第393話 ストーカーの想い

 それから30分後――。

 時刻は8時半に差し掛かろうとしていた。


『カタカタカタカタカタカタ』


 俺の部屋にはキーボードを叩く音だけがこだましていた。

 その中で俺はスマホのニュースサイトをめぐり、自分のことが上がっていないかを調べている。


 同じ部屋にいる浅田も同じようにずっとスマホの画面とにらめっこしていて、時折どこかに猫なで声で電話をかけている。


 そしてキーボードの音を発している秋村は自前のノートパソコンを二台持ち込み、できるキャリアウーマンみたいに二台のパソコンと家にあったモニターを繋ぎ、3画面を見ながら指を動かしている。


 2人とも真剣だ。


「…………」


 ここで、2人の顔を見てふと疑問を持つ。


(なんでここまでやってくれるんだろう……俺って犯罪者すれすれの立場だから、手伝うのもリスクが大きいんじゃないか?)


 そんなことを思いながら2人の顔を見ていると……秋村がこっちの視線に気が付き振り向く。


「何を人の顔をまじまじと見てるのよ……気持ち悪いわね」


「てんちょう、秋村さんみたいな人がタイプなんですかぁ~?」


 お前ら仲いいな……人間共通の敵を作ると、すぐ仲良くなるもんだ。


「いや……」


「ええええ!! タイプじゃないんですかぁ~~~!!!」


「話をややこしくするんじゃねぇ!!!」


「よかったわ。あんたにタイプと言われたら、私のありとあらえる恐怖症が発動していたわ。本当に嬉しいわ」


「お前も心からホッとしてるんじゃねぇよ!! 俺が泣きたくなるだろうが!! って! そんな言い争いがしてぇんじゃなかった!」


 俺は一度深く深呼吸をすると秋村と向かい合う。


「浅田が助けてくれる理由はさっき聞いた。竜胆の分家とか本家とか正直俺にはわからん理由だが……血っていうのは面倒だけどそういうものだ。俺も家族がピンチになれば手を貸すしな」


「ふふふふっ、てんちょう、あたしがピンチになったら正義のヒーローみたいに助けに来てくれるのぉ~?」


「お前が家族かどうかはわからん……俺竜胆家の一員じゃないし」


 これ認めると、凄まじく面倒になることを知っている。


「ぷうううう、てんちょうの意地悪ぅ~」


「今はお前のターンじゃねぇって! 秋村に聞きたいんだよ! お前は何で俺に手を貸してくれてるんだ?」


「……あんた、野暮なことを聞くわね。そうね……私はあんたに対して本来であれば地獄の業火であんたを焼き尽くし、ヒモなしバンジーをさせるぐらいの恨みは持っている」


 えっ? そんなに?


「だけど……それ以上に私は『償いたい』のよ。『誰に』とは言わないわ。私にはその資格がない」


「…………」


 俺ではないとしたら1人しかいない。


「正直言うとね、昨日あんたのネット記事を見た時は嬉しかったわ。『私にできることがある』と……ふっ、私は人の不幸を喜ぶ最低の女よ。だから、あんたは私を利用するだけ利用すればいいわ……」


 秋村はそう言ってパソコンのモニターに視線を戻した。「もう、話しかけてくんな!」と言わんばかりに自前の大きなヘッドフォンをして……。


「…………はぁ」


 俺はその様子を見ると小さくため息をつく、すると浅田が俺に顔を近づけてきて笑顔で一言。


「この女クソめんどくせぇな……軟体動物の方が素直だ。クソが」


 その例えはよくわからんけど……めんどくさいってのは同意する。

 だけど……めんどうだが、嫌な気分ではなかった。

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