第408話 憎悪の化身
◇◇◇
同時刻――。
1人の女子高生、『田中つぼみ』が豊川高校に訪れていた。
「…………」
つぼみは不機嫌そうに周りを見渡す。
学園祭ということもあり、大勢の生徒や来賓が目につく。
『次はどこに行こうか!?』
『食堂の屋台すごく美味しいらしいよ!! それに面白いって!』
『へぇ、行こう! 行こう! あと1時間後には人気の配信者のイベントがあるんでしょ!?』
「…………」
つぼみの前を楽しそうにお喋りをしている女子高生たちが通り過ぎる。
「ちっ…………」
つぼみは人知れずに小さく舌打ちをした。
何もかもが腹立たしかった。この賑わっている文化祭も、自分の家である田中家も、自分自身も、そして川島義孝も――。
(ああ、どうして何も私の思い通りにならないの……! ああ、何で全部が私の敵なの!? ああ、なんで味方が誰もいなの!?)
「…………ああ、イライラする」
つぼみはスマホを取り出してメールを開く。
画面には『何も考えずに計画通りに動け。竜胆をつぶせ』と、だけ書かれていた。
「…………くっ」
つぼみは奥歯を噛みしめる。
(計画か……もし、失敗したら私は今度こそ捨てられる……)
言いえぬ恐怖がつぼみの心を蝕んでいく。メールの送り主である父は自分に対して『家族としての情』が一切ないことはつぼみが一番理解している。
田中家とはそういう一族だ。何事も機械的に考え、そこに情はない。使えない者は切る、それだけだ。
「私は……出来損ないじゃない」
つぼみは……そんな田中家で育った。昔から人間ではなく、感情のない機械として育てられ。自分は会社のためのパーツだと言われ続けていた。
それは一種の洗脳だ。現に他の兄妹たちは機械的に優秀に育った。
だが、つぼみは違った――。
つぼみは物覚えが悪く、他の兄妹たちのように優れていない。
さらに家族に「出来損ない」と言われ続けた結果……つぼみは田中家では珍しい憎悪の感情が強い人間になった
機械的に成果だけ上げる田中家の中で、心に憎悪を宿し、常に周りにストレスを感じている。世の中が、家族が自分が憎い。
だが、そんなストレスを感じても――。
「私は……できる、絶対に認めさせてやる」
家族が自分を見てくれることを願っていた。家族に捨てられることを嫌っている。
そんな感情がつぼみの人間としてのブレーキを壊していた。
(完璧に……冷静に……一切の情もなく。与えられた仕事だけをこなせばいい)
つぼみは自分にそう言い聞かせて、歩き……やがて校舎の人込みに消えていった。
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