第173話 プールへ!(4)

 時が過ぎるのは早いものだ――。

 そしてーーその感覚は歳を取るごとに大きくなるものだ。


 俺の感覚ではついこないだは正月だった記憶があるのだが……もう4月が終わるとか俺からしたら軽いホラーだ。


 まあ、なんにせよ…………。


 ゴールデンウィークだあああああああああ!!


 えっ? 去年ゴールデンウィークどころか、イエローウィーク? すら来てなかったのにマジか!!!!


 8連休ってマジ!? えっ? 4、5月に謹慎や入院以外で8連休なんかできるの? どんな魔法ですか!?


 いやぁ、素晴らしい。去年の半年間休みなしという地獄の強行軍が懐かしい。


 よし。寝よう! 3日は起きずに動物の本能のままに冬眠しよう――。


「パパ~~! ここで待ってればのぞみんが向えに来てくれるって!」


「お父さん楽しみですね」


 そう思っていた時期が僕にもありました。はい、いつもの流れですね。はい。

 俺と娘たちは家の前で如月の向えを待っている。フレアさんが車で向えに来てくれるらしい。


 ……ちなみに今は朝4時。


 いや、朝じゃねぇ。空まだ暗いし。ふざけんな。

 なんでどいつもこいつも早朝から俺のことを家から引っ張り出すの? 集合時間が4時とか5時とかそんなんばっか……。


「はぁぁ、さすがに早い……こんな時間に家出るとか、人気ソープ嬢のさやかちゃんの予約をした時以来だよ……」



「えっ? お父さん、ソープってそんなに早くないと予約取れないんですか?」


「ああ、6時予約だと、そのぐらいに家をでないと目が冷めん。4時に出て1時間ゆっくり散歩して、公園にいるじいちゃん、ばあちゃんと雑談をしてソープに向かうんだ」


 そして、ソープ言った後に24時間居酒屋行って飲むビールが最高に美味い。


「そもそもそんなに早くいかなければいいのにぃ……」


「馬鹿、人気嬢は朝しか予約が取れないんだよ。それに朝は早朝割というものがあるからな。流石の俺も喜んで早く起きる」


「あ、あはは……あお、その労力を他の所に向ければいいのに……っと、思ったけど、気合を入れないでソープに行かないパパはパパじゃないね」


「そうですね。今度早く家を出る時は教えてください。私が起こしてあげますから……」


 うむ。理解のある娘に恵まれて幸せだ。

 というか……何で俺だけ早朝に起きたことに苦しんでるんだ……?

 若さの違いとは言え……不公平だ。


 特に実花は寝起きめっちゃ悪いのに。


「ん? どうしたのパパ? 私のこと見つめちゃって。くすっ? 惚れちゃった?」


「あっ……私のことも見つめてほしいな……」


「だーめ、今は私のターンぽいんだから」


 小悪魔っぽくクスクスと笑う実花。こういうところは美奈にそっくりだよな……。


「お前、朝とか苦手じゃなかったけ?」


「ああ、そのこと。私、イベントごとの時だけは目覚めがすごくいいから」


「…………」


 ただの子供だった……。


 そんなことを話していると――。


「な、なんだあの車は……」


「た、確かにすごい車ですね……」


「わあああ、かっこいいい!!」


(えっ? あ、あれかっこいいの……?)


 目の前から、かなりいかつい車が走ってくる。

 迷彩柄の施されたワゴン車でタイヤがデカく、アマゾンの秘境に冒険に出るようなサバイバル感が出ている。


 その車が俺たちの真横に止まる。

 窓ガラスはスモークガラスで、すぐにでも筋骨隆々の外国人軍人が出てきてもおかしくない。

 

 そんな車の窓が開いていき……。


「ごきげんよう……ごめんなさい。遅くなったわ」


「やっほーのぞみん!」


 可愛らしく着飾った如月が顔をのぞかせた……。

 おい、この車で行くのか……?


 えっ? 実花のやつはなんで普通のリアクションなの?

 俺はすっと未来の方を見ると――


「き、如月さん、おはようございます……」


 いつもの無表情ながら、微妙に表情が引きつっている感じがする。

 どうやら、俺の美的センスが間違っているのではないようだ……。

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