第412話 夢の計画
◇◇◇
同時刻――。
正午過ぎの空き教室にて――。
夢野明菜は1人イベント用のドレスを着てそわそわと本番を待っていた。
「…………な、何でこんなドレス」
明菜が着ているドレスはマネジャーが用意したもので胸元が少し開いていて、さらにはスカートも短いので明菜としては恥ずかしくて死にそうだ。
「はぁぁ……で、でも、う、ううん! 衣装のことぐらいで弱気になっちゃダメです! イベント大成功させて義孝さんに報告するんだから!」
明菜は弱気になっている自分に活を入れる。義孝大好きな明菜にとっては今日は絶対に失敗できないイベントだ。
(うん……義孝さんは大変な状況なんです! わたしが頑張るんです! それで……義孝さんに後でいっぱい褒めてもらうの……なでなでとかしてもらって……はっ! わ、わたしったら、この緊急事態に何を考えてるの!? しゅ、集中しなきゃ!)
そんな妄想をしていると――。
『ふふふっ、夢野さんって本当に可愛い人ね』
そんな声が明菜の背後の入り口の方から聞こえてくる。
「…………!」
明菜はハッとして後ろを向くと、望があたたかくも少し悪戯っぽい笑顔を浮かべて立っていた。
「の、望ちゃん!? い、いつからそこにいたのぉー!?」
「ついさっきよ? ふふふっ、明菜さんって本当に乙女チックで可愛らしいわ」
「も、もう、お姉さんをからかうものじゃありません!」
「ふふっ、ごめんなさい。だって可愛いもの」
「うぅぅぅ、歳上としての威厳がぁぁ」
明菜はそう呟きうなだれる。自分に威厳なんてものが元々あるとは思っていないが……ここまで妄想垂れ流しの恥ずかしい姿を見せてしまうとさすがに自分の情けなさに……悲しくなってくる。
(わたしもフレアさんの様にキリッと……はぁ、無理ですね)
ああはなれないと、速攻で諦める明菜。
「ふふ、落ち込まないの。夢野さんにとって嬉しいこともあるんだから」
「……嬉しいこと? 『計画』のことですかぁ?」
「いえ、先ほどお話した計画はできれば使わないことを祈りましょう……」
「うん……」
望が明菜に持ちかけた計画はいわば『最終保険』だ。全てがダメになりそうな時に、その状況をひっくり返す……そんな計画だ。
できれば使いたくない。というのは双方合意だ。特に明菜にとってはかなりの覚悟を必要とするもので……何よりも『恥ずかしい』。
「それよりも義孝さんが学校に――」
そんなことを話していると――。
コンコン。
教室のドアが軽くノックされる。
扉の窓は明菜に気を使ってか、紙を貼り教室の中を見えなくしてあるので、誰が来たかは判別はできない。
『おーい、明菜? ここにいるのか?』
「よ、義孝さん……!? えっ? 何でここに!?」
「…………!!!!」
義孝の声が聞こえた瞬間、明菜と望の顔が強張る。まるで殺人鬼に背後を取られたような驚きっぷりだ。
『いきなりすまん、急遽働くことになってな。それで明菜様子を見に来たんだ』
『実花ちゃんもいるよ~~』
『未来もです』
『よ、義孝様、少し時間を空けられた方が……』
実花未来と何故か慌てた声のフレアもいるようだ。
明菜はバッと望の方を見ると望は小さな声で明菜に話しかける。
「義孝さん、いろいろあって働くことになったのよ……今その説明をしようとしたのだけど……で、でも、タイミングが早すぎるわね。こうなったら……!!」
望は教室の片隅あったロッカーに飛び込むとその扉を閉めた。
「の、望ちゃん!?」
『しー、今は……義孝さんと会わす顔がないの。うまく追い出してちょうだい』
望はそれだけ言うとだんまりを決め込んだ。
そんな望(ロッカー)を見て明菜は……ふっと笑う。
(ふふっ、望ちゃんも充分乙女チックだなぁ~……)
先ほどまでの恥ずかしさが嘘のように、なんだかほんわかした気持ちになった。
明菜の中で望は可愛く、心が強く……何より自分と同じぐらい義孝が好きなんだと思う……だからこそ、『明菜にとって全てを賭けた計画』のパートナーして信用できた。
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