第264話 夢のマッサージ予定
◇◇◇
同時刻――。
興奮のまま体育祭も終わり、夢野明菜は騒ぎ疲れて寝てしまった絆を背負っている葵と共に学校を出て帰路についていた。
赤い夕陽が空を染めており、体育祭の高揚感もあって余計綺麗に見えた。
「すぅ……まんま」
「あはは、絆っち、よく寝てるなぁ。ちょっと疲れちゃったかな」
「葵さん、絆ちゃんおぶるの変わりましょうかぁ? さっきからずっとですしぃ……」
「いいの、いいの。私は体力がありま余ってるし! それにゆめゆめはこれからみんなの料理を作るんでしょ? 体力仕事は私に任せといて!」
「ふふっ、ありがとうございます~」
今から明菜たちはスーパーに寄って今日頑張った義孝たちをねぎらう為に宴会の準備をしようとしていた。
「でも、結構な人数だけど……料理作るの大丈夫?」
「うん、あとで未来ちゃんと三沢さんも手伝うと言ってくれたので、楽勝ですぅ♪」
明菜は機嫌よさそうにそう言う。
さっきの義孝たちの走りを見て、少なからずテンションが上がっていた。
「すごいリレーでしたねぇ……」
「あはは、ゆめゆめさっきからその話ばっかりだね~」
「だって、本当に感動したんですぅ。フレアさんやアヤメちゃんは本当にプロスポーツ選手並みの走りだったしぃ、未来ちゃん、実花ちゃんも早くて……何より食堂チームの走りがすごくて……」
(…………義孝さん、とてもかっこよかった……はぁ)
「あはは、先輩も死にそうになりながら走った甲斐があったんじゃないかなぁ。先輩、走り終わった後はマジで生まれたての小鹿みたいだったし」
「そ、そうですね……」
明菜はリレーが終わった後、その場で立ち上がれなくなって、強制的に三沢や由衣に担がれて退場していった義孝のことを思い出して苦笑いをした後……しゅんっと心配そうな顔を見せた。
「義孝さん……大丈夫でしょうかぁ……最後立てないみたいでしたけど……」
「ああ、大丈夫、大丈夫、ただの運動不足で足腰立たなくなっただけだと思うよ? 次の日は筋肉痛で立てないだろうけど……先輩明日休みらしいし、いいんじゃない?」
「葵さん、最後怨念がこもってますよぉ……」
「いやぁー、明日私……始発出勤だから……今日休んだからなぁ……3か月振りの休みの代償は高くつきそうだよ……」
そう言いながら、哀愁漂う遠い目で夕陽を見つめる葵。
明菜も少し前の自分を見ているようで、悲しくなってきた。
そんな風に共感していると、葵が何かを思いつたいたように声を上げた。
「そうだ、ゆめゆめって元ナースだし、マッサージとかできるの?」
「えっ? わ、わたしは内科勤めだったから専門ではなかったんですけど……研修会で何度か習ったことはありますね……」
「へぇーやっぱりそういう研修とかあるんだ……」
葵が好奇心がある笑顔で明菜を見るが……明菜は苦笑いが7割増しになる。
「ええ、希少な休みに行かされます……8時間ぐらいの研修に……えへへ……しかも有給使わされて……えへへ」
「なんかごめん……そ、そうじゃなくて!」
葵は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「経験があるなら先輩にマッサージしてあげれば?」
「えっ……?」
「いや~、今日先輩って頑張ったじゃない? それを労ってあげるのも大切なんじゃない?」
「そ、そうですね。でも、義孝さん私なんかのマッサージで喜びますかね……プロにしてもらった方が……」
「大丈夫、大丈夫、先輩絶対に喜ぶからっ!」
葵は何故か明菜の胸を凝視しながらそんなこと言う……。だが、明菜は義孝の名前が出て来たことで耳まで真っ赤になり、慌ててしまいそんな視線には気が付かない。
(よ、義孝さんが喜んでくれるな……き、今日、みんなでご飯食べた後で、マッサージのこと、もう一度勉強しようかな、た、確か家の本棚に研修の時の資料があったよね……)
そんなことを考え込んだ。
明菜の頭にそんな思考、というか妄想はしばらく残った……。
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