第251話 もうひと頑張り(2)
◇◇◇
営業が始まって数十分後の15時半過ぎ――。
屋台は2つの販売所を設置したことにより、忙しさは分散され、午前中よりも楽をして営業できていた。
さらにピーク時は過ぎたのか周りにうちの商品を食べてるお客さんは数組いるが、店に並んでる人はいない。
「ふっ、さすが俺だ。今お客さんは来てないが、今日1日の売り上げを考えたら、今から1人も来なくても充分だろう」
俺は自分の営業の才能があることに自画自賛していた。まあ、実際はそんなにたいしたことではないのだけど……。
店舗分けただけだし……
だが、そんな調子にのった考えに由衣は賛同してるらしく、ポップコーンの仕分けをしながら尊敬の眼差しを俺に向けてくる。
「店長流石です! 言ったことが見事に的中しましたね。その判断力すごいなぁ……」
「…………」
いや、由衣の反応は大げさだとは思う。どんな補正が入ってたら、この程度のことでここまで尊敬されるんだ?
……まあ、普段の俺なら、嘘を言っていないかを疑いつつ、さらには保険をかけつつ、用心深く調子にのるのだけど……。
「店長は普段はやる気ない姿を見せてるけど……えへへ、こういうところは尊敬できます」
「はっ! 上から言いやがって。ふっ、すべては俺の計算通りだ」
今回は遥か高みにいるように調子にのる。そんな俺のことを見て悪戯っぽく笑う由衣。
「ふふっ、もうっ、店長ったら。私に褒められるのがそんなに嬉しいんですか?」
「そんなの当たり前だろ? 由衣みたいな美人に褒められるとついつい調子にのってしまうのも仕方ない」
「…………! そ、そうですか」
俺が自信満々に言うと由衣はそっぽを向いてしまう……あ、あれ? さすがに本人を前に美人とか、中年が言うと気持ちかったか……?
い、いや、でも今のは同僚同士の軽い雑談みたいなもんだし、セクハラにはならないんじゃないかとと思うんだが……思うんだが……。
『ふーん……お父さん、なんか楽しそうにお仕事してるね……別にいいんですけど』
『パパ、ヤッホー! 愛する家族が会いに来てあげたよー』
俺がセクハラについて思い悩んでいると、屋台の注文コーナーから聞きなれた声が聞こえてくる。
振り返るとそこには、無表情ながらいじけ顔で「こいつ、由衣を口説いてやがる。きもっ」という声が聞こえてきそうな未来と、「面白い場面にきちゃった」みたいな感じで楽しんでいる実花が立っていた。
その声に一瞬焦る。こ、このタイミングで来るとかマジか……あ、あと、呼び方……誰かに聞かれたらどうするんだよ!
「お、お前ら、呼び方には気を付けろよ」
「大丈夫です。周りの人に聞こえなぐらいのボリュームでした。つーん、由衣といちゃいちゃしているお父さんよりは気を使っていると思いますが……」
「あらら、未来ちゃんお怒りだぁー」
「い、いちゃいちゃなんて……わ、私は……その」
「つーん……お父さんはまったく……まったくもう……」
「…………」
ど、どうしよう……娘たち、主に未来の機嫌を損ねてしまったようだ。実花は楽しんでる節があるけな……。
ここは全国のお父さんたちと同じように娘ご機嫌取りを全力で頑張ろう。
「み、未来、わたあめ食べたくないか? 今なら特別俺が作って――」
「食べます。私青色のわたあめがいいです」
即答だ。むしろ俺の言葉にくいぎみで割り込んできた……。未来の目には喜びの色が浮かんでいるようだ……。
やっぱこいつ実は結構単純だよな……俺や実花限定でだけど……。
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