第92話 夢見るバレンタイン(2)

 いきなりの告白を受けた俺は当然のごとく思考が鈍るのを感じる……。

 この子は本気だろうか……?


 そんなことを考えながら当の本人の夢野さんを見てみる。


「そ、その……あ、あの」


 わたわたしていた。その姿はまるで小動物のように可愛らしく、さらにその暴力的な胸やお酒のせいか……妙に色っぽい。


 こんな美女に告白されたんだ。嬉しくないといえば嘘になる。というか、めっちゃ嬉しい。


「……お父さん」


「…………」


 だが、喜んでばかりもいられないのも事実である。

 だって俺の隣に立っている愛娘が突き刺さる視線を送ってくるし。正直、世界が世界なら視線だけで人を殺せるレベルです。


「お父さんは不潔です……何を娘の前で見せつけようとしてるんですか?」


「い、いや、それに関しては俺は悪くない気がするんだが……」


「悪くないというなら、私と今すぐ交わりましょう……駅前のホテル予約しますね」


「待て!!! これ以上事態をややこしくするな!」


 無表情でスマホを取り出すバカ娘を止める。未来は軽く舌打ちをすると、素直にスマホをしまった。


 たくっ、可愛くいじけてるんじゃねぇよ。


「あ、あの……やっぱりご迷惑ですよね」


 その時、今まで俺と未来のやりとりをおろおろとしながら見ていた夢野さんが口を開く。


「い、いや迷惑じゃないんだけど、突然のことでびっくりしたというか」


「お父さん……迷惑じゃないんだ……ふーん、娘とはエッチしないくせに。それとも娘の前で告白されシチュエーションに興奮してるんですか?」


 ……どこから突っ込んだらいいのかわからない。だけど……1つだけ言わせて頂きたい。

 それはーー。


「夢野さんレベルの美女に告白されて迷惑って言うリア充は俺がぶっとばしてやる。どんな贅沢な野郎だよ。クソが」


 俺が吐き捨てるように未来に言うと、未来はさっきまでのさげすむような視線とは一転、今度は憧れているような視線を向けてくる。


「さすがお父さん……リア充への憎悪が半端ないですね。その地獄のふちから湧き出てきてるような感情が……お父さんの本質だよ」


「…………」


 お前の中で俺はどんな位置付けになってるのか非常に興味がある。

 だが……今はそれより夢野さんだ。


「……告白」


 あ、あれ? 夢野さんなんかキョトンとしてるんだけど……どうしたんだ?


 そしてーーやがて我にかえったのかみるみるうちに顔が赤くなっていく。


「えっ! こ、告白! ち、違います!」


「えっ、違うんですか?」


 まあそりゃそうか。夢野さんみたいな美人で性格も優しくておまけに巨乳のハイスペック美女が俺みたいなおっさんになびくわけないか。


「え、えっと、そ、その……」


 夢野さんはそんなことを考えて納得していた俺を見ると、なぜか夢野さんは


「い、いえ、か、川島さん付き合いたくないとかではなくて……い、いえ、そうではなくて、む、むしろ川島さんはとても素敵な男性でその……」


「わっ、そ、そんな慌ててフォローしなくてもいいですから」


 逆に悲しくなってくる。


「で、でも……」


「夢野さんに告白されたと思って舞い上がっただけだから」


「えっ……その、舞い上がったんですか?」


「……えっ?」


 またしてもキョトンとした表情で聞いてくる。

 あ、あれ軽い気持ちで言ったんだけど、気持ち悪かったか?


 俺はなんと答えたらいいものか考えてると、自然と見つめ合う形になる。


 妙な空気が流れる……俺はどういう反応をしたらいいのだろうか?


「おほん……」


 その時、未来がわざとらしく咳払いをした。

 その顔はパッと見は無表情だが、さっきにも増して不機嫌そうだ。


 話を進めよう……そうしよう。


「それでどういうことーー」


『あああああ! ゆめゆめこんなところにいた! いきなりいなくなったから心配しちゃったよ!』


 何かを喋ろうとすると、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。


 振り向くとそこにはーー夢野さんと同じようにコンビニの買い物袋を下げた葵ちゃんがいた。


 そっか……一緒に飲むとかいってたな。もしかしてアヤメや我が娘もいるのか……?


「先輩いいい! ゆめゆめの彼氏になってください!」


「…………」


 だからそれはなんなんだよ……それ流行ってんの?

 まあ、帰り道で聞けばいいか、目的地は同じマンションなんだし。

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