第255話 リレー開始直前(3)
俺は由衣を追いかけて校庭に隣接しているリレーの待合所にきた。あと5分ほどで入場ということもあり、もう既に10人ほどいた。
「まだ、実花未来や三沢と新井は来てないみたいだな……それにフレアさんも」
「あれ? 私たちより先に向かった気がしましたけど……」
「そうだよな……」
俺たちがここに来る前に事務所に寄ったけど誰もいなかったからな。まあ、そのうち来るか……。
今はそれよりも……。
(ここにいる人たちがリレーに出るんだよな……)
俺は改めて周りを見渡す。教師に生徒、警備員のおっちゃんがいる。
現役の生徒はもちろん、教師や警備員の人はいかにも「学生時代は全国大会出場経験があります」と、言わんばかりの容姿の人が多い。
正直俺の場違い感がやばいし……。
「…………」
ガチで緊張してきた……。
「あら、店長さん、音無さん、今日はよろしくお願いします」
そんなことを考えていると、教師の中の1人が俺たちに話しかけてきた。若くて美人の先生だ。ジャージ姿もとても美しい。先生というよりは美人秘書といった雰囲気だ。
見覚えがある。確かお客さんとしてよく来てくれてたな。
由衣は話しかけてきた教師と親しいのか、人当たりのいい笑みを浮かべている。
「あっ、細川先生、こちらこそよろしくお願いします。店長、細川先生はよく学食に来てくれるんです」
「ど、どうも……」
「店長さんとはお話するのは初めてでしたね。私、2年C組の担任をしています細川と言います」
「はい、食堂店長の川島です…………えっ? 2年C組?」
俺は頭の中に電流が走ったような感覚に襲われる。えっ? だって、2年C組って……実花未来のクラスじゃねぇか。
そう考えると急に申し訳なくなってくる。だって仕事とはいえ、あのバカ娘たちの相手をさせられてるんだぞ?
「あ、あの……なんかすみません……すみません、すみません……本当にすみません」
「えっ……?」
俺の突然の懺悔にキョトンした顔をする細川先生。戸惑わせているのは重々承知なんだが……懺悔せずににはいられない。
うむ。真の懺悔というのは言葉にするものではなく、あふれ出るものなんだろう。
「て、店長さん、どうかしたんですか……?」
「あー、店長はあれです。そうです……あれです。女性を見たら謝りたくなるんです」
どんな性癖だ。
「そ、そうですか……」
「そ、そうなんです。ねえ店長?」
由衣が俺の気持ち察したのかフォローをしようとしているが、咄嗟のことでよくわからない言葉しか出てこないようだ。
す、すまない。情けない上司で――ああ、細川先生の中で俺への好感度がどんどん下がってないか? 今一歩後ずさりしたし……。
ここは何でもない会話で誤魔化そう。
「細川先生もリレーに出るんですか?」
「は、はい……皆さん走るのが苦手らしくて、まつり上げられる形で仕方なく。あはは……」
「…………」
この人、綺麗な人だけど苦労してそうだな……同じ社畜の匂いを感じる。こ、この話題はやめよう。
確かリレーは男女2人組の決まりだから……。
「そ、そうなんですか。それでもう一人の女性の方は……」
「あ、ああ……もうそろそろいらっしゃると思うのですが、昨日赴任した先生です」
「……………………き、昨日?」
もう嫌な予感がする。
『お、お兄ちゃん……あなたの可愛い妹が来ちゃったでござる♪』
アヤメが史上最高クラスの苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。もうなんだかヤケクソ感がある。
やっぱりお前か!?
ま、待て……その呼び方はまず――。
「えっ? お、お兄ちゃん? ……て、店長さんが?」
細川先生がまた1歩後ろに下がる。ああ、もうドン引きですね……。気持ちはわかる。俺は凡人日本人中年でアヤメは金髪美少女だからな……。
アヤメが俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ理由なんか、二次元か、かなりいりくんだ家庭事情か……もしくは呼ばせてるただの変態か……とかだ。
それで細川先生にどう思われているかというと――。
「あ、あはは、おふたりは仲がいいんですね……あ、あはは。あ、そ、そうだ、私、係りの生徒と話すことがあるのでこれで失礼しますね」
逃げるように去っていく細川先生……。
うん。限りなく変態だと思われてれる。そして悪いことは重なるものだ。
「ジョン君!!! 私もいるわよ!!!」
頭痛い……なぜお前もいる。
「はぁ……店長、私のせいでもあるので大きいことは言えませんが……ドンマイです」
由衣が俺の肩をぽんぽん叩き慰めてくれる。
なんだよ。このカオスすぎる状況は…………。
「…………それで店長に聞きたいんですが『ジョン君』って何ですか? ふふっ、可愛い子ですね…………」
帰りたい……。
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