第265話 反省会
◇◇◇
リレーが終わって1時間後――。
俺は1人、いつもの食堂裏のベンチで頭を抱えて絶望していた。
「やっちまった…………………………」
俺がここまで絶望するなんて滅多にない……ことはない気がする。俺しょっちゅう絶望してるし。
だが! 逆に考えて欲しい、そんな絶望のスペシャリストの俺が一押しできる絶望だと。
うん、もう自分でも何を考えてるんだが訳がわからない。
「はぁ…………………」
気分は一切上がっていかない。
『て、店長、腰の調子はどうですか……?』
そんなクズの俺を心配してくれる天使こと、由衣が心配そうな表情でやってきて、俺の隣に座る。
「悪いな、片づけを任せてしまって……」
由衣と新井、三沢は足腰立たない俺の代わりに片付けをしてくれていた。
店長として情けない状況なのに、率先して仕事をしてくれてるんだから、頭が上がらない。
「もう、店長もここで生名さんと打ち合わせをしてたんですから、サボっていたわけじゃないですよ」
「まあ、そうなんだけど……」
「生名さんはもう帰りました?」
「ああ、なんか本社で報告書を作成するんだと……」
生名さん……昔の俺と同じ匂いがするんだよな……。社畜の才能がある。
「それでお前らの作業はどうだ? 終わってないなら手伝うけど」
「ああ、それなら大丈夫です。もう終わって三沢さんと新井さんは事務所でくつろいでます。ふふっ、2人ともリレーで勝てたからとても機嫌がいいですね」
「それはよかった……」
こいつら相変わらず仕事が早いな……。
はぁ、俺もあの疾走で見事に『勝てた』から手放しに喜びたいんだが……最後が『あれ』じゃなぁ。
「はぁぁぁぁ」
「もうっ、店長も少しは嬉しそうにして下さいよ。せっかく私たち勝ったんですよ?」
「そう言ってもな……俺はお前らのリードを守っただけだし、それに……最後、大勢の前でぶっ倒れたしな……」
あれは人生で片手で数えられるぐらい恥ずかしかった……。だっていい歳した大人が、リレーで気合を入れて、最後には立ち上がれないぐらい完全燃焼してしまった。
最後は三沢と新井に担がれるようにして退場して、とてもじゃないが勝者の退場シーンではなかった……。
いや、笑いはすげぇ取れてたんだけど……。
「ああ、JKに『あのオヤジ、リレーでマジになってるようけるwww』とか思われていたらどうしよう……」
「あ、相変わらず卑屈ですね……さっきも言いましたけど、店長、そんな不安そうな顔をしなくても、大丈夫ですよ。走ってる店長、とってもかっこよかったですから!」
「……そ、そうか……?」
………俺も単純だ。由衣にそう言われると少し明るい気持ちになってくる。
「ま、まあそれならいいんだけど……」
「そうですよ! それに……」
ん? 由衣のやつ笑顔のままなんだけど……なんか冷たい雰囲気が……。あ、あれ? 普通に恐い……。
「もし店長を笑う人間がいたら私が許しませんから……絶対に」
「お、おう……」
あ、あれ……? 俺普通にビビってる……。
ま、まあ由衣の言う通りだな。俺たちは勝ったんだ。堂々としていないと勝負した娘たちやフレアさん、アヤメにも失礼だろう。
「よし! 由衣、明菜がご馳走を用意してくれてらしいから、帰って祝勝会をするか!」
「はい……!」
由衣が嬉しそうな笑顔で頷く。それだけでさっきまで沈んでいた心が晴れやかになっていく気がした。俺って本当に単純――。
「あっ……店長、その前にお話があります。例の相談についてです」
そんなことを考えていると、さっきまでの笑顔とはうって変わって真剣な表情で俺のことを見つめてくる。
えっ……そんな改まってする悩みなのか? 重い系か……ここは年長者としてしっかり聞いてやらないとな。
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