第188話 誕生日パーティ!!!(4)

   ◇◇◇


 絆ちゃんと2人で留守番をし始めて数時間、現在夕方の6時――。

 由衣は夕方には戻ると言っていたので、そろそろだと思う……由衣は嫌なことを内に抱え込むから、遊んでリフレッシュできたらいいんだけどな。


 俺と絆ちゃんは楽しくお留守番をしていた。

 テレビを見たり、実花の持ち物のテレビゲーム、トランプをしながら遊んでいた。まあ、一番話してた時間が長かったけど。


 幼稚園のことや家のことや、好きなこと、絆ちゃんは終始元気で、見ていて飽きず、楽しい時間だった。


「すぅすぅ……むにゃ……みにぁ……」


 そんな元気いっぱいの絆ちゃんもずっと遊んだり喋っていて疲れたのか、1時間ほど前に座っている俺の膝に抱きつく格好で寝てしまった。


 起こすのも可愛そうなので、ブラウンケットだけ絆ちゃんにかけて、そのままの姿勢でスマホをいじってネットサーフィンに興じているのだが……。


 さすがに膝が痛くなってきた……さらには腰も痛い……くっ、いくら子供の体重とは言え同じ体制はつらいな……でも……。


「むにゃ……まだあそぶのぉ……まんま、おじちゃん……」


(……もう少し頑張るか……せめて由衣が帰ってくるまでは……)


 ほんと、子供とは可愛いものだ……。


『……へぇ、夢野さんは料理が得意なのね……。ここまで、できるなんて感心するわ』


『あ、ありがとうございます……わぁ、如月さんに褒められると恐縮しちゃいますぅ……』


 ん? 何故か明菜の部屋から如月の声が……どういう接点だ? 

 …………如月のやつ変な因縁を明菜につけてないだろうな……?


『如月さん、初めまして音無由衣です……お、お噂はかねがね……』


『ああ、学食の従業員さんね。明菜さんもだけど、敬語ではなくて結構よ?』


 えっ……由衣もいるのか……?

 あいつ買い物から帰って来たのか……?


『ふんっ、如月さんの話なんてどうでもいいです……それよりも準備はどうですか?』


『ばっちりでござる! 早く呼んで来ようよ!』


 未来とアヤメもいるな……。

 集まって何してるんだ……?


「ん? まんまの声……?」


「ああ、絆ちゃん、起きたか……」


 寝ぼけ眼で俺のことを見てくる絆ちゃん。そして、何かに気が付いたのか驚いたような顔を見せる。


「ああ! きずなねちゃった!! まんまとやくそくしてたのに!!」


「ん? 約束……? なんか、状況がわからないが……」


 ガチャ――。

 バタバタ――。


 その時、明菜の部屋のドアが開く音がして、複数人の足音がこの部屋に向かってくる。

 えっ? どういう――。


「パパああああ!!! 誕生日おめでとう!!!」


 実花がそんなことを叫びながら部屋に飛び込んでくる。


 パンパン!!! 

 クラッカーが鳴らされる。


 た、誕生日……あ、ああ、今日5月5日か……。最近祝われた経験がなかったから、すっかり忘れていた……。


 突然のことで思考がまったくついていかない……そんな所にぞろぞろと人が家に入ってくる……。


「義孝さん、おめでとうございますぅ」


 ……こ、こんな美女に誕生日を祝われたことがあっただろうか……?

 それだけで感動ものなんだが……。


「ええ、めでたいわね。将来、如月を担う者として祝うわ」


 うん。こいつの言ってることは一層わからない……如月は継がねぇって……。


「お父さん、おめでとうございます。プレゼントも誕生日会の準備をしています」


「そうそう! すっごいプレゼントを用意したでござる!!」


 …………ま、マジか。マジで俺祝われるの……? り、リア充だけに許されるというサプライズパーティーというやつか?


「店長おめでとうございます!」


「おじちゃん! おめでとう!!! おじちゃん、あそぼうよ!」


 そうか……絆ちゃんでサプライズを隠す作戦か……絆ちゃんがどこまで理解していたのかは謎だけど……。


「……み、皆……ありがとう……ここできつい下ネタとか言った方がいいか?」


「はぁ、店長……こんな時に何言っってるんですか?」


 い、いやこんな時だからだろ! 俺はこんな時にとるリアクションを知らない!


「ふふふっ、ああーパパ照れてるぅー! サプライズ大成功!!! パパ、誕生日おめでとう!!!」


 その日、俺は人生で一番印象深い誕生日を過ごすことになった。

 最初は感動で、ろくに言葉が出てこない……だけど、死ぬほど嬉しい。それだけは確かだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る