。
(恐らく……お父様は私に全てを罪を擦り付けるだろう。『馬鹿な娘が独断でやったことだと』……)
そんなことは最初からわかってた。
(私がしたころが正しいはずがない……人として間違っている。だけど……私はそれでも後悔はない)
それでもつぼみは……家族の役に立ちたい。家族でありたい。それがどんな家族でも――。
「娘のピンチに動く父親……私には縁のないものね。本当に……羨ましい」
誰もいない部屋で小さく呟く。
縁がなさ過ぎて……手に入れるのを諦めてしまっていた。
「いい、これが私の自己満足でも――。血の繋がった家族に身を捧げるのが、間違いの筈がないんだから……」
つぼみは自分に言い聞かせるように呟く。
その言葉は呪いの様につぼみの心に深く溶け込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます