第392話 ストーカーの奇策

   ◇◇◇


 それから30分ほどかけて今俺が置かれている状況を秋村に説明した。秋村は最初は不機嫌そうなわりには真剣に俺の話を聞いてくれていたのだが……。


「はぁ……」


 話が進むにつれて呆れたような顔になっていく。


「なんだか、小説やドラマの話を聞いている気分になってきたわ……」


「自分でもそう思うが、そんなドラマティックでもねぇ」


「それはそうよ! あんたの人生なんて喜劇以外なにものでもないわ! いや、それ以下ね! 三流ライターが書いたテンプレドラマの方が見ごたえがあるわ!」


「…………」


 こいつ浅田とは違う別のベクトルで毒舌だな。浅田に比べて金切り声なので耳に残る。普通の男だったぽっきりと心を折られている。


 もっとも、俺には……。


(ふっ、浅田の悪口とM向け風俗で俺の精神は鍛えられているからな! そのぐらいの悪口はそよ風のようだ)


「な、何笑ってるのよ。気持ち悪いわね……!!」


「てんちょうは、きもいです~」


 しれっと笑顔で浅田も参戦してきやがった。まあ、なんとでも言うがいい。お前らみたいな女にさげすさまれるとか、我々の業界ではご褒美だし。


「はぁ、川島、話を続けるわ。あんたの今の状況は非常によくない。このまま放っておくと、日の目も浴びれなくなるわ。一生」


「えっ……? い、言い過ぎだろ。俺は無実なんだし……所詮、ネット記事なんだから今だけどうにか切り抜けて、あとは時間が解決するのを……」


「ええ、そうですね~。逮捕の件は4大名家とあたしが動いてますので~。大丈夫だと思いますよ……たぶん」


 こいつや、爺さん、如月が手こずってるだもんな……多分、俺が考えているよりもこれは大きな事件なんだろう。


「甘い!!! 甘いわ!! 川島義孝!!」


「お、おう……そうか?」


「問題なのはあんたの写真がおもしろおかしくネット記事になってしまっていることよ!! ショックかもしれないけど……もうSNSにはあんたのコラ画像が……」


「…………!!」


 俺もおっさんとは言え、個人のSNSはたまに見る。その中で面白可笑しく個人の写真が編集されているのを目にしたことがある。

 ま、まさか、自分がそんな……。


「待ちなさい! こういうのは見ない方がいいわよ? あんたのことは嫌いだけど、これは心からの忠告よ。どうせ見たところで、こういうのは止まらない」


「……そ、そんなに脅さないで欲しい。だけど、確認しない訳には……」


 見るのはめっちゃ怖い。だって……全世界に俺のふざけた写真が載っている可能性があるわけだからな……お、俺が大事にしていた世間体が粉々に砕けているかもしれないのだ! 


 そんな風にめっちゃ考え込んでいると、浅田が俺の顔を覗き込んでくる。


「てんちょう、それならあたしが見てあげますよ~。ふふふ、店長が見られるレベルか判断しますぅ~~」


「わ、悪い、頼めるか……」


 そうだ。現役のアイドルならこういうのに耐性があるだろう。やんわりとフォローして欲しい。俺を介護してほしい。


「えっと……川島義孝、検索ぅ~検索ぅ~」


 ルンルン、という感じの浅田が自分のスマホで検索してくれるが……。


「…………」


 ある一定の時間が経つと突如無表情になる。そして一言隣にいる俺にしか聞こえない声で――。


「うわっ、きっつ…………」


「訴えてやる!!!!!!!! 肖像権の侵害だぁああああああ!!!!」


「お、落ち着きなさい! 川島義孝! わめいても仕方ないわよ!」


「いやだって!」


 あの浅田がぽろっと素を出すレベルだぞ!? どんな恥ずかしいコラ画像がネットの海に流れてるの!?


「さ、最悪だ……」


 俺はがっくりと机にうつむせになる。

 神も仏もいねぇ……。


「川島、でも……このくそつまらない台本をどうにかできるわ」


「気やすめなんだろ!?」


「半分はなんとかなる……」


「えっ? もう半分は?」


 俺は秋村の言葉に向くりと顔を上げる。

 えっ? 『半分』の確率でどうにかするってこと!?


「勝てる」


「マジか!?」


「『最初』に記事を書いた人間に謝罪文を書かせる。それについては私に考えがあるわ」


「え~でも~、記事の人間を見つけられるんですかぁ~? あたしの情報網でもその記事を書いた記者が見つけられなくてぇ~」


「ふっ! 私を誰だと思ってるの! 情報収集に関しては誰にも負ける気がしないわ……少し、法律のグレーゾーンを走るけど」


「おい、ボソッ最後なんて言った!」


 くっ、でも今はあまり手段を選んでられないか……と、とりあえず話だけでも聞いてみるか……。

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