第396話 期待
それから30分ほど経過した――。
教頭室での話が終わり、音無由衣は未来と共に退出しようとしていた。
「それでは失礼しました……」
30分間、由衣は元同級生の『田中つぼみ』のことを話、そして、源三郎からは『田中家』について聞かされていた。
それはまるで異世界の話を聞いているような感覚だった。いきなり『4大名家』などと言われても訳が分からない。専門的な政治の話をされてもさっぱりだ
由衣が理解できたのは……今、義孝が置かれている状況がかなり複雑で、面倒で危険な状況だということぐらいだ。
「…………」
そんなわけがわからない状況で、ただ1つ自分の中で明確化している決意がある。それは――『義孝を助けたい』。
その想いを源三郎と教頭に伝えた。
「ほっほっほ、実な有意義な話をありがとう。君は……君が思うままに行動すればいい。わしは君に意志の強さを見た。責任はわしがとる」
「…………は、はい」
「由衣君、未来、また義孝君と一緒にご飯でも行こう」
「は、はい、ありがとうございます」
「楽しみにしてるね」
由衣は軽く会釈をすると未来と共に教頭室を出た。
静かに扉を閉める。
「き、緊張した……」
「情けない……と、言いたいですが、今日のところを褒めてあげます」
「上から目線ね。あなた何様よ……」
由衣はうなだれる……そして次の瞬間、第三者が由衣に話しかける。
「お疲れ様です。由衣様、未来様」
「あっ、ふ、フレアさん?」
まったく気配なく現れたフレアにびっくりする由衣。比べて未来はまったく動揺せずに口を開く。
「いつから私たちの近くにいたんですか?」
「おふたりが食堂事務所から出た時から警備をしておりました」
「ぜ、全然気が付かなかった……」
「この場合は逆に気が付く方がおかしいから、気にしなくてもいいです。フレアさんのレベルになると野生の熊に気がつかれずに1日中尾行できるから」
「匂いとかでバレるんじゃ……」
「いえ、匂いを誤魔化す方法などいくらでもあります。それと1日と言わず冬眠明けから冬眠までバレずにいけます」
フレアはぴしゃりと言い切る。
その言葉は自慢している感じは一切なく、ただ事実を伝えてる言った感じだ。
「…………」
(げ、源三郎さんが言っていた4大名家って言うのはこういう人たちがゴロゴロしてるのかしら……増々、異世界感が……店長、こんな異世界で生活をしていたんですね。増々尊敬します……)
由衣はやたらつかれた気分になりながら廊下を歩く。その隣を歩く未来、後ろを従者の如くついてくるフレア。
しばらく無言で歩くが……ふと、未来が口を開く。
「私……少し由衣を見直しました」
「えっ……」
突然褒められたことにびっくりして由衣はまじまじと未来の顔を見る。
(み、未来が私を嫌味なしに褒めるなんて珍しいわね)
「おじいちゃんの『人を見る目』は人の限界を越えています。本人も『その力だけで成り上がった』と、豪語しています」
「それで4大名家という大金持ち……漫画みたいね」
「もっとも、よすぎる所為で『大失敗』をしたこともあるそうですけど……それはまた別の話です。今言いたいのは……そんなお爺ちゃんに由衣は認められた」
「そ、そうなの? 自由にやれとしか言われてないんだけど……」
ぼそりと由衣が呟くと、フレアが驚きの声を上げる。
「なんと……源三郎様が……そのようなことを。さすがは由衣様。義孝様に見初められた方です」
「み、見初められた!? そ、その話をもっと詳しく……」
「馬鹿由衣、その話は一切まったくもってガセです。フレアさんの妄想です。事実無根です。ありえないです」
未来は呆れたような視線を送ると、さっさと先に歩きだしてしまう。そして誰にも聞こえないように小さく呟く。
「……はぁ、お爺ちゃんが『自由にやれ』っていう人なんて滅多にいないのに……自覚がないんだから」
「ま、待ってよ、未来」
由衣は急いで未来のあとを追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます