第175話 プールへ!(6)
それから数時間、車内でたわいもない会話を楽しみ、朝7時ごろには綺麗な海に到着する。
俺らは一度車を止めて朝飯を食うべく、徒歩で5分ほどの市場に向うことになった。
その途中ーー。
「わあああ! パパ見て海だよ!! あはは、綺麗だなぁ」
「ああ、そうだなー」
「お姉ちゃん、走ると危ないです」
「実花さん、落ち着きなさいな……気持ちはわかりますが」
目の前には見渡す限りの蒼海が広がっている。海も香りと、ちょうどいい気温、それに海に負けないぐらい蒼いな空。
景色とかにあまり感動しない俺でも心を動かされるものがある。
まあ、キラキラと目を輝かせてる実花と同じ反応はできないけど。
温度感としては未来は俺と同じような反応だ。
如月はクールぶってはいるが、その瞳に宿る感情は「もう少し近づいて見て見たいわね……」と、興味深々な感じだ。
そして、フレアさんはそんな如月を微笑ましいものを見る目で見ている。
「あれ? 未来ちゃんはわかるけど……パパもそんなに感動してないの?」
「いや、そんなことないぞ。この海でどんな魚が取れるか楽しみだ。根魚とか釣れるか?」
「そうですね。お父さん、私は鰆やホタテのお刺身が食べたいです」
「うーん、それ旬なのか? 旬ならあると思うけど」
「ホタテは旬だと思いますが、鰆はどうかな……?」
そんな風に未来と朝飯の話をしてると、俺らの反応が気に食わなかったのか、実花がぷくっと頬を膨らませて俺に詰め寄ってくる。
「むぅ、パパ! 未来ちゃん! ちゃんと感動してるの!!」
「し、してるぞ。うん、綺麗だ」
「き、綺麗だとは思います。綺麗だとは……」
「それなら、初めて女性の乳首を見た時とどっちが感動してるの!?」
「そりゃ乳首だろ」
即答だった。
「同感です。お父さんは何も間違ってないよ」
「パパぁー。わー、そーなんだー。さすが私たちのパパだなぁー。私もそう思うけどさぁー。即答はやめようよ即答は」
なぜかドヤ顔の未来さんと、ドン引きの実花さんだ。おかしい……実花はどちらかというとこちら側のポジションだろ?
こいつは海に幻想を抱きすぎなのではないか?
ありえる。実花はいつものトチ狂った言動とは裏腹に意外とロマンチストだからな。
「あー、もうっ。のぞみんはそんなことないよね!」
「……乳首と海がどちらが美しいかで、乳首と即答できる人は稀ではないかしら……」
はぁ、こいつらは何もわかっちゃいない。女に飢えている男に聞いてみろ。10人中10人が乳首って答えるぞ。
だが……ここでそんなこと言うと反感しか買わないので言わないけど。
ふっ、真の社畜とは空気を読むことに特化してるからな。残業代が給料に入ってなくても何も言わないからな。
「あーあ、もう少し暑ければ海で泳ぐのになぁ……」
「そうね。それも悪くないわね……ええ、悪くないわ」
「お嬢様、では夏休みはそちらを計画致しましょう」
「わあああ! それいいねっ! 行こうよ! 行こうよ!」
そんなことを実花、如月とフレアさんは仲良くそんなことを話している。
仲がいいのはいいことだが……。
「う、海で泳ぐだと……」
「お、お父さん、あの人たちは何を言ってるのでしょうか……? 日本語かな……?」
「? 義孝様、未来様、どうかいたしましたか?」
「なに動揺してるの? 海で泳ぐことが問題なのかしら……?」
不思議そうに首をかしげるフレアさんと如月。
やはり海の怖さをこの場で説明するしかないようだ。
と、考えていると……唯一の仲間である未来が静かに口を開く。
「えっ? ……海で泳ぐって鮫に襲われたらどうするんですか?」
そんなことを言う。さすが我が娘。いい着眼点だ。
こいつらは自然の恐ろしさをわかってない。
「そうだぞ。海には鮫だけじゃない。クラゲやカニや足元には貝殻のトラップもある。そんな危険な場所で泳ぐなんてありえないだろ」
「さすがお父さんわかっていますね。海水もべたべたしますし」
「そうだな。漁師以外の人間が海に入るのは、骨になった時だけだで充分だ」
「さすがお父さん。その観点は素晴らしいです」
俺と未来はお互いの意見に頷きあう。
なんか強い絆が生まれたような気がした……。
まあ、だが……人間とは生まれながらわかりあえない人間がいるものだ。
「み、実花さん。フレア。この2人は何を言ってるのかしら? 宇宙人と交信をしてる気分なのだけど」
そ、そんなに常識はずれなことは言った覚えないんだが……。
「私程度の人間には義孝様と未来様の深淵なる考えには遠く及びません……くっ、自身の未熟さが悔やまれます」
「あー、未来ちゃんの海嫌いは病気だから~。でもパパもだなんて……似た者同士だなぁー」
まあ、美奈も海は嫌いだっただろうな……。あいつ基本引きこもり体質だし。
「はぁ、もういいからご飯食べに行こうよ……私だけ仲間外れは嫌だなぁー」
「いえ、実花さん。そんなに落ち込まなくていいと思うわよ?」
「はぁ……王者である義孝様の意見に賛同できないとは……私も修業が足りませんね」
がっくりしながらトボトボ歩き出す実花と如月とフレアさん。な、なんか哀愁漂う……。
俺と実花は無表情でお互いに顔を見合わせる。
「…………」
「…………」
少数派は常に淘汰される宿命だと知っているが……なんか悲しい気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます