第258話 新井と三沢の本気
とうとう俺の運命を賭けた? リレーが始まった。
観客からはわれんばかりの歓声が起こり、会場のボルテージは最高潮と言った感じだ。
そんな中で我らが食堂チームの第一走者である新井は――後続のスポーツマンをぐんぐんと引き離していく。
『おおおっと!! これは番狂わせ!! ダークホースの食堂チームがトップだああ!!』
「す、すごい! 新井さん! 1位! 1位ですよ!」
「あ、あいつ足速いな!」
由衣は放送で流れている実況がかすむぐらい、まるで子供の様にはしゃぐ。その気持ちもわかる。俺も目の前が熱くなるような高揚感に包まれていた。
『きゃああああああああ! 新井君~~~~~!!!』
観客席からは黄色い声援も聞こえてくる。これも気持ちはわかる。
筋肉質な警備員の人や、いかにも陸上部っぽい生徒よりも身長が20センチぐらい低い新井がダントツで1位なのだ。
そのインパクトは視線を引き付けられるものがある。
俺が女子ならトキメクものがあると思うが……男としては純粋にうらやましい。だって男だもの。モテたい。
だが、今はそんな想いよりも純粋に頼もしさが強い。
「よっしゃあああ! 新井そのまま! 行け!!」
「新井さん! 行けっ! このまま1位になれます!」
由衣と俺は童心に返ったように応援をする。ここはもう大人げなくてもいい。
そして、新井の魂の走りは近くで待機している他のチームの動揺誘っていて、俺の周りではどよめきが起こっている――。
『お、お姉ちゃん……ちょっとまずいね……』
『う~ん、新井君が足速いのは知ってたけど……これはさすがに予想外、実花ショック。絶対パ……店長のために寿命を削って走ってるよ』
ま、まあ……新井の顔を見ているとそんな感じもする。あとでなんか奢ってやろう……。
『ほう。義孝様は優秀な部下をお持ちですね。さすがはこの国の王』
『さすがはお兄ちゃんの専属の忍びでござる。風林火山でござる』
……フレアさんとアヤメは言ってることがよくわからない。ま、まあ外野のことなんてどうでもいい!
今は必死にトップを独走している新井だ。
『おっしゃああああ、このままトップ行けるぞ!!』
もう2位との差は7、8メートルに達しようとしている。そしてその差をキープしながら二番手の三沢の元に向かう!
「み、三沢の姉御! 後は頼むっす!!!」
「おう! よくやった新井! あとはあたしに任せな!!!」
新井は三沢に危なげなくバトンを手放す。ここは休日に練習した成果が出ていた。
「よっしゃあああああああ!! とばすぜええええええええ!!」
三沢は走り出すとドンドンスピードを上げていてく。
三沢の相手はスポーツ馴れをしていそうな男連中なので、差を広げることはできていないが、それでも新井が作った差を守りっ切っている。
『おおおお!! 1位食堂チーム! 2位生徒チーム! 僅差で3位警備員チーム、教師チームと続きます! 食堂チームの我らが姉さんの三沢さん!! 陸上部の後藤君に引けを取らない速さだ!!!』
あいつもすげぇな! 三沢を追ってる男子生徒、素人目から見ても陸上部並みに早いのに三沢は引けを取っていない。
むしろじりじりと引き離している。このままいけばかなりのリードを作って由衣にバトンタッチができそうだ。
そんなふうに考えていると由衣のスタート位置に着く時間がやって来る。
由衣は振り向いて俺の方を見て、楽しそうにほほ笑む。その顔は明るくて清々しく見ていて気持ちいい笑顔だ。
「店長、いってきます」
「おう! 食堂の力を見せてやれ!」
「はい!」
由衣はそう言うと前を向いて歩きだす。
そして2位と10メートルほど三沢が引き離した三沢が由衣の元に爆走してきて――。
「麻依さん!」
「由衣いいいいいい! 任せたああああ!!」
バトンを手渡した――。
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