第186話 誕生日パーティ!!!(2)

 さらに同時刻――。

 夢野家にて――。


「ふふっ~~。ふふふっ~~~~♪」


 明菜は機嫌よさそうに好きなシンガーソングライターの歌を口ずさみながら、今日の誕生日会の料理を作っていく。


 今は特製アヒージョの下準備をしていて、大量の海老の殻をむいていく。

 その量は数匹とか可愛いものではなく、義孝が働く食堂の仕込みクラスの量だが、今の浮かれている明菜にとってはとても楽しい作業な気がした。


「よし、これで準備オッケーですね……♪」


 海老の殻をむき終わり、あとはオリーブオイルで煮込むだけだ。


「ローストビーフはもう少ししたら焼き始めましょう。それからピザにフリッターにクリームコロッケと……」


 キッチンには所狭しと食材が並べられている。半分ぐらいは先日アヤメからもらった食材だが……明らかに30人前の量はある。


 誕生日会に参加するのは絆を含めても10人いないので明らかに多いのだが……。


「……うーん、ちょっと少ないかなぁ……でも、ケーキも大きいの買うんだし……よし、もう一品追加しちゃいましょう。ハンバーグとか、絆ちゃん喜んでくれるかも」


 明菜の食事量の感覚は完全にくるっているので、誰も止める人がいないないと、いつまでも料理をしていそうだ。


「…………ふふっ、義孝さんも喜んでくれるかなぁ…………た、誕生日プレゼントも用意したし……で、でも、ただの隣の住人が誕生日プレゼント渡すなんて……ひ、引かれたりしないですかね……」


 明菜は唐突に不安になり、手を洗い、エプロンを取った。そして、ベッドの横に置いておいた義孝への誕生日プレゼントを手に取る。


 可愛らしくラッピングしてある大きめの筆箱ぐらいの包みに入っているのは、先日葵に協力してもらって選んだものだ。若干独身男性に渡すには重い……物だ。


「や、やっぱり、すぐ手元から消失する、食べ物とかの方がよかったかなぁ……わたしのプレゼントなんかがいつまでも手元にあったら迷惑かな?」


 明菜はそう呟きながらベッドに倒れ込む。義孝に直接渡すことを考えると……胸がきゅううっと締め付けられるようだ。


 プレゼントを胸に当て、深くため息を吐く。


「はぁぁぁぁ、わたし……またマイナス思考になってますねぇ……だめだめ、葵さんも自信を持てばいいって言ってたし」


 明菜の脳裏には先日プレゼントを買った時の葵の反応が思い浮かぶ。


『大丈夫! ゆめゆめからそんな『プレゼント』を貰った男は必ずおちるから! それもサプライズだし! …………まあ、個人的にはゆめゆめって結構大胆だなぁって思いました。まる。いつも身に着ける物だし……』


 …………。


「…………あ、あれ? もしかして、わ、わたしやっちゃった? 大丈夫って言うのは社交辞令……!? うぅぅぅぅぅぅ」


 プレゼントを横に置き、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめながら身もだえる明菜。

 もう、義孝にプレゼントを渡す前から、恥ずかしさで死にそうだ。


『おじちゃん!!! おじちゃん!!! たかいたかいして欲しいの!!!』


 その時、壁越しから絆の元気な声が明菜の耳に届いた。

 その声を聞くと微笑ましい気分になり、恥ずかしさが少しだけ和らいだ気がした……。


(義孝さんは絆ちゃんとお留守番してるんでした……さ、さっきの独り言聞こえてなかったかな……)


『しょうがねぇな。ほらこっち来いよ!!』


『わああああああい!!! おじちゃんだいすき!!!』


『どああああ!! お前、勢いよく突っ込んできすぎだろ!! おでこぶつけたけど大丈夫か?』


『うん! あはは、おじちゃんのおっぱいかたーい!』


(ふふふっ、2人とも仲いいなぁ。義孝さん優しいし、好かれるのも、納得だよね――)


『あははは、こないだもみもみした明菜ちゃんのおっぱいはましゅまろみたいだったよ!』


「……えっ?」


 絆が言っているのは、前に音無親子と近くの銭湯に行った時の話だ。

 その時、絆は明菜の胸が気に入ったのかずっとぺたぺたと触っていた。


(き、絆ちゃん! よ、義孝さんの前で何言ってるの……! ふ、太ってるって思われたらどうしよう……)


 明菜は壁に耳をつけて義孝の反応を待つ。

 これは盗聴なので……いけないことだとはわかっているが……どうしても義孝の反応が気になる。義孝の反応次第では、今から絶食するのもやぶさかではない。


『絆ちゃん……』


『なあにおじちゃん?』


『その時の感触を具体的に教えてくれ…………』


(義孝さん! 真剣な声で子供に何を聞いているんですか!? ……で、でも、わ、わたしに興味を持ってくれてる……? うぅぅぅぅぅぅ)


 それから義孝と絆が明菜の胸について話してる間、明菜はベッドの上で身もだえ続けた……。

 頭の中は義孝のことでいっぱいで、これから会うと思うと……顔から火が出そうだった。

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