第53話 家族(2)

 実花を追いかけることを心に決め、慌ててスマホで交通手段を調べる。しかし、しばらく様々なサイトを見ても有効な手段はなかった。

 そして時刻は夕方に差し掛かり、正直お手上だ……。

 

「はぁ、やっぱり新幹線とかはまったく動いていないな……」


 実花が向かった場所がわかり、俺も向かいたいのだが……肝心の足がない。大型台風の影響で新幹線も駄目。電車も駄目。高速も一部通行禁止……というか未来のやつはどうやって矢来市まで行くつもりなんだ?


 あいつ……当然電話しても出ないし……だめだ。いい案が思いつかない。


「なあ、未来。なにかいい手段ないか?」


 同じくサイトで交通手段を調べてくれている未来に聞いてみるが……結果は俺と同じらしく、浮かない顔でゆっくりと横に首をふる。


「だめですね……少なくとも明日の朝までは電車と新幹線は動くことはなさそうですね……明日でも目的地の天候次第では……難しいかも」


「そうか……」


 本格的に詰んでるな……やっぱり警察に連絡するべきか……。

 実花の身に何かあるのが最悪だしな……。


「そうだ。もしかして……あの人なら……」


 そう考えていると……音無さんが思いついたようにどこかに電話をした。

 俺は不思議に思いながらも成り行きを見守った。


   ◇◇◇


 今俺は地獄にいた―――。


 ブンンンンンンンンン!!!!


 俺と未来は音無さんが呼んでくれた『助っ人』の4人乗りの赤の車に乗り込んでいた。


 音無さんと絆ちゃん、夢野さんも実花のことを心配して一緒に来たがったが、さすがに台風の中を連れ出すわけにもいかないので、俺の部屋に残ってもらった。

 好意で申し出てくれたのに少し申し訳ないけどな……。


(でもこれはついてこなくて正解だぞ……!)


 車は法定速度ぎりぎりでドライビングテクニックを駆使して、嵐の中を疾走する。まあ、速度は守ってるわけだから、何も問題はない……だが忘れてはいけない。

 今は台風のど真ん中にいるということを……。


 風が車の窓をがたがたと揺らし、窓からは雷が近くに落ちるのが確認できたりもした。

 割と広い4車線の道路を走っているが……車の通りは極端に少ない。まあ、こんな恐怖ドライブをするもの好きはそうはいないだろう……。


「お、おい今車体が少し浮いたぞ!」


 こ、怖すぎる……うぅ、俺絶叫マシーン系だめなんだって! 


「お、お父さん……私死ぬんですか……ぎゅっと胸をもんでほしいです……」


「おい、真顔で死を悟ってるんじゃねぇ! 俺もちびりそうなぐらい怖いんだ! 『三沢』安全運転で頼むぞ!」


「何言ってるんだよテンチョー! 急ぎなんだろ! あたしに任せとけって! 瞬殺で目的地についてやるぜ!」


 テンションをフルマックスでハンドルを切る『助っ人』の三沢。

 音無さんが連絡してくれて、この台風の中で運転手を引き受けてくれた時は神様か何かかと思ったが……今はこいつがスピード中毒の危険人物にしか見えない。


「いや! ゆっくりでいいって! マジで死ぬからああああああ!」


 俺の絶叫は受け入れられることはなく、車はスピードを下げない。速度はぎりぎりを保ちつつ、目的地に向かい進み続ける。


「それで? テンチョーどうしてこんなことになってるんだ?」


 三沢はこんな状態にも関わらず、平然とした表情で聞いてくる。

 俺は乗り物の酔いになってきた……しかし、こんな天気にも関わらず付き合ってくれている三沢を無下にはできない。

 事情ぐらいは話すべきだろう。

 

「実花が家出した。理由は情けないけどわからん……」


「そうか……まあ、気にすんなテンチョー! あのぐらいの年頃の娘は理由もなく周りを傷つけたくなるもんだ。私もギター片手に暴れまわったもんだぜ」


 そんなことを軽く笑いながら言う三沢。俺を慰めようとして言ってくれてるのはわかるが……お前と一緒にすんなや。


 と、考えてるが――。


「お姉ちゃんは……昔『不良』と言われてました……」


「えっ?」


 まさかの共通点があった……。

 これも初めて聞く実花の話だ……まあ、自分から昔不良だったいうことを嬉しそうに語るのは中年のチョイ悪オヤジだろう。


 未来は俺が興味を示したのがわかったのか……昔の話を語り始めた……。

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