第407話 働くことが闘い

 それから数十分後――。

 俺は教頭と今後のことについて話をした。


 その際に犯人のことを聞いた。

 まさかあの社畜メールを送ってきたのがあの冤罪事件のJKだとは……俺の人生どうなってるんだよ。


 いろいろ思うことはある。痴漢冤罪の現場に浅田がいたのは偶然じゃなかったんだな……とか、何で俺そこまで攻撃されてるの? とか。


 だけど今はそれよりも今後のことが重要だ。

 さっき教頭たちとの話し合いで――。


   ◇◇◇


『それでは川島さんはいつも通り業務をお願いします……『田中つぼみ』の件はこちらで対応します』


『あいつマジで頭狂ってるから行動が読めねぇだよなクソが』


『川島さん、無駄だとは思いますが、念のため変装はそのまましてもらってもいいですか?』


『えっ……? このまま働くんですか?』


『はい、そのまま、エプロンでも付けてください。なるべく生徒たちに正体を知られないようにしてください……気休めですけどね。はぁ、冬さんに変装を任せたのが間違いだったかしら?』


『ああん!? ババア何言ってやがる! めっちゃかっこいいじゃねぇか!!』


   ◇◇◇


 まとめると、俺はスーパーロッカーなファッションで働くことを強要されていた。


「…………」


 娘たちに会うのがつらい……。

 この状況でDQNのコスプレをして事務所に行くのがつらい。

 ぶっちゃけ、どの面下げってて感じじゃねぇ?


「まあ、そうも言ってられないか……」


 俺が抜けた分の穴は三沢たちが頑張って埋めてくれてるんだし、かなり忙しいと思うから、手伝うんならすぐに手つだわないとな。


 俺はそんなことを考えながら事務所の扉を開いた。


 事務所の中に入るとそこにはソファに腰かけている未来とその後ろに仕えるフレアさんがいた。


 ふ、フレアさんは久しぶりだな……。

 休憩中かな……?


「お、お父さん……!?」


 俺が入るなり未来がソファから立ち上がり駆け寄ってきた。そしてぎゅうっと俺に抱きつく。


「わっ、よく俺こんな格好なのによく俺だってわかったな……DQN丸出しの恰好なのに……」


「お父さんかどうかなんて、五感のどれかで感じればわかるよ……匂いも骨格も息遣いも全て私の記憶に刻み込まれています」


「…………」


(やばい、想いが重すぎて少しキモイとか思った俺は家族愛が足りてないのか!? いや、家族愛があってもキモイものはキモイ)


「…………お父さんから邪な考えを感じます」


「よくわかったな。少し思われ過ぎてこの場から逃げ出したいとか思っちゃった」


「…………お父さんは酷い人です。こうなったら今日の夜は縄と手錠で……ぎゅううううう」


 待て、お前何する気だよ! 俺が胸好きだからって必要以上に押し付けるな!

 っと、全力でツッコミたい気分なのだが……今はそれよりも気になることがある。


「フレアさん……」


 数週間ぶりの再会だ。なんか感覚としては1年ぐらいあってなかった気がするな……。


「義孝様、お暇を頂き申し訳ございませんでした……」


「いえ、事情は浅田から聞いてるので……如月と一緒に俺のために動いてくれているってのは聞きました。具体的には理解できてないですが……」


「ふふっ、そのぐらいの認識の方がよいかと。詳しく理解されると、お嬢様が恥ずかしがって、お部屋にこもられてしまいますから……」


「そ、そうなのか?」


 如月にも会いたいけど……ここは我慢だ。


「未来、俺は働く……」


「……はい、生名さんから事情は聞きました。私、お父さんのことが心配で……」


 未来はか細く呟くよう言う。未来も今俺が置かれている状況を理解しているのだろう……無表情ながらも、不安で押しつぶされそうな雰囲気だ。


「ふん、心配するな。命はフレアさんが守ってくれるし……」


 フレアさんは今日俺ら家族を守ってくれると、浅田から聞いていた。物理的に。


「はい、どうな狼藉者も義孝様の命を手に入れることはできません。デスサイズの異名、存分に発揮させて頂きます」


「あっ、そこまではしなくていいっす……」


 普通に恐いわ。


「……お父さん」


「心配するな。働くことに関しては俺はプロだ。なんてったって、元社畜だからな」


 俺は笑う。本当は胸中は俺も不安でいっぱいだ。人生にないことが起こり過ぎだし……人生で一番のピンチなんだ。


 だけど……少しでも未来を勇気づけたい……それが本心だ。

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