第400話 日常を守る者

   ◇◇◇


 学園祭開始10分前となった時間――。

 竜胆未来は校庭近くに用意された出店にいた。


 未来がいる出店以外にも多くの出店が校庭にかけての通路にひしめいていた。未来の屋台には雑賀とフレアがいる。


「頑張って売り上げないと……」


 未来の屋台は『スーパーアルティメットクレープ屋』だ。未来はそこの学生責任者を任されている。


 それは義孝の娘というのが大きい。未来自身も少し後ろめたい気持ちにはなったのだが……義孝が『コネの何が悪い。コネはその人間が持つ力の1つだ。法にふれない限りは気にすることなんてない』と、言ってくれたので、未来としては心が軽くなった。


「未来~~、これでこに置けばいいの~~」


 同じくここの屋台の当番のクラスメイトのギャル、雑賀が未来には話しかける。雑賀は黒髪の未来とは正反対の見た目だが、最近では仲が良く、遊びに行ったりもする。


「あっ、トッピングのチョコですね。それは屋台の後ろにおいてください」


「はいよ~。期待してるよ未来店長」


「て、店長だなんて……私なんてまだまだだよ」


「そうかな? 料理上手いし、指示もしっかりしてるし、はぁ、私も料理上手くないりたいなぁ。男受けよくなるだろうし。バレンタインとか」


「? よかったら今度教えようか? ガトーショコラとかなら簡単に作れるし」


「……ガトーショコラが簡単とか言って見てぇ。そう思いませんか?? フレアさん」


 雑賀の視線の先には優雅に佇んでいるフレアの姿があった。


「ええ、未来様の料理の腕は最高です。望お嬢様も大変褒めておりました。女として憧れる物があります」


「だよね、だよね!」


「……2人ともやめてよ、恥ずかしい」


(雑賀さん……フレアさんの存在を受け入れてる……すごいなぁ。私だったら委縮しちゃうよ。そもそも、私に護衛なんていらないのに……如月さんは心配性なんだから)


『ああ! 未来の姉御!』


 そんな他愛もない話をしていると、新井が姿を見せた。


「三沢さん特製のクレープ生地を持って来たぜ! 冷蔵庫に入れとくっす」


「ありがとうございます」


 礼を言うと、新井はうなずいて冷蔵庫に寸胴に入ったクレープ生地を入れる。その時、雑賀が身を乗り出して新井に詰め寄る。


「新井さん! さっき校門で酔っ払いを撃退したってホント!?」


「ああん? 大したことはしてねぇよ。ただ「帰れ! お前の背骨を加工して、骨煎餅するぞ」って脅したら帰っていったよ」


「いやあああ!! 超かっこいい!」


「そうですか……?」


(お父さんが言ったらかっこいいですけど)


「新井様、申し訳ございません。駆けつけることができずに。本来であれば、如月家の精鋭部隊がこの学校を護衛するのですが……今、お嬢様の立場は微妙でして」


「いいっすよ! 適当にあしらっただけっすから!」


「…………」


 未来は望の話を詳しく聞かされていない。心配だ……1人で危険なことをしているのではないかと……。


 今朝フレアから伝言で『わたくしはすぐ貴女たち家族の前に戻る』と聞かされた。


(自分ひとりで抱え込んでなければいいけど……心配です……)


「…………」


(でもまずは……私は自分ができることをしないと。ぐじぐじしてたら如月さんに怒られそうです)


 未来は日常を守りたいと考えていた。


 父がいて姉がいて祖父がいて、友達がいるこの日常を……学園祭の出店が失敗すると、その大切な日常にほころびが生まれる気がした。

 何より――。


「お父さんが一生懸命進めて来た文化祭を台無しになどしたくありません。絶対に――」


 確かな想いを胸に未来は開店時間を待つ。

 そして波乱の文化祭は開始の時間を迎えた。

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