第401話 社畜の頑張り

   ◇◇◇


 午前10時――。

 川島家にて――。


 俺の気持ちは落ちかない……心配や焦りや不安で心が押しつぶされそうだ。いや、ネット記事とか逮捕の件とか俺の心は既にボロボロなんだけど……。


 ああ……考えれば考えるほど悩んでしまう。


「…………」


「はぁ、あんた家の中をウロウロしてるんじゃないわよ。正直目障りだわ」


「うんうん、羽虫みたいだよねぇ~」


 お前ら……傷ついてる人間に辛らつだな。てか、浅田のやつ素がちょっぴりでなかったか? い、いいのか?


 とか、心配しながら秋村を見るが……。


「ああ、冬たんは可愛いわねぇ~」


 秋村は何故が身を震わせて感動していた。えっ? な、何どうしたの? キモイんだけど。


「えっと……あれ? 羽虫とかアイドルが言ってもいいの?」


「てんちょう、何を心配してくれてるのか知らないけどぉ~、心配しなくていいよぉ~。ふゆのファンはみ~んなわかってくれてるからぁ~」


「そうよ! 冬たんは時々悪魔が下りてくるのよ! これはアイドルファンとしては知って当たり前の常識よ! ぐふふ、萌豚の我らに毒舌はご褒美です。ありがとうございます」


「…………」


 悪魔ってなんだよ……ただ素が出てるだけじゃん。


「ふふふっ、てんちょう、何か言いたいことでもあるんですかぁ?」


「いや別に……」


「文句なんてあるわけないわよね! ああ、ふゆたんと同じ空間に入れて幸せだわ!」


 それに秋村がものすごく絶好調だ。元ストーカーは伊達じゃない。まあ、明菜にストーカーするよりはアイドルに夢中になった方が500パーセント健全だ。


「それで……話を戻すけど、あんたはなんでそんなにソワソワしてるのよ? 見てて気持ち悪いわ」


「お前にだけは言われたくねぇよ。いや、そろそろ学園祭の開始だなぁって……いや、部下たちは優秀だから気にする必要なんてないんだけど……」


 だけど、気になっちゃう。社畜だもの。


「てんちょう、そんなに気になるなら様子を見てきたらどうですかぁ?」


「へっ? いやそういう訳にもいかんだろ?」


「う~ん、タイホの動きは弱まってきてるんだけどねぇ~~」


「そうなのか……?」


「川島……意志が弱いわね。でも、それなら少しぐらい――」


 ピピピピ。


 その時、俺のスマホが鳴る。着信者は生名さん……とても、とても嫌な予感がするんだけど。


『か、川島さん、私とデートしませんか? 本社の会議室で私お気に入りのフロランタンを用意しています。それとこれは秘蔵なのであまりお出ししたくはなかったのですか、川島さんのために厳選コーヒーを――』


「嫌です」


『わああああああ!! お願いです!! 本社の上の人が事情を説明しろと詰めてきているんです! なんか外部『竜胆』とかいう家が入ってきて意味わからないですし!』


 はぁ、浅田も逮捕の動きは弱まってきたって言ってたしいいか。生名さんを見捨てるのは心苦しい。


「…………30分で行きます」


『いいんですか!? きゃああああ! 川島さん愛してます! 私これほどまでに社員を愛おしいと思ったことはありません!』


「生名さん……一応美人なんだからそんなこと気軽に言っちゃだめですよ?」


『私普通にお説教されてる!? それに一応ってなんですか!?』


 生名さん……働きすぎて変なテンションになってるな……。


 もういやだ……こんな時まで出社するの?

 まあ、生名さんを追い詰めてるの俺だし……もう純粋に申し訳ない気持ちだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る