第22話 家族で遊園地(4)

 アトラクションの順番を待っている間、俺はその時間が来るまで、娘たちといろんな話をした……例えば好きな食べ物は未来がロールケーキで実花が四川料理、好きな本は未来が文学小説で実花がバトル漫画だそうだ。

 

 こう聞くと見事に真逆だな……顔は同じなのになぁ……。

 まあ、それは個性が出てるからいいことか……。


「ねぇ、パパの好きな食べ物はなんなの?」


「あっ、私も気になります……」


 ここは小粋なジョークでウィットに返そう。

 真剣に聞いてくるとジョークを絡めたく年頃です。はい。


「ビーフストロガノフと洋ナシのコンポート」


「あっ、それなら私作れます。お父さんのために一生懸命作りますね」


 ま、まずい……うけを狙って適当に言ったけど普通に受け入れられてしまった……自分で言ってなんだけど洋ナシのコンポートってどんな食べ物だ?


「パパ~。真剣に答えてよ~。未来ちゃんはパパの言うことはすぐ信じちゃうんだから~」


「えっ……? 冗談だったんですか?」


 実花は未来の言葉に目を丸くする。怒っているというよりも、冗談がわからなかった自分が恥ずかしいような反応だ。

 

「悪い……いや、今のは俺を普通に責めていい――」


『次の方どうぞ~』


 俺が謝罪の言葉を口にしようとした時、女性従業員の元気な掛け声が耳に届いた。

 どうやら話に夢中で俺たちは順番が来たのに気が付かなかったようだ。


「あっ、順番が来たみたいだね。ふふっ、パパは嘘をついた罰として未来ちゃんとふたり乗りしてね~」


「えっ、ふ、ふたり乗りなんてできるのか?」


「お父さんとふたり……」


「うん! このメリーゴーランドはカップル限定でふたりで乗れるみたい。えへへ、結構密着することになるからかなー。なんなら、乗った人を恐怖のどん底に落とすから乗った後にはもっと仲良くなれるらしいよ? 吊り橋効果的なやつで。なんせ、時速100キロ以上で動くメリーゴーランドだからね~」


 このアトラクション本当に安全面大丈夫か……?

 って――。


「おい待て、カップル限定って――」


「はいはい~。反論は聞きません~。私はロンリーでメリーゴーランドを楽しんでくるから!」


 実花はそうかっこつけて言うと、ひとりゲートの方に行ってしまった……。

 おい、お前自由すぎるだろ……。


「はぁ、仕方ないな……未来嫌だったらひとりで……」


「ううん! い、嫌じゃないです……うん。嫌じゃないです……!」


 普段クールな言動が目立つ未来にしては強い口調で答えた。

 顔もいつもの無表情ではなく、なんらかの強い意志が込められているように思う。


 ま、まあいいか……本人がやる気なら。


「カップル様ですね? こちらへどうぞ」


 俺らカップルに見えるのか? 援助交際のおっさんとか見えない……? 大丈夫?

 それに俺とカップルに見られるのは未来がどう思うか……。


「ふふっ、お父さんとカップル。カップル。カップル」


 だ、大丈夫そうだな……そういえば父親を恋人にしようとする頭のおかしい娘だった……。

 こいつら俺への異常な好感度の高さも問題だよな……油断すると本当に冗談抜きに親子の一線を越えてしまいそうだ……意識を強く持たないと……。


「さあ、行くか……」


「はい……!」


 俺たちは係員に案内されてアトラクションに乗り込む。

 メリーゴーランドの名前通りで、馬やゴンドラ風の乗り物が円上に40台ほど設置されている。見た目は普通のメリーゴーランドに近い。

 しかし1台1台が括り付けられているポールは高さが30メートルほどあり、さらには乗り物に取り付けられているシートベルトはやたら頑丈そうな作りだ。


「……なにこれがハイスピードで走ったり上下したりするの?」


 さっき……遠目で動いてるの見たけど、これかなり早く動くんだよな……。実花が言う通り、明らかに100キロ以上は出てたよ? それに乗ってた人はみんな悲鳴を上げてたし……。

 まあ、男としてこんなものに怖がるわけにもいかない。まして娘の前だ。

 しかし――。


「なあ、こんな狂気の発明に乗るのやめて、ふたりで甘いものでも食べならがらお茶しないか?」


 そんなプライドは安いものだ。俺は時にはプライドを捨てる強さを持っていると自負している。


「それはとても魅力的な提案ですが……却下です……さあ、早く乗りましょう」


 ぎゅっ。


 未来に手を握られ、乗り物に誘導される。

 しかし今の俺にそんなことを気にしている余裕はない。段々と恐怖が心を支配していくのがわかる……。


『きゃあああああああああああああああああああああああああ』


 前に乗っていた人の悲鳴が脳裏によみがえる。大の大人たちが悲鳴を上げるなんて相当なことなんじゃないのか? それほどの恐怖を作り出すことができる機械が目の前にある……そう思うと冷や汗が垂れてくる。


 ま、まずい。絶叫マシーンなんて子供時以来だから気が付かなかったけど……俺って本当に苦手っぽい!

 案の定足まで震えてくるし!


「さあ、行きましょう。最初にお父さんが馬にまたがってください……私が後ろに乗って……その、だ、抱きつきますから……」


 未来の顔が赤い……しかし、俺の顔は真っ青だ……。

 こ、これどういう状況? 自分の今何をしているかもわからなくなってくる。

 やがて未来に背中を押されながら馬に乗り、従業員により、シートベルトを固定される……おい! これ本当に大丈夫なんだろうな! 安全なんだろうな! 


 がたがたと自分の歯音まで聞こえてくる……あっ、これ本気でまずいやつだ!


「ふふっ、お父さん……あったかい」


 むぎゅううううううううう。


 そん中で感じる背中の柔らかい感触、どうやら未来が後ろに乗りぎゅうっと抱きしめてきているようだ。

 普段なら取り乱す場面だが、俺はもう恐怖でそれどころじゃない。


 もし……今願いが1つかなうなら過去に戻ってこの機械を発明した人間を暗殺してやる!


『ピー――――――』


 そんなことを考えてる間に……スタートの音を奏でてアトラクションは静かに動き始めた。

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