第51話 母への想い(10)
(……私は……ママに何か返せたのかな)
実花はマンションの廊下で絆と由衣の再会を見て、泣きそうな顔をしている明菜と共に、親子の様子を見ていた。
心に新たに表れた『感情』に戸惑いながら……。
ズシャ――――ン!!! ゴロゴロ!! ビュービュー!!! ザアアアアアアア!!!
外は相変わらずの嵐だ。マンションの廊下は外に面しているので、横なぎの風が運んでくる雨が実花の身体を濡らしていく。
雷と風もひどく、周囲に轟音が周囲に響いている。
そんな中――。
『まんまあああ、まんまああああああああああ』
絆ちゃんの泣き声が実花の耳に届いていた。絆は思いっきり母親に抱きつきながら、ただ大きな声で泣く。周りの轟音に負けない泣き声……それを大粒の涙を流しながら答える由衣。
求めていた光景だ。このために実花は今日行動してきた。それなのに今視界に映るものに、どうしようもなく実花の心を揺らいでいた。
ふたりの親子の『きずな』がそこにはあったのだ……。
それは見ていると実花の心に……嬉しさ、喜び、感動、というプラスの感情と……うらやましさ、妬み、自分への怒り、そして――『後悔』というのマイナスの感情を生まれる。
そんな感情がゆっくりゆっくり実花を追い詰めていく
(自分のちっぽけさが嫌になるね……私は……絆ちゃんと由衣ちゃんにもっと仲良くなってほしかった。『私みたいになってはいけない』それを考えていた……だけど、こんな気持ちになるなんて考えてなかった……)
実花は母親が亡くなってから死ぬほど後悔をした。
◇◇◇
『あんたなんて大っ嫌い!! 私はパパと暮らすの!!! それでセックスもいっぱいして楽しく暮らすの!!』
◇◇◇
この言葉が最期の言葉になったことを――。
そして実花はそのことを今までで一番後悔したていた……なぜなら、『親子は分かり合えることができる』と言うことを音無親子が教えてくれたからだ。
昔の実花はあきらめていたのだ……『ママとわかりあえることなどできない』と――でも今は違う――。
どんなにすれ違っても、どんなに喧嘩しても『家族のきずな』は揺るがない。そう思わせる『きずな』を目の当たりにして……家族の力を思い知った。
それは――実花と美奈が持っていなかったものだ……そして美奈が亡くなっている関係上、もう『二度』と手に入れられないものだ……。手遅れなのだ何もかも……。
だからこそ実花は――。
「私……謝らなくちゃ。今からでも……ママに謝らなくちゃ……!!」
「実花ちゃん?」
決意を固め、いきなり叫び始めた実花を明菜が心配そうに見た――だが、実花は次の瞬間走り出した。
「えっ!? どうしたの!?」
背には明菜の驚く声と、追いかけてくる足音を聞いたが……構わず走り続ける。やがて、マンションの外に出て身体が一瞬でびしょぬれになる。
だが――実花はただ走る。走るを辞めない。身体が雨で濡れても、風で身体が揺られても構わず走り続けた。
『母親に謝りたい』それだけを胸に秘めながら……。
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