第174話 プールへ!(5)
俺たち川島親子はいかついワゴン車に乗せられて、プールに向かっていた。
フレアさんの安定した運転で高速を走り、地方都市にあるプール付きのホテルに向かっているのだが……。
「…………」
見た目の大きさに比例して車内は広く、座席は3列で、横幅も3人横に座ってもかなりのゆとりがある。
フレアさんが運転席、如月が助手席、そして2列目には右から未来、俺、実花が乗っており、そして3列目には……。
「ふ、フレアさん、後ろの席にあるアタッシュケースって何ですか……?」
俺はちらっと後ろの席に視線を送る。
銀の光沢を放った絆ちゃんが入りそうなぐらいの、大型のアタッシュケースが4つ置かれている。
ぶっちゃけた話、後ろの荷物と迷彩柄の車と運転しているフレアさんの雰囲気から、プールなど楽しげなところに向かっているとは思えない。
……東京湾や、誰もいない山奥とかに連れていかれるんじゃないか?
「義孝様、安心してください。そちらはお嬢様の荷物です。武器は『今回』は積んでおりません。今回は。お嬢様に止められましたので……」
すごく残念そうにいうフレアさん。
……大人のジョークのつもりなのかもしれないが、元軍人のフレアさんが言うとマジで超リアル。
いや……そう疑うのはよくないか。俺はバックミラー越しに雇い主様である如月様を見ると――。
「…………」
「…………」
「……それで、未来さん、朝ご飯は何処で食べるか決めたのかしら?」
「えっ? 行きがけに港の海鮮を頂くんですよね……?」
「そうだったわね……ふぅ」
露骨に俺から視線をそらして未来に話を振る如月。まあ、触れてほしくないのならそれでいいんだけど。
完璧超人の如月だが、フレアさんは護衛プラス如月の教育係も兼任してるらしく、頭が上がらないみたいだし……。
如月も苦労してるんだなぁ……。
「貴方、何か言いたいことでもあるのかしら……?
「いや……?」
俺は元社畜だからな。踏み込んではいけない会社の闇というのを熟知してるからな。こういうのは知らないふりをした方がいい。
まあ、如月の性格からして法に触れるようなことはしてないだろう。たぶん。
「じぃー……」
「ん? 実花どうしたんだ? 俺の顔はそんなにイケメンか?」
「それはもちろん! パパは千利休よりもイケメンだよ!!」
…………それは褒められてるのか? 千利休ってイケメンの逸話あったけ?
「それよりもパパとのぞみんって仲いいの?」
キョトンした表情で聞いてくる実花。それと同時に俺の腕をギュッと掴む未来。
「お、お父さん、そんなことないですよね……?」
さっきまではプールにわくわくしていた未来の顔が絶望に染まっていく……どれだけ俺のこと大好きなんだよ……まあ、父親として嬉しくもあるが……。
「おいおい、何を根拠に言ってるんだ? そういう先入観が週刊誌のでっちあげの記事を世間に広めるんだぞ……?」
なんか娘たちにそうも思われるのがいけない気がして咄嗟に訳の分からない言い訳をしてしまう……。いや、言い訳じゃないな。やましいことはない。
確かに最近よく喋るけど……未来が危惧してることは何もないんだが……。
だが、俺の想いとは裏腹に実花は何故か悪戯っぽい笑みを浮かべる。こいつ……如月をからかえる機会なんて滅多にないからって楽しんでるな……。
「…………」
如月はなんか居づらそうにしてるし。あれは照れてるのか……? 若干不機嫌そうにも見えるんだが……。
「いや、だって、なんか話してくる感じも仲良さそうだし、それに今もアイコンタクトしてたし」
(……お前よく見てるな)
……はぁ、頼むから、ことを大きくしないでくれ……。ここ車内で逃げ場ないんだから。
「くすっ、だけど、なんでのぞみんはパパの前だと『義孝さん』って呼ばないの?」
「…………!!」
「ん? ああ……そう言えば如月に名前を呼ばれたことってなかったな……」
いつも貴方とかだし。ああ……如月はそっぽを向いてしまう。その表情はわからないが……不機嫌そうなオーラが伝わってくる。
「ふふっ、実花様、そのぐらいでご容赦を」
「……フレア、貴方も楽しそうね……?」
「いえいえ、滅相もございませんよ。ふふっ」
いや、あれは楽しんでるだろ……というか喜んでる感じか?
まあ、こっちとしては事態が収まってくれそうで、助かったのか……。
この歳で、この手の話題でからかわれるのは勘弁してもらいたい……。
そして、あと1つ問題がある……。
「お父さんの……馬鹿……」
ぎゅ……。
俺の腕を掴みながら、泣きそうな顔をしてる娘をどうやってあやそうか……。
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