第252話 もうひと頑張り(3)

 日本人というのはリップサービスが全てみたいなところがあると思う。娘が不機嫌の時は特にな……。


 俺は最強軍団社畜の中で日本で最も潔く、スタイリッシュにプライドを捧げる男だ。


「はい、お嬢様。わたあめになりますよっ」


「お、お父さん……お、お嬢様だなんて……恥ずかしいです…」


「いえいえ、未来様はとてもお綺麗でもう仕事中に写真を見れば、22時間以上は働けますす」


「お、お綺麗……えへへ、お綺麗……えへへ、えへへ」


「店長


 俺は青色の鮮やかな色のわたあめを未来に渡す。それはもうフレアさんの様に冷静にそれはもう老紳士の執事のような態度だ。


 その態度にいつも無表情の未来の目が輝いている気がする。


「へぇ、パパってなんだかんだ言って優しいよね~」


「くすくす、店長はなんだかんだ言って、女性に対して甘々なので」


 おい外野。素直に関心するなや。なんかその反応はむずがゆい。

 だが、一度付けた仮面はそう簡単には外さねぇぞ?


「お嬢様方、私は優雅にきらびやかにお仕えするだけです。もう如月家が思わず雇いたくなりますよ」


 と、軽口をたたいていると――。


『ふーん、貴方中々執事とか向いているかもしれないわね』



「へ……?」


 なんか嬉しそうな感情がにじみ出ているような声が聞こえたような……。

 嫌な予感がするが……俺は声のする方を見てみると、上機嫌そうな表情の如月が立っていた。


「ふふっ、貴方、今日辞表を出して明日から家に来なさいな。ええ、わかってるわ。執事の期間は私が卒業するまでよ。それからはわたくしと籍をいれて――」


「…………」


 えっ……? な、何でこの子ここにいるの? い、いや、いるのは不思議ではないか……だけどよりによって今……。


 ああ、お見合いの件は断ったんだけど……この話題はまずいんだよな。娘たちはもちろん由衣も上司が犯罪者予備軍になるのが嫌なのか……毛嫌いするし……。


「パパぁーぶぅーぶぅー。私たちをすてるのぉー。そうやって新しい女の所に行くんだねっ! 男ってっ最低!!! …………って、めんどくさい女ってパパ、タイプ?」


 よし、お前はとりあえず黙れ。


「……店長、私ってネチネチ根に持つタイプなのでよろしくお願いします」


 何が!? お前は色彩を失った目でガチトーンで今言うことか!?


「お父さん……」


 ああ、ラスボスが仲間になりたそうにこっちを見ている……。

 とか、考えていると――。


「お姉ちゃん、ちょっとこれ持ってて……」


「えっ……? う、うん」


 

 未来は隣に立っていた実花にわたあめを預けると――。

 ぐいっ!


 未来に屋台の正面に設置しているテーブル越しに未来が俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。はあああ!? この子いきなりどうしたの!? ここ学校だぞ!?


「お、おい! み、未来……」


「お父さんは如月さんに渡しません……」


 未来が如月を威嚇するようにキッとにらみつけるが……如月は動揺する雰囲気もなく、涼しい顔で答える。


「……ごめんなさい。少しからかい過ぎたわね。ふふっ、離してあげなさいな。学校で抱きつかれると、さすがのこの人も困ってるわよ?」


「…………あっ」


 未来は如月の言葉にハッとすると、俺の腕を話した。そして周りを見渡すと……。


「誰にも見られてないようですね……ごめんなさい、お父さん」


「いや、いいって」


 大ごとにはならなかったしな。というか、元凶は如月だしな……。

 そのことは未来も思うことがあるのか、ジト目で如月を見る。なんかいじけてる雰囲気だ。


「……如月さん、冗談が過ぎますよ」


「ふふっ、ごめんなさい。お友達の驚く顔が見たくてついね……」


「もうっ……はぁ、趣味が悪いです……」



 ん……? こいつら結構仲良さそうだな。普通に友達同士の会話じゃん……確か、未来と如月って。

 

「…………ふんっ、そんな冗談言う人にはもうお弁当作ってあげません」


「えっ? ご、ごめんなさい。未来さんのお弁当とても美味しかったわよ? そ、そんなこと言わないで欲しいわ……」


「……つーん」


「あーあ、未来ちゃんおへそ曲げると長いよー」


「これは如月さんが悪いわよ。未来は家族のことになると私以上にネチネチ根に持つから」


 なんだ未来のやつ友達いるじゃん……。

 俺は微笑ましい気持ちになりながら、わいわいとお喋りをする娘たちを見ていた。

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