第23話 家族で遊園地(5)
絶叫マシーンから降りて数分後。
俺はかつてないほどのグロッキー状態だった。ここまで吐きそうなのはウイスキーのボトルをひとりで開けた時以来だ……。
俺はそんな情けない状態で俺は休憩所のベンチに腰かけている。そして、そんなダメ人間を甲斐甲斐しく介護する娘たち。
「パパ大丈夫? ほらっ、水買ってきたから、飲んで~」
「ごめんなさい……私がお父さんを無理やり乗せたから……」
「い、いや、俺が自分のことを把握していなかったのが悪い」
子供の頃は絶叫マシーンは苦手でもなんでもなかったんだと思うんだけど……。
いや、時間の経過というのは恐ろしい。この歳でここまで苦手なものが追加されるとは思ってもいなかった……。
と、泣き言はここまでだな。せっかく娘たちと遊びに来ているのに時間を無駄にするのももったいない。
「よし、次はもう少し緩やかなものに乗ろう」
「いえ、お父さん。もう少し休んでいてください……あの……私も休みたいですし」
「あー私も! それで休んで食欲があるなら何か食べに行こうよ」
むっ。こいつらがそう言うならいいか……気を使わせているのは申し訳ないけどな……。
「わかった。ありがとう。幸い食欲はそこそこあるからな。それで何が食べたい?」
「うーん、さっき売ってるのを見たけど激辛ホットドックが食べたいかな~」
「私は……ココアチェロスが食べたいです」
「俺はさっぱりした物がいいな。野菜のサンドイッチとか……」
うむ。見事にバラバラだ。
確か向こうにフードコートがあったな……そこに行けばいいか。
でも飯か……就活がうまくいけば俺が提供する立場になるんだよな……。料理なんてあんましたことなかったしなー。
未来は料理上手いし、聞いてみるか……。
「未来、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「はい。なんですか……?」
「いや、実は今日飯に関わる仕事の紹介が来たんだけど、料理って作るの大変か?」
「ええ~! パパ次のお仕事で料理するの!?」
「あっ、まだ確定じゃないんだけどな……もしかしたら働かないかもしれないし」
かなり温度感は高いと言われたけど、もし断られるとかっこ悪いからな……予防線は張っておこう。
なんて考えていたが――。
「私は家族に料理を作るのは大好きだから苦ではないんですけど……えっ? 働かないかもしれないって……お、お父さんってりょ、料理嫌いでした……?」
ん? なんか未来が急に慌て始めたな……こんなに顔に感情を表す未来は珍しい。
「いや、嫌いってわけじゃないと思うぞ。そんなに経験がないから、何とも言えん部分はあるけどな」
「うん? パパってずっと1人暮らしだったんでしょ? 自炊とかしてたんじゃないの?」
「お前社畜をなめるなよ? 料理に時間を割くなら遊びに行くわ」
料理が趣味な社畜ならともかく、普通の社畜は料理などしない。
「経済的にもよくないしな」
「えっ? 自炊の安上がりじゃないの?」
「ふんっ、これだからガキは現実を知らないっていうんだ。いいか。自炊には材料費と光熱費、水道代、さらにそこに俺の時給が発生する。それならそこいらの牛丼チェーン店に行った方が安上がりだ」
「パパって変なことで理論武装するよね……」
ジト目で「こいつダメ人間だぁ」という感じで見る実花さん。
うっせえよ。これが俺だ。急に娘ができても性格までは変えられん。
ん? あれ? 未来の表情が暗いな……俺が自炊を馬鹿にしたからか?
「いや、未来。俺は自炊を馬鹿にした自覚はあるけど、自炊をする人間を馬鹿にしたわけじゃないぞ?」
「パパ……謝る気ある?」
謝る気しかない。
「いえ、そうではなくて……それではお父さんは紹介された企業は断るんですか?」
「いや、そういうわけじゃないぞ。雇ってくれるなら喜んで行く。俺は金と休みさえもらえるなら、仕事は選ばん」
なんせ娘ふたりを養わなければならないからな。
……育てると決めた以上は、金銭面でこいつらの祖父にはあまり頼りたくはないからな。
それだと育てると決めた意味がない……。
「そうですか……」
未来はほっとしたような笑みを浮かべる。
(父親がいつまでも無職じゃ恰好つかないからな……)
こいつらのために早く就職先を決めよう。
そんなことを考えていた。
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