第171話 プールへ!(2)
「はい。ほら、髪整ったわよ」
「あ、ああ……ありがとう」
「わたくしに髪をとかしてもらったことを光栄に思いなさいな。将来の旦那様だからしてあげたのだから」
そっぽを向いて偉そうに言う如月。
なんか照れてるのか、自慢げなのかわからない反応だな……。
……どちらにしろ、普段優雅で余裕がある如月に余裕がない……こうなると、からかいたくなってくる……。
うむ。如月相手にマウントを取れる機会なんてそうはないからな。
「ん? お前照れてるのか? 男の髪をとかして照れてるのか? 今度はネクタイの位置でも調整してみるか? ううん?」
「……あ、貴方大人げないわね。少しは大人になりなさいな」
「大人になって大人げないって言われるのは最高の誉め言葉だからな。人生を楽しんでいる証拠だ」
「はぁ、今回は許してあげるから、そういう子供じみた言い分はやめなさいな」
「はーい」
……もうどっちが大人だかかわからない。
まあ、そろそろ悪ふざけはやめるか。早く仕事の続きをやらなくちゃいけないしな……。
あー現実に戻りたくない。
「それで? なんか用か?」
「貴方にゴールデンウィークに行くプールの件で話があったのよ。実花さんと未来さんにも後で聞くわ」
「ああ、その件か」
如月はプールに行く日程が決まってから、如月は何かと理由を付けて俺に会いに来る。
前はホテルの設備について。その前は移動手段について。その前はその日の昼食について。その日の夕食について。などなど……。
まあ、そんな感じで、如月の温度感はかなり高い。最初は日帰りの予定だったが……いつの間にか1泊の予定になってたぐらいだ。
まあ、本心で言えばゴールデンウィークは寝たいが……たまにはいいだろう。
むしろ、気の知れた仲の連中と泊りがけでプールなど初めてなので、面白そうではある。
「前もちょろっと言ったけど、お前と娘たちで決めていいぞ?」
「いえ、この件はそうもいかないのよ。貴方、ホテルに呼ぶ女性はどんな人がいいのかしら?」
如月は真剣に悩んだ様子でそんなことを言う。冗談を言ってる感じは一切ない……。
「…………はい?」
ん~。俺普通にあったかい気持ちなっていたのだが……。目の前のJKから信じられない言葉が飛び出してきて、マジで目が点になる。
(何? デリヘル呼ぶの?)
いや、でも待て、こいつは俺に婚約を迫ってきながら「愛人を作れ」とか言う女だぞ。上流階級の人間は俺たちパンピーの尺度では測れない遥か高みにいるのだ。
俺の常識など通じない。それならば欲望をさらけ出し、おいしい想いをした方が得なのではないだろうか……。
「ああ、20代中盤の元スチュワーデスの巨乳美人を頼む。ああ、90分以上は予算的に厳しいからそれ以下で。それにサービスは――」
「待ちなさい。貴方は何を言ってるのかしら?」
「えっ? だから、好み……というか願望のデリヘル嬢」
「…………わたくしが言っているのはプールに行く時につけるメイドの好みなのだけど。性的サービスは提供していなわ」
普通に困惑した表情だ。「なに? このオヤジそんなの望んでるの?」みたいな感じだ。
「…………」
待て。これは俺だけが悪いわけではないだろう。紛らわしすぎる……。
冷静に考えたら、JKにする話ではないのは理解できるが……だって、もとはといえばこいつが言い始めたこと……という言い訳は通るだろうか……。
そんな往生際の悪いことを考えているが……如月と隣居るフレアさんは何かを納得するように神妙に頷く。
「お嬢様、すぐに手配を致します。お任せください。義孝様の願い必ずや叶えてごらんにいれます」
「そうね……支配者は色を好むというわ。性行為を考えに入れていなかったのはわたくしのミスだわ。ええ、フレア、とびっきりの元スチュワーデスを用意しなさいな」
「はい。お嬢様――」
「ま、待て待て待て!!! お前らどこまで本気なんだよ!!」
「……ん? 冗談を言ってるつもりは微塵もないのだけど」
如月はキョトンとした表情で俺のことを見つけめてくる。
……ふぅ、認めよう己の罪を……。
俺はこの後、朝早く来た時間の貯金を使い、如月の誤解を解いたのだった……。
自分で言うのもなんだが……俺、頑張った……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます