第66話 外伝『アーリーデイズ』(4)

   ◇◇◇



 まずは言い訳をさせてくれ。

 俺も青春を謳歌する高校生なんだ! 俺だって可愛い子とイチャイチャしたい! 女の子と遊びたい! リア充になりたい!


 しかし、現実は残酷なもので求めて得られるなら誰も苦労しない。だからこそ多少……その非合法というか……裏技というか……抜け道とかを使うのは仕方ないだろう……。


「わあああ、ここがキミの家なんだぁ。くすっ、男の子の家って初めて入っちゃった。なんかドキドキするなぁ」


 嬉しそうに俺の部屋をキョロキョロ見渡す美少女。俺も女の子を家に入れるの初めてだよ……。


「…………」


 さっき会ったばかり人間だし、自分でも非常に不用心なのはわかっている。だけど……やめよう。

 もう1人暮らしの連れ込んだ時点で何を言っても言い訳だ……だが、それでも一言だけ言わせてくれ――。


 男はロマンのためなら魂を売れる!!!!


「ねぇねぇ。キミはここで1人暮らししてるの?」


 俺は美少女を自分が住むアパートへ連れてきた。

 築10数年のアパートで、6畳の狭い物件なので……可愛い子といるとそれだけで緊張してしまう……。


「ああ、まあな……俺の実家遠いところにあるから、家賃の安いアパートを必死に探したんだ」


 まあ、高校生の1人暮らしなので、いろいろ手続きは面倒だったけどな。はぁ、ここに住んで3年目……何度美少女を連れ込むことを妄想したか……まさかそれがこんな形で実現するなんてな。


 やめよう……連れ込んでしまった以上ごちゃごちゃ考えても仕方がない。


「はぁ、この荷物ここに置いとくからな」


 俺は美少女から預かっていた手引きタイプの旅行鞄を部屋の隅に置いた。これは美少女が駅のコインロッカーに預けていたもので、俺がここまで持ってきた。


「くすっ、ありがとう。助かっちゃった。ふふっ、男の子って力持ちだね。私これガラガラと引いて歩くとすぐに疲れちゃうのに」


「まあ、バイトも力仕事をしてたし、体力には自信があるんだ」


「くすっ、体力自信あるんだ……それはそれは……ふふっ、私も頑張らないとね」


 妖艶に笑う美少女……やめい、変な想像をしてしまうじゃないか……くっ、この会話は童貞には荷が重い。今の状況に頭が追い付いてないのに……。


 話題をそらしてしまおう……気になることもあるしな。


「この鞄やたら重かったけど……もしかして家出とかしてるのか……」


 明らかにちょっと出かけてくる……という荷物量じゃない。1週間旅行すると言われても疑問を持たないぐらいだ……。


 家出だといろいろ面倒だなぁ……とか考えていると、美少女はにこりと悪戯っぽい笑顔を見せる。なんだろう……すごく嫌な予感がする。


「うん! よくわかったね。これから、夏休みが終わるまでよろしくねっ」


「はぁ……泊まるのかよ。いいんだけどな……」


 もう連れ込んでしまっているし……今更だ……泊めるつもりがないなら最初から鋼の意思で断ってる。


 ……という言い訳を道中、心の中で死ぬほどしたからな。


「あれ? 意外だね……キミってチキンっぽいから見苦しくわめき散らすと思ったんだけど……あーあ、つまんなーい」


「クソ自分勝手な意見だな! いいか、変なことしたらどんな状況でも速攻で追い出すからなっ!」


「りょーかい。くすっ、でも変なことってえっちなこともだめ?」


「それは許可する。どんどんセクハラしてくれ」


「わああああ、私身の危険を感じるなぁ」


「てめぇ理不尽過ぎるだろ! はぁ……いいけど、そんなに贅沢はさせられないからな。あんま金はないし」


 実家から仕送りを受けてる身分だが、それは家賃や光熱費とかだけだ。なのでバイトをして食費等を稼いでいるから、そこまで金銭的余裕はない。


 まあ、風俗に行かなかったから数万浮いたけどな。しばらく2人分の食費ぐらいは何とかなるだろう。


「ああっ! それなら大丈夫! ちょっと待ってて」


 そんな俺の心配をよそに美少女は機嫌よさそうに自分の鞄に近づきゴソゴソとあさり始めた……あっ、い、今、白のブラジャーが見えた……。


 で、でけぇ……巨乳なんだなぁ……。


「はい。これっ」


「あ、あう?」


 美少女は厚みのある茶封筒を差し出してきた。

 ブラジャーに目が釘付けになっていたので変な声が出てしまった……いや、仕方ない……童貞には刺激が強い……。


「はいはい。ブラジャーなら後で好きなだけ見せてあげるから」


「えっ!? マジで!? いいの!?」


「……かつてないほどの食いつきだね……ちょっと美奈さんドン引きです」


「だからこのパターンの罠やめろや! てめぇが言い出したことだろうが!」


 この世は理不尽で満ちている……。


「いいからこれ、まだいっぱいあるからなくなったら言ってねっ」


「なんだよ……これは」


 俺はげんなりしながら、封筒を受け取り、軽い気持ちで封筒の中を覗き込んだ。そして――。


 ゆきちくんたちがいっぱいいた。


「は、はあ!?!?!?!?!?!?!? ど、どうしたんだよこの大金は!?」


 どう見ても100人以上は諭吉さんがいた。


「? 何をそんなに驚いてるの? お金は必要でしょ?」


 小首をかしげながら、不思議がっている美少女。その顔には馬鹿にしてる様子や、だましてる感じがない……本気で俺の反応を不思議がっている感じだ。


「あっ! なんならこのお金で風俗行っちゃう? 私も後ろで見学できるかなぁ」


「…………」


 馬鹿なことを言っている美少女が遠い存在に思えた。

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