第406話 アイドルと教頭
「おう、ババア! 来てやったぞ! お茶とお菓子をくれ!」
「あら………川島さん、冬さん」
「どうも、お疲れ様です……」
俺は道中ずっと大笑いをしている浅田と共に教頭室にやって来た。部屋には教頭が1人でおり、パソコンで何やら作業をしていたようだ。
とても機嫌のよさそうな浅田を見て目を丸くしていた。
「冬さん、随分と機嫌がいいのね。何かありました?」
「別に? ババアには関係ねぇよゴミが」
と、いつもの毒舌をまわしつつも、どこか機嫌よさそうにソファーに座り、スマホをいじり始めた。
「…………」
浅田の暴言はどうかと思うけど……なんかこう見ると親子の会話の感じがするなぁ……あたたかさを感じる。
「ふふふっ、どうやら川島さんに懐いたみたいね?」
「えっ……こ、これ懐いてるんですかね?」
暴言を言われ続てるだけな気がするんだけど……。
「ああん? 何言ってやがるババア。とうとう頭がいかれたか? そろそろ老人ホームの準備をしてやろうか? そんな戯言を言う暇があったら、あたしとこいつの茶と菓子を用意しろ」
「ふふふっ、はいはい」
教頭はスマホの画面を見ながらそんなこと言う浅田に苦笑いを浮かべながら、お茶の準備を始める。
いやいや、親戚? とは言え、教頭にそこまでしてもらうのは心臓に悪い! 社畜マンとして偉い人に働かせてはいけない!
「き、教頭先生、いいですよ。お構いなく」
「ふふふ、いいんですよ。ほら、川島さんも座ってください。冬さんと同じで私も機嫌がよくなりましたから」
「そ、そうなんですか?」
「てんちょう、座ってろよ。ババアはそういうのが好きなんだから」
浅田は自分の隣のソファーをバンバンと叩きここに座れと催促してくる。い、いいのか? ほ、本当にいいのか? 偉い人を働かせてもいいのか?
後で5倍の仕事を振られたりしないか?
と、謎の不安にかられる俺を他所に教頭は俺と浅田のためにお茶とお菓子を用意してくれた。
しばらくお茶を三人でしていると、教頭がふと申し訳なさそうに俺に視線を向ける。
「申し訳ございません川島さん。私たちの力が及ばぬばかりにこのような事態になってしまって……」
「いえいえ、正直そちらの4大名家ってやつの状況はわかりませんが……みなさんが必死に動いてくれていることはわかります。それで……浅田に聞いたんですが、『例のメール』の送り主の田中家というのは……」
「ええ……『田中つぼみ』。4大名家『調整』の田中と呼ばれる家の次女です。彼女は……どうやら田中家、当主に利用されているようですね。いえ……わざと利用されています」
「ふん、4大名家、特に如月と田中ではよくある話だ。胸糞わりぃ」
「???」
相変わらず4大名家ってのはよくわからない……いや、俺が意図的に避けてるんだけど……だって、下手に関わったら爺さんに当主にされそうだし……。
「…………」
でも……もうそうは言ってられないかもな。俺の社畜としての勘がそう言っている……娘たちと暮らしたいならなおさらな。
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