外伝『アーリーデイズ』

第63話 外伝『アーリーデイズ』(1)

 季節は巡る。

 年が明け、2月に差し掛かろうとしていた。


 俺がいきなりJKの父親になったのはもう半年も前の話だ……。

 その間いろいろあったな……娘たちと遊びに出かけたり、転職して社畜から脱却したり、音無さんや三沢などの人間関係も増えたり、実花が家出したりもしたな……。


 今思うと感慨深いものがある。


「…………」


 だが人間は過去ばかり見ていては前に進めない生き物だ。過去は明日への布石であり前進だ。だからこそ俺は優雅な明日の休日のことを考えていた。


「…………明日は明美ちゃんするかな」


 風俗サイトをスマホで開き、実花が作る夕飯を待ちながら、家のコタツにゴロゴロしていた。いや……ちゃんと明日を見据えている。

 風俗は誰を予約するかが極めて重要だ。高い金を払ってるんだから……せっかくなら好みの子とあたりたいと思うのは男として当然だ。


「ええー。パパ、明日はほむらちゃんのがいいんじゃない? おっぱい大きい方がいいでしょ? せっかくの風俗なんだからダイナミックの方がいいよ! いろんな意味で……」


「確かに……お前の言うことも一理ある」


 そう。明日は久しぶりの風俗だ。いや……行こうとしたことは何度もあるんだけど……こいつらの親になってから、なぜか毎回行けないんだよな……正月に行こうとした時も偶々夢野さんと会って、行きそびれたし……。


「私はお父さんには右上に映っている心さんがいいと思います……お淑やかそうなので、癒しのサービスを提供してくると思うよ」


 その時、台所で夕食の準備をしていた未来が、相変わらずの無表情で鍋をもって現れる。


 うむ……今日はおでんか……うまそうだな。

 俺、学食の店長やってるのに料理の腕はさっぱり上がらないからな~。

 家でやろうとすると未来が不機嫌になるし……自分の仕事がとられるのが嫌なのか?


『ピーポーン』


 その時、家のチャイムが鳴る。

 うん? 誰だ……? 誰とも約束はしてないはずだけど……。


「お前ら誰か呼んだのか?」


「うーん、私は違うよ~未来ちゃんは?」


「私も違います。セールスか何かかな……?」


 そういえば最近しつこいセールスが流行ってるとか三沢が言ってたな。たくっ、うちみたいなオンボロハウスに来るとか、切羽詰まってのかな……。


『ピンポーン。ピンポーン。ピピピピ!』


 まさかの連打!? 

 はぁ、仕方ねぇな……とにかく出て嫌味の一つでも行ってやろう。


『おにいちゃん! 早く出てよ! いるのわかってるんだから!』


 ん? ……お兄ちゃん? な、なんだ今のセールスは妹プレーまでしてくれんのか? そこいらのデリヘルよりもクオリティがたけぇじゃねぇか。


 というか……かん高くて、アニメのような可愛らしい声だな……。


「パパ、デリヘル呼んだんなら先に行ってよーぶぅー」


「そうですね。私たちがいない時間に呼んでくだ――はっ、これはもしかして4人で楽しもうというお父さんの考えですか?」


 さすが我が娘たち。いきなり妹を名乗る人物が押しかけても、いい感じで理解してくれてる。

 未来、お前は頬を赤らめるんじゃねぇ。


「ちげぇよ! 俺には全く心当たりが――」


『あたしだよ! 『アヤメ』だよ! 『アヤメ・グレイブハート』だよ! あなたの可愛い妹でござる!』


「はっ……? アヤメ・グレイブハートって……あのアヤメか!?」


 懐かしい名前を聞いて思わず叫んでしまった……。すると扉の前の人物は嬉しそうな声を上げる。


『あっ! お兄ちゃんの声だ! えへへ、懐かしいなぁ。早く開けてくれないと扉をぶっ壊すよ?』


「くっ、今開けるから待ってろ!」


「えっ? パパ開けるの? まっ、面白そうだからいいか」


「お姉ちゃん適当なことを言わないで。しつこいデリヘルなら無視したらどうですか?」


「いや……、正直無視したいの山々なんだけど……『あの時』と変わってなければ……あいつは扉を壊すと言ったら本当に壊す女だ。放っておく方がやっかいだ」


「ず、随分とアグレッシブな人ですね……ん? アヤメ? アヤメってまさか――」


「そうだよ! 『ママ』が言ってたアヤメちゃんだよ!」


 未来は不思議そうに首をかしげ、実花は嬉しそうにほほ笑む。


 ああ、未来も名前に聞き覚えがあるのか。そうだよな……その辺の話は『美奈』に聞いてるのかもな。

 おっと、ドアを壊される前に開けるか。


 ガチャ。


「やっと開けてくれたね。あと少しで美奈ちゃん直伝の回し蹴りで、無駄な破壊をするところだったでござる」


 扉を開けると20代前半の白人金髪美女が目の前に現れた。

 瞳の色は翡翠色で170センチぐらいの身長に、ボンキュッボンとした男を魅了するスタイル……。

 会うのは実に約16年ぶりだ……あの時は可愛いらしい感じだったが……ここまでの美女になっているとは……。


「まさか、お前がここに来るなんてな……」


「くすっ、お兄ちゃん、16年もここに住んでるなんてすごいよね。おかげで探偵を雇うお金が浮いたでござる」


「探偵って……はっ、相変わらずお前は変わらないな。行動力があり過ぎだ……」


 16年振りの再会で少し泣きそうになる……それほど懐かしい。美奈とも会わせてやりたかったな……。


「お兄ちゃん。久しぶり! あなたの可愛い妹が会いにきたでござるよ」


 それは美奈と俺が初めて会った時にひょんなことから面倒を見た、少女の成長した姿だった。

 そう……それは16年振りの再会だ。

 16年前……そこから全てが始まったのかもしれない……。


 これは俺が人生で決して忘れられない――美奈との出会いの物語だ――。

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