第413話 不自然な守護者

   ◇◇◇


『ど、どうぞ―』


 俺は実花未来とフレアさんを連れて明菜の返事を聞いて教室に入った。


 中に入ると少し恥ずかしそうにしている明菜が椅子に座っていた。


「よう、お疲れ」


「わあああああああ! ゆめゆめ、そのドレスどうしたの!?」


「うん、とっても可愛いと思います」


「え、えへへ、恥ずかしいんだけどね……わたしなんかが着ていいドレスじゃない気がするけど……」


 実花未来が明菜のドレス姿を見て目を輝かせる。明菜は黒が基調のワンピースタイプドレスに身を包んでいる、

 スカート部分は短く胸元も少し見えており、とてもセクシーだ。


(いや、男としては『ありがとうございます!』って感じなのだが……文化祭の衣装としてはギリギリな気がする。ま、まあ、ステージと観客席がそこそこ離れてるからいいのか?)


 とかごちゃごちゃ考えていると、フレアさんがそわそわしていることに気が付く。


(なんだ……?)


「ちょっと、お父さん……」


 その時、未来が俺にしか聞こえないぐらいの声量で、耳打ちをしてくる。


 また、『何を鼻の下を伸ばしてるんですか? 変態、娘の前ですよ』とか、小言を言われるんじゃないかと身構えるが――。


「お父さん、早く夢野さんを褒めてあげてください」


「えっ?」


「お父さんが褒めてあげれば自信がつくと思います」


「あ、ああ……」


 いつもとは違う言葉に若干戸惑いつつも、ここは男として一肌脱がなければならない。

 だが……俺にそんなスキルはない。ここは風俗で会話に困った時に容姿を褒める感じでいいか……?


「…………」


「あ、あの、あまりジッと見られると恥ずかしくて……」


「いや、そのモジモジする姿も可愛い。あと衣装も綺麗だが、それを着こなす美的センスが素晴らしい! ドレスと明菜との調和がハーモニーしてグレイトみたいな」


「……うわあ、パパそれ風俗で言ってそう」


 ぼそりと小さく呟く実花。

 おい、我が娘よ。的確に正解を言い当てるな。


 だが、家の娘と違って心が綺麗な明菜はぱああっと途端に笑顔になる。


「ほ、本当ですかぁー、え、えへへ、やったぁ、義孝さんに褒められちゃったぁ」


 うむ、明菜は純粋だな、悪い男に騙されなければいいが……。

 

「……あ、あの」


 とか、考えているとオロオロしているフレアさんが話しかけて来た。


「義孝様、私ごときの立場で大変恐縮なのですが……ケバブが食べたいです」


「は、はい?」


 フレアさんが普段言わなそうな言葉に思わず固まってしまう。それは隣にいた未来も同じようでポカーンとしている。


「い、いえ、少し離れた廊下に屋台がありまして……そ、その」


そんな中、明菜がぎこちない笑みを浮かべて頷く。


「あ……ああ! いいと思いますよぉー! わ、わたしもそろそろ……色々と準備をしなくちゃいけないですし」


 明菜はチラチラとロッカーの方を見ている。ん? ど、どうしたんだろう。いきなり挙動不審になったけど。


「ふふふっ、そういうことかぁ。パパ! 未来ちゃん! いいじゃん! 行こうよ! 私もお腹すいちゃった!」


「あ、ああ……」


「お、お姉ちゃん、腕を引っ張らないでよ」


 俺と未来が実花に引っ張られる中、フレアさんが軽く頭を下げ、俺には聞こえない声量で何かを言う。


「……マダム、実花様、感謝します」


 そうして、俺は実花に引っ張られ、フレアさんと共に美味しいケバブを食べることになった。

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