第29話 新たな職場(3)
身内の恥事件が起きたあと、俺は生名さんに豊川高校の学生食堂に連れてこられた。食堂はまだ改装途中で、工事業者の人間が数にいる。
工事の終了予定が2週間後で本格的に営業が開始されるのは9月の1日だそうだ。アルバイト従業員もその頃までに雇うらしい。
もっとも、夏休みも部活や夏期講習で生徒や教師は食堂を利用するそうなので、本格的にではないが営業8月から営業はする。
まあ、新人店長の研修としては丁度いいだろう。
「でもそれにしても立派な学食だよな……」
「ふふっ、そうですね。最大で800人は入るように設計されているそうです。あと外にはテラス席もありますよ」
(……リッチだな。内装は白が目立つ清潔感があふれる雰囲気で、学食と言うよりは巨大なレストランだな……)
「さて……今日は料理長を紹介しますね」
「あっ、もう料理長は来てるんですね」
「正社員なので、出社して厨房の方で備品の手入れをしています」
「なるほど……正社員は俺と料理長だけですか?」
料理長か……ごついおっさんな気がするな……勝手なイメージだけど。
「はい。あとはアルバイトになります。川島さんには面接も担当してもうことになります。それで午後から面接の予定が10件入っています」
「えっ、じゅ、10件も……?」
「ええ、あまり多すぎても難しいと思い、少なめにしておきました」
笑顔で軽く言ってくれるな……この人ナチュラルに笑顔で無茶ぶりをするタイプだな……。俺面接の経験とかないんですけど……それに従業員の総数って俺と料理長含めて5人だろ? 多いだろ……。
まあ、今はあまりやることないだろうから丁度いいか。俺忙しくないとなんか落ち着かないタイプだし。
ふぅ、社畜ってのは忙しくても暇でも文句を言う。めんどくさい人種だ。
『おお生名じゃねぇか。それが新しい店長か?』
その時、若いコック服を着た女性が厨房から出てきた。
「……」
その姿を見て俺は思考が停止する。見た目は生名さんと同じぐらいの20代中盤。肩までで切り揃えられた髪の毛は青、サイドは刈り上げで、さらには両耳に合わせて10はくだらないピアスをつけている。
そしてコック服を着崩して……具体的に言うと、下二つまでのボタンしかしていない。そのせいで胸の谷間どころか、赤い下着が見えている……実花と夢野さんほどじゃないけど普通にでかい……。
そんなこんなで顔は美人だが、ファッションがすべてを台無ししていた。
「『三沢』……衛生上よくないから、業務中はピアスを外しなさいっていつも言ってるでしょ? それにコック服はきちんと着なさい」
いや、生名さん、そういう問題じゃないような……完全にこの人チンピラでしょ。見た目が……。
根本が神聖な学び舎にいてはいけないファッションセンスだ。
というか、ふたりは仲がよさそうですね……見た目はまったく正反対なんだけど……。
「わーてるって、ガキどもにメシを食わすときはきちんとするよ。あはははっ、ガキには刺激が強いからなっ!」
いや、大人にも刺激は強い。工事のおっちゃんたちチラチラ見てるし。
「はぁ、本当にお願いよ……? 私の出世に響くんだから……」
「それより、早くこいつを紹介しろよ? 新しい店長なんだろ? ん? ん? あはははは!」
ばんばんばんばんばん!
ヤンキーは男らしく俺の肩をバンバン叩く。
うむ。普通に痛い。
はぁ、これは予想外すぎるだろ……まだいかついおっさんが出てきた方がよかった。
「もうっ……川島さん、すみません。この人は三沢麻依(みさわまい)。私の同期で、ここの料理長をする予定です。こう見えても仕事を真面目にやります」
「よろしくなっ!」
にかっと笑みを浮かべる三沢さん。ん? 見た目ははっちゃけてるけど……とっつきやすい性格っぽいな……はぁ、驚いた。
こんな見た目だから懐からバタフライナイフが飛び出してくるかと思った……。
「こちらこそ、よろしく、三沢さん?」
「なんだよ肩くっるしいな。ブラ外した方がいいか?」
「馬鹿じゃねぇの? 頭おかしいんじゃねぇの? 病院行くか?」
あっ、しまった……いきなり実花と同じようなことを言うから、同じような反応をしてしまった。
バタフライナイフ出てくるか……?
「ああははははははは。そうそう。そんな感じでいいんだよ。あたしははっきり言われる方が好みなんだ」
ドMなの?
しかし……なぜか好印象のようだ。なんだ実花と同じただの馬鹿か。なら同じように扱ってもいいだろう。
人は見た目じゃないしな……ビビってた俺が言うことでもないけど。
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