第178話 それぞれの戦い(3)
娘たちと如月の着替えを待つこと数分――。
「…………うぅ」
突然、背筋が寒くなるのを感じた。
なんというか、これからとんでもないことが起こるような気がするような……それか、現在進行形で俺の立場が危ぶまれることが起こっている気がするような……。
「嫌な予感がする……」
「義孝様……が、そう仰るのならばそうなのでしょう。今すぐ世界飢饉が起こるかもしれませんね」
フレアさんが真顔で頷く。
「いや、俺の勘はそんなに全てを見渡してないですよ……」
ここ最近ですごくダイナミックな経験をしてると思うが、自分が中心で世界が回っていると考えるほど俺は若くない。
しかし、俺のことを妄信しているフレアさんはそう思わないらしい。
「…………いえ、支配者である義孝様の勘は聖書よりも重要です。祖国の仕送りを増やした方がよさそうですね」
「だから、俺はノストラダムスでもなんでもないですって……」
頭を抱えたくなる。
俺の人生で仕事以外でここまで人の信頼を得たことはなかった。うん。これはこれで非常にめんどくさい。信頼とは時には精神的負荷にしかならない。
(まあ、仕事で信頼を得ていたと言っても「こいつなら勝手にサービス残業するだろう」というブラック会社の悪しき風習だけどな)
「? 義孝様、どうかしましたか?」
「はっ、つい社畜時代の記憶に囚われてしまった……」
そんなことを話していると……。
「でも……お嬢様たち、さすがに遅いですね。私様子を見て参ります」
フレアさんがそう言い、更衣室の方に向かう。
それから数秒後に――。
『パパぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! の胸にだああああああいぶうううう!!!!』
「えっ……?」
背後からパタパタという足音と、大声が聞こえたので振り向くと――。
むぎゅうううううううう。
「は、はっ!? いきなり抱きついてるんじゃねぇよ!!!」
青を基調としたビキニを着た実花が抱きついてくる。
俺のほかに男がいないからか……布面積が小さい気がする……実花の大きな胸がこれでもかと強調されている。
そのくせ、腰はびっくりするくらい細い……。
むにむにと胸を押し付けてきて、俺の腰回りを舐めまわすように触ってくきて――。
「ふふふっ、パパ、腰凝ってるんじゃない? 私がマッサージしてあげようか? くすっ、パパだけ特別……だよ?」
「み、耳元でささやくなって……」
『はぁ……お姉ちゃん、お父さん困ってるから離れてよ……』
今度はピンクのビキニを着た未来がやってくる。
こちらは実花ほどの胸のボリュームはないが、その分スラリと見えて、まるでモデルみたいだ。
いつもの無表情はミステリアス見え、不思議な魅力を引き出していた。
うむ。我が娘ながら……水着姿はレベルが高い。
「お姉ちゃんばかりずるい。私もお父さんとくっつきたいです」
「ふふっ、だーめ、今私が甘えてるんだからっ!」
「い、いいから離れろって!」
俺は無理やり実花を引き離す。これ以上はマジで理性がやばい……。
娘とはいえ、美少女過ぎる……。
「ああん、パパもっといいじゃん……まあ、まだあとでいくらでも甘えられるからいっか」
「お姉ちゃん、今度は私だからね……それで、お父さん……み、水着どうですか?」
「そうそう! この日のためにダイエットとか頑張ったんだから!」
「…………」
あれ? 世の中のお父さんたちは娘の水着姿をどうやって褒めてるのだろうか……これで風俗嬢と比べたりしたら怒るんだろ……?
まあ、普通に可愛いとか褒めればいいんだけど……それは恥ずかしい。
「じぃ…………」
「じぃ…………」
娘たちからの視線のプレッシャーが半端ない。「恥ずかしいとか、腑抜けたこと言ってるんじゃねぇぞ」という意思を感じる気がする……。
「ま、まあ、可愛いんじゃねぇか。一般的に……な」
俺がぼそりとそんなことを言うと……娘たちの表情がぱああっと、明るくなる。
「もうっ、パパったら素直じゃないんだから!」
「……ふふっ、お父さんに褒められた……ふふっ、褒められた。可愛いって」
実花は俺の脇腹をつんつんとしながら、悪戯っぽい笑みを浮かべ、未来は自分の世界に入ってしまっている。
……喜んでるみたいだし、まあいいか。
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