第391話 帰って来たお嬢様

   ◇◇◇


 午前9時、学校近くの喫茶店にてーー。

 客もまばらな店内で夢野明菜はぎゅっとスマホを握りしめた。


 今明菜はマネジャーの柴田との最終打ち合わせのために待っていた。


 だが、明菜のマネジャーはおっちょこちょいがデフォルト装備の人なので、寝坊につき絶賛遅刻中である。


(うーん、これなら、葵さんと晴香ちゃんについて行けばよかったですねぇ……柴田さんも大変なので、厳しいことは言えませんが……)


 葵と晴香は絆を迎えに由衣の実家に顔を出している。


『絆っちのことは私たちに任せて! ゆめゆめは仕事に集中するがよい! 仕事に命を捧げよ!』


『可愛い幼女と聞けば黙ってられない! 可愛いは正義!』


 と、言っていた。

 明菜はその光景を思い出し、くすっと笑みをこぼし、またスマホに視線を落とす。


「はぁ……」


 すると、笑みが消えて疲れたような顔でため息をつく。スマホの画面には義孝からきたメールが映し出されていた。


 内容は『秋村と連絡をとっていいか?』というものだった。


「…………」


(義孝さんが秋村さんと……)


 返事は勿論『OKですぅ~』と返したのだが……。


(なんか……嫌な気持ちです……はぁ、わやしって器が小さいなぁ。よ、義孝さんには考えがあって秋村さんと連絡を取ろうとしてるのに……それにわたしの気持ちをないがしろにしないために、わたしに連絡を取ってくれたのは嬉しい)


 明菜の表情ますます暗くなり、テーブルに上に載せた握り拳をギュッと握りしめる。


(これは自分勝手な考えですね……わたしは義孝さんに頼られてる秋村さんに嫉妬してるんだ。悪いのはわかっているけど……でも、納得できない。なんで……あの人が義孝さんに頼られるの? 義孝さんに酷いことを言ったあの人が……)


「…………本当に器が小さい。義孝さんが大変な時なのに嫉妬だなんて。わたしって本当に自分勝手」


 ぽつりと呟き、今度は泣きそうになる。

 自分自身の矮小さが嫌というほど胸中を渦巻く。そんな考えはダメだと自分自身に言い聞かせても、憎しみはすぐに心に広がる。


 そんな考えを長引かせているとーー。

 1人の少女が明菜の席の後ろで歩を止めた。


『あら、わたくしは嫉妬って素晴らしい感情だと思うわよ。夢野さんはもっとわがままにしなさいな』


 聞き覚えのある声ーー。

 だけど、久しぶりに聞いた声ーー。


「…………えっ!!」


 明菜はバッと後ろを向く。

 そこにはーー。


『ごきげんよう。夢野さん……貴女の力を借りたい。義孝さんのために』


 そこにはキリッとした真剣な声色でありながら、どこか申し訳なさそうな笑みを浮かべたーー『如月望』が立っていた。

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