第262話 決着
◇◇◇
人間という生き物は不相応な願いを抱くとろくなことがない。
それは俺が社畜時代に学んだことだ。
いや、マジでそれ。ブラック会社ですんなり有休を取るとかな。
有給で休みの筈なのに全然休んだ気がしない。変な罪悪感が1日中まとわりつくし……後悔しかなかった。
って……そんなことを考えても今の状況は解決しないんだけど。
『なんという番狂わせ! 食堂チームが1位のまま独走をしている!!! その後を我が校のアイドル! 竜胆姉妹が追いかける!』
『きゃああああ!!! 店長頑張ってええええ!!!』
『未来ちゃん!!! いけえええええええ!!』
実況の女生徒の声と観客の声援が耳に響く。どうやら会場の盛り上がりは最高潮のようだ。まあ、最終走者だしな……。
JKの声援だ。いつもなら飛んで喜ぶところだが……。
「はぁはぁ……くそ……勝手に盛り上がりやがって! はぁはぁ……!」
俺は悪態をつきながらひたすら走る。
正直に言ってしまえば、ここで負けても義孝にとっては不利益なことはない。ないが……。
(由衣たちがあれだけ頑張ったんだ! 俺がサボるわけにもいかねぇだろ!)
仲間のため……といえばなんか照れるが、それが俺の答えだ。
(くそ、でも……半分をもう過ぎた! ラスト100メートル! ここまでくればもう楽勝――)
『おおっと! 独走する食堂チームだが! 最強美少女竜胆未来が追いあげてきた!』
「はっ!?」
そんな声が耳に入る。走ることに夢中過ぎて気が付かなったが……後ろを気にしてみると気配を感じる。
「はぁ……はぁ、お父さん……はぁはぁ」
後ろからは低く感情が入ってない呪いの言葉の様な声が、後ろから聞こえてくる。なにこれ!? めっちゃ恐いだけど!?
『さらに警備員チームのフレアさんが! な、何だこれは人間離れしたスピードだ!? え、え、え、こ、これって世界レベルのスピードなんじゃ……』
そんな奴が体育祭で走るんじゃねえ!!!!!! 実況の子が困ってるじゃねぇか!!
えっ!? 何!? 後ろ振り向く暇がねぇから状況がわからねぇんだけど!? えっ? フレアさんとは15メートル近く離れてた気がするんだけど、追い付かれるの!?
『えっ? さ、さらに謎の金髪美人教師のあ、アヤメ先生もは、速い!? まさにフレアさんとデットヒート!! 果たしてどちらが勝つのか!?』
『あ、あの先生誰だ……? 見たことないけど』
『か、可愛い……』
おい! 何で1位の俺よりも注目されてるんだよ! って……!
「はぁはぁ、も、もう少し! もう少しでお父さんに追いつける……はぁはぁ」
未来がすぐ後ろにいる!? しかも足音や気配がひとりじゃない!? アヤメとフレアさんも追いついてきたか!
くそっ、仲間たちが作ってくれた貯金はすっかり使い果たした!
『さあ、まさかの4つ巴だあああああああああ!!!! もう誰が勝つのかわからない!!!!』
「はぁはぁ、クソっ!! ここまで来て負けてたまるか!!」
俺は自分の身体に鞭を打ち、足を進める。負けたくないーーそれだけを考えて。
そして――ついに勝負がついた。
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