第403話 不穏な空気
午前11時半――。
俺が務める会社の本社があるビルの一階――。
「…………はぁ」
俺は重たい気持ちになりながら、本社ビルを出た。あれから、生名さんと楽しいお話をした。
いや、我ながら性格悪いと思うが、逮捕の件や娘たち(娘が実花未来であることはふせた)のことを話している時、段々と笑顔で瞳の色彩を失っていく生名さんが面白かった。
(クク、みんな苦しめばいいんだ……はぁ、どうしよう)
状況は爺さんや如月、浅田が逮捕の件は抑えてくれいて、ネット記事の方は秋村が対応してくれている。
浅田いわくのどちらの件も何とか収束しそうだ。
俺何もしてないけど……自分のことなのに。
「俺も何かしたいけどな……はぁ、変に動いてみんなに迷惑かけるのも違うし、今は大人しくしてるしかないか。はぁ……帰るか。家に秋村を放置しておくのも不安だし……」
俺は再び大きくため息を吐きながら、ビルの外に出ると――。
『あーあ、パパ~ ため息を吐くと幸せが逃げるんだよ~~』
その時、聞きなれた声が後ろ聞こえた。振り向くとそこには制服姿の実花と北条がいた。
実花はニコニコと嬉しそうにこちらを見ているが、北条は何処か疲れたような表情をしていた。
「あれ? お前らどうしてこんなところにいるんだ?」
「パパの出待ちに決まってるじゃん! パパの顔を見れて幸せ~~。サインちょうだい!」
「俺はそんな有名人じゃねぇ。というか学校はどうしたんだよ……」
「ああ! さぼりだと思ってるでしょ!? 違うよ! 今日は自主登校日だから、適当な時間に行って適当な時間に帰っていいのです! 今から行くよ! 未来ちゃんのお手伝いするの!」
「そうか、俺のしりぬぐいで悪いけど頑張れよ!」
「うん! 私、パパのお尻大好きだし!」
「そういうことじゃねぇよ!」
うん、ここにいる理由は果てしなく謎のままだが、やる気はフルマックスのようだ。もう声とか顔でわかる。
そんなやり取りをしていると……北条が疲れたように口を開く。
「はぁ……ジョン君に甘えちゃって……女って怖いわね。とても『さっき』と同一人物とは思えないわ……」
「ん? さっき?」
「わああああ!! なつきマン! 余計なこと言わないでよ! パパは知らなくていいことなの!?」
「? どういう……」
「いいから! パパは家に帰って! 文化祭は私たちに任せて!」
微妙に焦っているような実花の態度が気になるが……まあ、帰るとするか。ここにいて、またネット記事にされたらたまったもんじゃねぇし。
「じゃあね! パパ! お土産いっぱい持って帰るからね!」
「はぁ……女って魔性ね……」
両極端なJKたちはそうして学校に向かっていった。
「今の何だったんだ……? 俺の顔を見に来たって……そもそも何で俺が本社にいることを知ってるんだよ……まあ、害はないからいいか」
簡単に納得しちゃいけない気がするが、なんか……権力になれてしまった感があった。
俺も帰るとするか……。
◇◇◇
同時刻――。
浅田冬のスマホに一通のメールが映し出されていた。
「…………面倒くせぇ。ゴミが」
冬は小さく誰にも聞かれないように呟く。
同じ部屋に秋村がノートパソコンで作業をしているので、制服でアイドルのスマイルのままだが、声は素だ。
『文化祭で川島義孝を食堂で働かせろ。さもなくばこの写真をばらまく』
メールに添付されている写真は、義孝と実花未来がラブホテルの前で何かを言い争っている写真だった。
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