第60話 竜胆美奈の願い(4)
「美奈の遺言……?」
「そうじゃ、お主に渡すように頼まれておった……お主に渡すのが遅くなった。すまぬのぅ」
爺さんは申し訳なさそうに再び頭を下げる。
正直事情が分からないので……困惑することしかできないが……何となくそれが本心のような気がした……。
「いや、頭を上げてくれ。未来……お前は遺言のこと知っていたのか?」
「遺言の手紙については知っていました。だけど……中は知りません。それはお母さんがお父さんへ向けて書いた手紙ですから……」
「そうか……なら1人で読ませてくれ」
俺の言葉に全員が頷く。
「…………っ」
俺は気が付いたら手が震えていた。
これは俺がアル中な訳ではなく……手紙を見るのが怖いような……楽しみなような、いろいろ感情が渦巻いていて性質が悪からだ。
だけど……見ない訳にはいかない……。
封書を開封して、5枚の便箋が出てきた。
俺は意を決して綺麗に折りたたまれていた便箋に目を通す――。
『ごめん!!!!!!! 1回しかやらせてあげられなくて!!!!!!』
「……………」
1枚目の便箋にでかでかと書かれていた、やたらと綺麗な文字に絶句した――。
あまりのショックに頭がおかしくなり、便箋を落としてしまい……それは三沢と葵ちゃんの足元にひらひらと落ちる。
「…………うわぁ。中々独創的な人ですね。さすが先輩の奥さん……」
「あはははっ、面白いやつだ。会って見たかったな」
葵ちゃんはドン引き、三沢は面白がっていた。未来と爺さんは納得したように頷いているし……はぁ。いいなぁ、俺もそっちのポジションで楽しみたい……だって、十数年ぶりの言葉がこれだぞ?
さすが美奈だ。前会った時から何も変わっちゃいねぇ。
「いかん……他の手紙はまともかもしれねぇからな。というか遺言なんだから、もっとまじめな話だろう……うん、そうに違いない」
俺は落とした便箋を拾い、希望を望むような心境で次の手紙を見た。
2枚目
『だから、娘とやりまくっていいから!!!! なんなら美少女なら他の人も混ぜていいから!!!』
「…………」
3枚目
『あっ! 娘たちは義孝君のこと大好きだからっ! 喜んで裸になると思うよ!』
「…………」
4枚目
『あっ、そうそう。だからお父様には絶対に娘たちの戸籍を変更しないようにお願いしてあるからっ! これで結婚できるねっ! ブイ!』
「うあああああああああああああああああああああああああああ!」
なんだこの手紙は! とてもじゃねぇが遺言じゃねぇ!
ちょっと感動する準備をしていた俺の純粋な気持ちを返せ!
というか、爺さんが戸籍を変更してくれなかったのはお前のせいか!
「せ、先輩いきなりどうしました!」
「テンチョー、精神をやられてるな……葵、今はそっとしておいてやれ」
うっせえよ! 第三者に俺の気持ちがわかってたまるか!
はぁ……どうせ残りの手紙もこんな感じだよな……俺はうんざりした気持ちで……最後の5枚目の便箋を見る。
『娘たちをお願い……こんなことを言える立場じゃないのはわかっている。でも――娘たちをよろしくお願いします。あと……これも今更言えたことではないけど、私は――あなたを愛してる』
「…………」
「? お父さん? なんて書いてあったんですか? いきなり固まりましたけど……?」
「いや……なんでもねぇよ」
相変わらずふざけたやつだ……昔から何も変わっちゃいねぇ……でも、だからこそ……生きているうちに会いたかった……。
切にそう思った……。
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