第394話 見つけた光
◇◇◇
食堂事務所朝8時――。
出店の最終チェックを終えた音無由衣は三沢、未来と共に休憩をしていた。
ちなみにフレアは今望との電話で席を外していた。
その中で三沢が周りを見渡す。
「よし、これであとは10時の営業時間を待つだけだぜ!」
「そうですね」
「いや~、店長の件でもしかしたら営業停止になると思ったけどなぁ……無理にでも許可してくれた生名と教頭に感謝だぜ」
「そうですね……今度お礼を言わないと……」
三沢と由衣がそう話していると、未来が小さく手を上げた。
「あの、時間があるなら、一度家に帰ってもいいですか? お父さんに会いたい……営業前の9時半には戻ってきます」
「店長に会いたいって……未来の家からの往復の時間を考えたら、5分も家にいられないじゃない」
「私にはその5分が大切です……が、行くとお父さんに普通に怒られるそうなのでやめます……いえ、それはそれでご褒美なので行くべきですか」
未来はぶつぶつと思案し始めた。そんな未来を三沢が苦笑いをしながら見る。
柔らかな雰囲気だ。
「あはは、時間通り戻ってくるならいいぜ。どうせやることもない。新井も真剣な顔でどっか行っちまったし」
「えっ? 新井さんどうかしたんですか?」
「わからん、「校内を見て回る」って、言ってたから、学校には居ると思うぜ」
「そう言えば……さっきも何となく覇気がありませんでしたね……」
いつもなら由衣が義孝のことを口にするたびに噛みついてくるのだが、今日はそんな様子はなく、どこか気の抜けた感じだった。
「あいつ自分の弱みは他人に見せようとしないからな……ああ! めんどくせえ! あたしはあいつをとっちめて厨房に隠してあるワインでも――」
「麻依さん、仕事中ですよ?」
「おっと……そうだった。新井と甘い缶コーヒーでも飲むぜ! あばよ!」
三沢はそう言うと手を振って事務所を出て行った。
「……本当にお酒を飲まないわよね。さすがに三沢さんでも……ないわよね? だ、大丈夫。うん」
三沢の言動に一抹の不安を抱くが、ここは三沢を信じることにした。
(それよりも今は空いた時間を有効に使わないと……)
由衣は自分のバックから中学の時の卒業アルバムを取り出して開いた。
パラパラとページをめくり、やがて3年6組のページで手を止める。そこには自分の顔と……それから、『田中』が載っていた。
(元同級生の子に確認して、痴漢冤罪事件の加害者が田中さんであることの裏は取った……あとはどうやって『接点』を持つかだけど……)
由衣が頭を悩ませていると、ふと人の気配に気が付く。
横を見ると未来が顔を寄せてきて、卒業アルバムを覗き込んでいた。
「この女……お父さんを痴漢冤罪にはめようとした女ですね」
「えっ? よく気が付いたね」
「お父さんの動画はもう数百回は見ましたから」
「私と同じね……はぁ、ここまで同類じゃなくてもいいじゃない」
「私としても不本意です。それで……この加害者は由衣の元同級生なの?」
「ええ、偶然ね……そこまで仲が良かったわけではないけど……この子、かなり変わってる性格で有名だったから、顔を覚えていたの。この子に詳しい話を聞けば店長の悪い噂の一部を否定できると思って」
義孝の今置かれている状況は非常にまずい。ネットでは今までしてきたことが悪行と捉えられている。
その中には先日起きた痴漢冤罪も含まれており『本当は痴漢をしていたんじゃないか?』と言われている始末だ。
(私はなんとか店長の疑惑を晴らしたい。店長のためにできることは全部やるんだ……)
「ふーん……苗字は『タナカ』ですか」
由衣が決心を固めていると、隣で未来がそう呟く。その表情にはどこか戸惑いがあるように感じられた。
「ん? どうしたの?」
「いえ……気になることがあって……だけど、私の勘違いかもしれません」
(別に珍しい苗字でないと思うけど……)
由衣はそう思ったが未来は何か引っかかるようで、ジッと田中つぼみの写真を見つめる。
「いや……でも、『全てが仕組まれた』ことだったら……はぁ、私の頭では限界がありますね……」
未来は考えを振り切るように首を左右に振ると、由衣を見る。
「……由衣、これから少し付き合ってもらえませんか? 由衣がいた方が話が早い」
「えっと、別にいいけど……どこに行くの?」
「私のお爺ちゃんのところです……今教頭室にいます。由衣のおかげで敵のしっぽを掴めたかもしれません」
未来は無表情でそう言い放ち、それを聞いた由衣の心はざわついた。
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